0373・武器談義
「では剣を止めて別の武器にするなら何が良いんでしょう? そもそも武器なんて使った事ないですし、何をどう決めて良いかも分からないんです」
「いや、別に剣で良いんじゃないかな? 言ってる事が矛盾しているって思うかもしれないけど、あくまでも僕達は使わないってだけだからね。本人にとって剣が一番使いやすいなら、剣で良いと思うよ」
「そうそう。無理して使い辛い武器を使っても意味無いし、盾を持つのも安定するからね。特にネクロマンサーは狙われやすいから、盾で防げると生存率が上がるし」
「今さら他の武器も……って思うなら、剣を継続で問題ないと思う。要するに剣という武器の特性さえ理解しておけば良いんだ。平均的な武器だという特性をね」
「平均……」
「私も剣を使いますから分かりますが、剣を使う場合は無理をしない事が一番でしょう。長柄に比べればリーチが短く、斧やメイスに比べて威力が出ない。焦らずに戦う武器であり、小回りが効くのです」
「それと、剣って出来る限り急所を狙う武器よ。短剣もそうだけど、適当に攻撃していい武器じゃないの。メイスなんて一番適当に攻撃していい武器だし、斧も威力が高いから割と考えなくてもいいんだけど、剣はそうじゃないから」
「全身鎧を着ている相手を考えれば分かると思う。首元、肘、腰、膝。この辺りの隙間を狙って攻撃するしかないんだよね、剣は。でも斧やメイスなら頭に叩き付けての昏倒も狙える。そういう意味では威力の高い武器は有利なんだ」
「その代わりに斧やメイスは重く、攻撃に失敗すると大きな隙を晒します。それぞれの武器において特性はちゃんと存在しますが、メリットもデメリットもある。とはいえ、それらをきちんと把握しておく事が重要で、この武器は良い悪いと決まっている訳ではありません」
「え? いえ、でも、さっきから……」
「コトブキやトモエが言っているのは、自分達は使わないと言っているだけよ。2人にとっては剣のデメリットの方が大きいという訳ね。でもそれは剣の特性を把握してるからよ。貴女は武器の特性すら理解してないんでしょ? ならそれが分かるくらいまでは、剣を使ってみたら?」
「剣の特性……ですか」
「そうです。ま、剣の特性を本当に知るには、もう一つくらい武器の種類を増やした方が良いかもしれませんけどね。それぞれの武器を比べる事によって、良い悪いも見えてきますし」
「それはあるわね。何事も比べてみないと分からないわ。剣を基準にして、他の武器を使ってみたら分かるんじゃないかしら。ただし、どの武器を使うのかは悩みどころでしょうけども」
「剣とは別のタイプの武器にするか、それとも似たような特性の武器にするのか。そこは悩むところですね。アマロでは大きく変わりすぎると理解できないでしょうし……」
召喚モンスター達が倒してくれているので、その横で僕達は採掘を行っている。今日はフィーゴの代わりにファルを入れているので、なるべく多くの素材を持って帰れるだろう。
それよりも武器に関して悩むのは良いんだけど、ちゃんと戦いもしよう。召喚モンスターに任せて暢気に会話しているのは良くないと思うよ?。
「そうなんですけど、素人にお薦めする武器となると悩むんですよ。盾を使うのであれば片手で扱える武器ですが、それ一つとっても色々ありますからね。剣と組み合わせるのか、それとも敢えて噛み合わないようにするのか」
「私ならメイスかしらね? 思いっきり叩きつけるだけで済むのと、なんといっても耐久力が高いから。元々武器なんて消耗品だし、予備を持っておくのは当たり前のこと。そう考えると耐久力の高い物は間違ってないわ」
「ネクロマンサーですから、武器が壊れても召喚モンスターに任せればいいのですが、その弊害でしょう。普通は予備武器を持っておいて当たり前です。ですので、もう一つ武器スキルを持っても問題ありませんよ」
「もう一つ武器を持つのであれば、できれば盾を持っておきたいので片手で扱える武器が良いですね。剣以外で片手で扱える武器……それに耐久力の事なんて考えてもいませんでした」
「先ほども言いましたが、召喚モンスターがいますからね。そちらに任せれば貴女の武器が壊れても問題ないと言えば確かなのです。それは横に置いておくとして、まずは武器の種類を決めましょう」
「ここで採掘は終わり? だよね。じゃあ、そろそろ入り口に戻りましょう。長く居ても何か意味がある訳じゃないし、何度も通えばそのうち上級になるでしょ」
「だね。ここからは気長にやっていくべきだよ。焦ったって良い事なんて無いし、理想は気付いたら上がってたって感じかな」
僕達は採掘を程好く終わらせて、入り口へと戻る。多少の採掘ポイントは奥に残っているが、そこまで無理して行っても仕方ないのと、時間が無駄に掛かる。この後で豪雪山へも行かなきゃいけないし。
「耐久力なども考えないといけないんですよね? 今まで適当で気にしていませんでしたけど……耐久力の高い武器の方が良いんでしょうか?」
「別に良いとは言えませんよ? あくまでも戦闘の事を考えて耐久力の話をしているだけです。何度も言っていますが、召喚モンスターが居る以上は他の者とは違いますからね。ネクロマンサーの主体は召喚モンスターです」
「だから好きに選んでいいんだけど、この事に関しては他の誰でも変わらないのよ。自分の武器なんて自分の好きに選んで良い訳だしね。それこそ持った時のフィーリングで決めてもいいし」
「それもまた事実なんですよね。自分自身にとって扱いやすいというのは重要ですから。片手で扱うなら斧やメイスに、短槍か矛か。まあ、色々とあります」
「それこそツルハシでも良いんじゃない? 何だかんだといって威力は高いよ、凄く当て難いけど。もしくはハンマー?」
「いやいや、そこは右手にも盾でしょ。あの盾の真ん中に剣が付いているヤツ。あれで突撃すればいいのよ。敵が盾を構えて突っ込んでくるって相当厄介じゃない?」
「まあ、厄介ですけど……それ魔物に通用しますか? 人間種相手ならば通用するでしょうけど、魔物相手だと体重で弾き飛ばされかねません。後ツルハシも駄目ですね、素人では使い熟すのは無理です」
「そっかー。騎兵を引き摺り下ろすバトルフックとかあったから、それつながりでツルハシを言ってみたんだけどね。それで何か気になる物はあった?」
「うーん………。リーチが長いのが良いかなー……とは思っています。確かに長い物で近付かずに攻撃できるのは有利かなと」
「長柄でも短い物になるけどね。片手に盾を持つ以上、長すぎると碌に持てないから。それでも全長で1メートル50センチはいけるかな? 筋力にもよるだろうけど、後は慣れで何とかなるでしょ」
「となると短槍か矛かですね。片手で斬撃系の薙刀は無理ですから、どうしても刺突系になります。あれなら片手でも使えますから」
「刺突オンリーなら穂先は細めか、それとも木の葉型にしてしまった方がいいね。元々古代の矛は木の葉型の穂先だったと聞くし」
「色々な武器があるんですね。とりあえずプレイヤーマーケットで探してみます」
「この後は豪雪山だし、バイゼル山も経由するんだから掘ってコトブキに渡したら? あそこって鉄が採れるから、魔鉄も作れるわよね?」
「できるよ。それに僕も予備の為に鉄を掘りに行かなきゃいけないんだ。一緒に行けばいいよ」
「宜しくお願いします」
そろそろ入り口だけど、どうやら槍か矛を作る事になりそうだ。どっちが良いかと言われたら矛だね。そっちの方が僕の経験になる。




