0368・依頼の終わり
リーダー格のメイドは突っ込んで来ないので、こちらから行く。向こうは冷静に対処しようとしているのだが、申し訳ないけど僕は付き合ってやる気が無い。
「【疾風突き】、【内返し】、【速突き】、【天地切り】……チッ!」
「流石に見た事が無いスキルはちょっと焦ったけど、かわせなくはないね。しかし、思っているより厄介な感じだな。この1人だけ、ちょっとレベルが違うぞ?」
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<ディグルネイス> NPC Lv22
種族:グレーターサキュバス
メイン職業:魔隷師
サブ職業:呪術士
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呪術士ねえ……。初めて見たけど、コレの所為でホワイト・デスは操られてるのか。となると、このメイドを殺せば解除される? でもコイツが一番重要な情報源なんだよなー。
僕がそう思いつつ戦っていると、リーダー格のメイドは僕を見て「ニヤリ」とした。おそらく情報源として殺せないのを分かったうえで、<呪心紋>を使って僕達にホワイト・デスを嗾けている訳だ。
つまり呪術士を殺さない限り、あの呪いを利用し続ける事が出来るんだろう。それにしても……イラッとするな、コイツ。
僕は真っ直ぐ槍を突き、相手にかわされたところで右下から石突を跳ね上げる。相手はそれもバックステップで回避した後で短剣で突いてきたが、僕はそのまま回転しつつ身を屈め、後ろ回しの水面蹴りを行う。
それを受けたリーダー格のメイドは転倒。そして起き上がろうとした瞬間、僕の突きが右足に突き刺さる。
「ガッ!? ……来い!!!」
「グルァァァァ!!!」
ホワイト・デスが皆を押し退けて無理矢理やってきた。そのままブレスを吐くものの、僕は横っ飛びでかわして距離をとる。どうやらリーダー格のメイドは回復出来ないらしく、足を引き摺っている。
死なば諸共で来たのか、それとも余計な物は持ち込めなかったのか。どのみち回復用のポーション類まで持ってなかったのが運の尽きさ。ホワイト・デスはブレスを吐くのを止めて噛みつきに来たが、僕は冷静に槍を向ける。
流石に槍の穂先に突っ込んで来る事はせず、僕に対して唸るホワイト・デス。しかしその隙に仲間達はリーダー格のメイドを攻撃しており、呪心紋とやらで無理矢理に動かされる。ホワイト・デスにとっては、お荷物でしかないな。
僕は後ろを向いたホワイト・デスに素早く近付き、【生命力操作】を使って流し込む。その生命力を受けたホワイト・デスは一瞬硬直し、動かなくなった。確率は低いと思ってたけど、予想通りに効いてるね?。
「早く私を助けろ!!」
「グルゥ!!」
再び動き出したが、どこか動きが鈍いホワイト・デス。それを見た僕は皆に指示を出す。
「<呪心紋>とやらは弱められる。そいつは殺さないようにボコボコにしてくれ。ホワイト・デスを動かなくしたら、すぐに枷を着ける!」
皆は了承の返事を返してくれ、リーダー格のメイドをボコる事にシフトした。他のメンバーは黒い虎や真っ赤な蛇、青い鶏とまだ戦っている。あれらもボスクラスに強いみたいだ。
とはいえ<呪心紋>とやらが付いているのはホワイト・デスだけなので、あれらは普通の支配モンスターなんだろう。魔隷師が死んでいないので、未だ戦いを止めない。これが厄介だな、魔隷師は。
僕は再び隙をついてホワイト・デスに近付き、手で触れながら生命力を流す。それだけでは硬直させる事しか出来ないが、それでも動かなくは出来るので相当有利に働く。
「クソッ! さっさと私を助けろ!! ノロマめ!」
「グル……」
段々と動きが鈍っているのはホワイト・デスも呪いに抵抗してるんじゃなかろうか? 僕は更に生命力を注ぎ動きを鈍らせると、セナがヌンチャクを頭に叩きつけたのを見て一気に接近する。
そして素早く煉獄の枷を嵌めてしまい、その後はホワイト・デスに更に生命力を注ごうと振り向くと、ホワイト・デスが噛みつきに来た。
僕は一瞬の判断でリーダー格のメイドを突き飛ばしたが、その御蔭もあって難を逃れるのに成功。噛み殺されそうになっていたのは、僕じゃなくてリーダー格のメイドだ。
「気持ちは分かる。呪いで操られたらしいし、君は誇り高いとも聞いているからね。でもコイツは僕達が倒したんだ。いわば僕達の獲物であって、君に横から獲られる筋合いは無い」
「………」
僕とホワイト・デスは互いに睨み合う。自然界においては負けた方が悪いんだよ。少なくともこのホワイト・デスは負けて<呪心紋>を付けられている。その敗北は認めるべきだ。他の誰でもない、自分が負けたのだから。
僕達が互いに睨み合っていると、ラスティアとキャスティも近付いてきた。
「ホワイト・デス。おそらくだけど私とキャスティとコトブキで生命力を注げば、その<呪心紋>は破壊できる筈。コトブキが言ったように、その女は私達の獲物。それを横から奪うのは筋が通らないわ」
「そうですね。ここは<呪心紋>の解除で手を打ちませんか? こちらはそちらと争うつもりはありませんよ。あくまでも、そこの女が目的なのです」
「……グル」
ホワイト・デスは悩んでいたようだが、考えが纏まったのか、目を閉じて伏せた。僕達はお互いに頷き、ホワイト・デスに近寄ると【生命力操作】を使い生命力を注ぐ。
ホワイト・デスが白く輝くと<呪心紋>は壊れ、完全に解除されたようだ。僕達が安堵の息を吐くと、目を開けたホワイト・デスは「ウォォォォン!!!」と叫んだ後、走って去って行った。
物凄い速さだなと思うも、他のメンバーが戦闘中だったのを思い出し、僕も慌てて参加する。ラスティアとキャスティには再び女王の護衛に戻ってもらい、最後までしっかり倒しきろう。
トモエ達の方に走って行ったけど、残っていたのは黒い虎だけで、そいつは僕が到着する前にリナに倒された。結局、僕が活躍できるところは無かったらしい。
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種族レベルが上がりました
メイン職業:ネクロマンサー・下級のレベルが上がりました
使い魔:ラスティアの種族レベルが上がりました
使い魔:キャスティの種族レベルが上がりました
召喚モンスター:セナのレベルが上がりました
召喚モンスター:ドースのレベルが上がりました
召喚モンスター:フォグのレベルが上がりました
召喚モンスター:フィーゴのレベルが上がりました
召喚モンスター:シグマのレベルが上がりました
召喚モンスター:セスのレベルが上がりました
召喚モンスター:エストのレベルが上がりました
召喚モンスター:エストのレベルが上がりました
召喚モンスター:エストのレベルが上がりました
召喚モンスター:エストのレベルが上がりました
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「「「「「「「「「「おぉぉぉーーーーっ!!!!!」」」」」」」」」」
倒し終わった瞬間、物凄く大きな歓声が周囲から響いたが、どうやら周りの貴族家から観戦している人が沢山いたらしい。何だか娯楽にされている気がするが、文句を言われたり面倒な絡み方をされるよりはマシかな。
そんな事を考えていると、王城の方から集団がこっちに歩いてきた。あそこまでの集団だと、一目でマリアさんだと分かる。一応女王様に対する態度でいないとね。
近くまで来たマリアさんに対し、女王が変装の魔道具を解いて歩み出る。
「お久しぶりですね、マリアトゥーラ女王」
「お久しぶりね、シェルファーナ女王。今回は私達の想定外が頻発したようだけど、それもまた良かったと思える結果ではないかしら?」
「それは?」
「その話は城で致しましょう、ここでは耳目が多すぎるわ。貴方達はどうする? 晩餐に招待してもいいけれど?」
「「謹んで、辞退させていただきます」」
「クスッ。まあ、貴方達ならそう言うでしょうね。後日、こちらからも褒美を渡します。いつも通り、<破滅>殿の屋敷でね」
「「畏まりました」」
それだけを言い、僕達は回れ右して貴族街を出て行く。マリアトゥーラさんが直に来た以上は僕達の護衛も終わりだろう。
最後まで責任を持ってと思うかもしれないが、そもそも王都トゥーラまでなんだよね、護衛は。強引な解釈をするなら、王都に入った時点で護衛は終わりとも言える訳で……。
ま、お城に行きたくない理由を無理矢理に捻り出したら、そんな感じかな。




