0036・運営さん達01
2000年 7月24日 月曜日
「やっと始まりましたね。ベータ終了後もアルファチームを使っては、ひたすらデバッグと調整。いい加減に吐き気がしそうな期間を乗り越えて、やっと正式サービス開始ですよ。一部吐いてた連中も居ましたけど」
「奴等は貴い犠牲になったのだ……何ていう事は無いが、お疲れさん。ここまで正式サービスがズレ込んだのは特殊NPCの育成に手間取った所為だけどな。特に<破滅>、アレ絶対におかしいぞ?」
「<セントラル>からは異常無しって言われ続けてますけどね、アレも個性だと。シャレになってませんけど」
『五月蝿いぞ、神ども。妾の所に阿呆な奴など寄越してみよ、お前達の想定なぞ叩き潰してくれるからな!!』
「何でゲームのNPCに怒られなきゃならんのか。まあ、我々が望んだキャラクター達ではあるのだが、<八聖人>も<八魔女>もおかし過ぎる。何故こうなったんだ? もっと人間臭いキャラクターを期待してた筈なのに……いや、むしろ人間臭いのか?」
ここは<レトロワールド>管理運営室。中央管理AI<セントラル>、そしてその下に連なるそれぞれのAI及びシステムが鎮座している。
イベント制御AI<キング>、NPC制御AI<クイーン>、モンスター制御AI<ジャック>、ダンジョン制御AI<エース>、掲示板監視AI<ジョーカー>。無数のAIがそれぞれ動き、自らの為すべき仕事を熟す。
セントラルのAIは全てを司るが、多くの事は汎用AIで事足りる。わざわざ専用AIを作り上げたのは、それだけ深くゲームを作りこむ為と制御する為である。<レトロワールド>は名前だけで、実は最新技術の塊なのだ。
「さて、時間が来たので早速ログインしてキャラ作ってくれてる連中が多いな。俺達の作った世界がこれで更に拡張されていく。今回のコレを雛形として、新たなゲーム作りが出来るようになるからなぁ。ユーザーの諸君、頼むぞ」
「本当に……おかしな事にならなければ、これ以降のプロジェクトも進みますからね。私達にとっても、このゲームは大事です。お金儲けの為のゲームとは根本的に違いますから」
「その分苦労したから、差し引き……どうなんだろ? まあ、いいや。思い出したくもない。それはともかくとして、やっぱり有名プロゲーマーの諸君が来てるねー。彼等が落とし穴に嵌まるのはいつかな?」
「今までのゲームと違い、フレーム数でどうこうと言う奴ほど落とし穴に嵌まってもがく事になる。このゲームは頭空っぽで楽しむ方が上手くいくように設計してあるからな。真面目に誰かから学び、コツコツと積み上げた奴が勝者だ」
「自分が知っていても、ゲームアバターが知っているとは限らない。ゲームアバターにも教えなければ上昇しない、そういう隠しパラメータが多数ありますからね。その所為で地獄を見たんですけど」
「まあ、そう言うな。その結果、非常に面白いゲームになったんだから、むしろ誇っていい。特に死ねば隠しパラメータも戻されるからな。ゾンビアタックみたいにやってると、アバターがいつまで経っても学習しない……なんて事になる」
『プレイヤーの中に<破滅のエンリエッタ>の居る<屍人の森>から始まった者が現れました』
「「「「「「「「「「もう!?」」」」」」」」」」」
「メインモニターに出せ、セントラル! 場合によってはプレイヤーにトラウマを……ってコレ、双子の悪魔の弟じゃないか!? そのうえ<破滅>は何をやってるんだ?」
「……見た目をリッチに変えて遊んでるんじゃないですかね? つーか、流石は双子の悪魔。どっちもおかしいですけど、流石はネジの緩んだ弟の方ですね……トライボーンウルフに恐怖してない」
「本当だ、状態異常が付いてないぞ……相変わらず、頭のおかしい子供だ。我々が若かりし頃に作った、未だに大不評のゲームを好むだけはある」
「ああ<BUSHIDO>と<ナイトロード>ですか。正直に言って、アレってまともな人間のやるゲームじゃないですよね? 一度やって、作った連中は頭がおかしいと思いましたよ」
「まあな。あの頃は皆尖ってたんだよ。その結果の黒歴史みたいなもんだ。一部の武術家からは絶賛されたけどな、殺し合いが楽しめるって」
『どうやら<破滅のエンリエッタ>は弟子にしたようです。見た目の勝利でしょう』
『ちがうわ! 妾が見た目しか見ておらんかのように言うな!!』
「歩いている間にこっちと喋るって器用なことするなぁ。わざわざ反応している暇ないだろうに……」
「あっと、どうやら<八聖人>の近くから始まったプレイヤーも出たようです。一番厄介な<破滅>が問題ないみたいですし、このまま推移していくでしょう。面食いですし」
『顔で選んでおらんと言うとろうが!!』
「「「「「「「「「「絶対顔だ……」」」」」」」」」」
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2000年 7月25日 火曜日
「あれ? <支配>が弟子をとってる? ……あー、これ双子の悪魔の姉の方だ。成る程、成る程。相変わらず憎たらしくなるほどの体してるわねえ……。特に問題ないし、内部数値的にも悪くなし、と」
「おっ、<支配>も弟子を持ったんだ。これで<八魔女>のうち半数が弟子持ちかー……意外に上手くいった方かな? そもそも弟子にするかどうかは各々に任せて、我々すらノータッチだからねえ」
「<八聖人>なんて、まだ2人だけですよ。あいつらプライド高いから、何度かイベントで負けないと火が着かないでしょうね。その頃には魔女側に大分リードされてるでしょうけど。後、双子の悪魔の弟君が怖ろしい事になりそうだし」
「って言ってたら、早速2つも称号獲得してるんだけど? ……【卑怯者】と【剛速球】かー。特に問題ないね。そこまで効果の強いものでもないし」
「あー……コレ、ちょっと待ってください。レアが2つも出てるんですけど? 確かブラッディアの貴族にフラグ持ってるの居なかった?」
『バカンド子爵です。そしてプレイヤー<コトブキ>がフラグをONにしました』
「あっちゃー……この後どうなりそう?」
『盗賊である<血斧のアセモ>を倒せるかどうかで分岐します。倒せれば<破滅のエンリエッタ>が問答無用で解決という形、盗賊に負ければ奪われて終わりとなります』
「うーん……どっちが良いかは微妙?」
「微妙。バカンド子爵は名前からも分かる通り一発屋。ここで使われなくても、別のイベントで破滅するね。それはもっと後だけど、どっちでも単発イベで他と絡み無し。やっぱりどっちでも良いよ」
「了解。なら何も無しで、って早速出た」
『レッドネーム<血斧のアセモ>。レベルは1ですが、職業は<凶賊>です。他の者は盗賊レベル4となります』
「<凶賊>って事はレベル15以上か……盗賊系らしい斧ブンブン丸だけど、流石に勝てないだろうなあ」
「いやいや、早速石投げてますけど? しかもその後で綺麗にタックルして2人転倒させてますし、挙句の果てに相手の槍を弾いて飛ばしてますよ。誰です、この達人?」
「おお! 見てみろ、流石は<BUSHIDO>を好むだけある。普通に強、って酷いなコレ」
「うわぁ……転倒させておいて足持ち上げてボッコボコですよ。あーあー、股間は反則だよ、股間は」
「いやいや、鋲つきのサンダルでのストンピングも十分に反則だろ。こんなもん出血多量で死ぬわ。そのうえ敵に<出血>の状態異常ついてるじゃないか!」
「こりゃ弟君が勝つなぁ……いやいや流石だよ。<BUSHIDO>の世界の者なら、何をやってでも勝たないとねえ」
「変人を作り出すゲームって、どうなんでしょう?」
「さあ……?」




