0359・真相と移動
「ふむ。つまり第一王女シャルーファと思っておったら、女王のシェルファーナだったと。で、そなたは話せるのか? ここまで来たら、ある程度は話さんと治まらんと思うが……」
「……ええ、話せるところは話しましょう。元々今回の事は、私がブラッディアの女王マリアトゥーラ殿との会談を行う事が始まり。そして会談を行うにあたって、長女であるシャルーファを先行させて場を整えさせる事に決めた。そこまでは良かったのです」
「もしかして、その行動が時期女王としての立場固めか何かに見えてしまい、その所為で周囲は動き出してしまった?」
「ええ。まったくもって仰る通りです、<純潔のキャスティ>殿。周りの者が一旦動き出すと止めようがありませんでした。長女の代わりに次女にしろ、あるいは三女にしろと五月蝿く……」
「まあ、裏についておる者どもにとっては、長女を蹴落とすと同時に自身が後ろ盾となっておる王女を押し上げるチャンス。どう足掻いても蠢動するであろうな。そんな事は考えずとも分かる」
「そうなのです。そしてこの流れは止められないと思った私達は、敢えて利用する方向に舵をきりました。それが、私とシャルーファの交代です。シャルーファが私の姿をしている間は命を奪おうとする者も居ないでしょう。そして……」
「貴女を襲ってきた者が居れば叩き潰し、背後関係を洗えば女王に手を出したとして処分出来る。そういう流れ?」
「ええ、それで間違いありません。その為にマリアトゥーラ女王にも協力をお願いしたのです。そして実力はあるが若く舐められやすい護衛、という難しい人選をサイン殿に頼んだ結果……」
「コトブキとトモエに白羽の矢が立ったという事か。それは分かったが、何故ラスティアはおかしいと思ったのだ?」
「その変装に使ってる魔道具。昔の暗殺組織でもよく使ってた物なのよ。懐かしいったらなかったわ」
「ああ、そういう事ですか。だからすぐに変装していると分かり、あんな不審者を見る顔をしていたのですね。となると知っている者にはバレてしまう程度の物でしかない……と?」
「それで問題ありません。襲ってきた者は叩き潰し、捕まえた後でブラッディアに勾留。背後関係を洗う手はずになっていますから。マリアトゥーラ女王が知っているというのは、そういう事です」
「それなら上手くいきますか。どうせ潰した者どもを放って先へ進むと、影に呑まれるんでしょうしね」
「それはともかく、裏は分かったんだからそろそろ行きましょうか。ここから歩いて進まなくちゃいけないんだし。王都に行くのはそれなりに時間が掛かるわよ?」
「まさか転移札を持っているとは思いませんでした。シャルーファの安全を考えて使ったのでしょうが……」
「まあ、囮の効果は物凄く減ったわねえ。でも拒否したり、断れば良かったじゃない? 何でしなかったの?」
「シャルーファの安全を考えての事なのに、それを本人が否定するのですか? どう考えても怪しくなります。拒否する正当な理由を私は思いつきません。わざわざ転移魔法陣は使えないとしたのに、こんな裏技を使われるとは……」
「あー………それは、ご愁傷様。最短最良を考えたら、迷う事無くコトブキなら使うわ。どう考えてもね」
「雑談はここまでにして、さっさと進もう。少なくとも町までは行きたい。村で泊まるのは面倒臭いしね。あそこ偏屈爺さんとか居るし」
そう声を掛けて雑談状態に陥っていた雰囲気を切り替える。王女様だろうが女王様だろうが、貴人護衛である事に変わりはない。僕達は師匠の家を出ると、女王様をドースに乗せて進んで行く。
僕達も早歩きぐらいの速度で進んで行くものの、暗殺者とかは全く見当たらない。
「それはそうでしょ。基本的に暗殺っていうのは下見に下見を重ねて、決行直前にも下見をするのよ。それぐらい事前準備に時間を掛けるし、掛けなきゃいけない事でもあるの。それをコトブキがぶった切ったから」
「幾つもの地点で襲撃を考えていたでしょうね、暗殺者達は。ところが転移札という道具一つで全てが引っ繰り返されました。今ごろは大慌てを通り越して、阿鼻叫喚でしょうかね?」
「全く考えになかった事をされたでしょうからね。転移魔法陣を使わないって事も、それとなく情報として流した筈。当然、相手は転移魔法陣を使わない想定で様々に策を練ったでしょう」
「もちろん転移魔法陣を使う場合の策も練っているでしょう。相手は万全の態勢を整えて襲おうと思っていたら、一人が意味不明な事を行い、全てが強制的に白紙に戻された訳です。知っている私達からすれば面白いですけど、構えていた者達は……」
「パニックになっているか、怒り狂っているか。どちらにしても、サキュリアからブラッディアへは東へと進まなきゃいけない。でも私達は西に進んでる。その途中に何処まで配置しているかね」
「正規ルートに比べれば極端に少ないでしょうけどね。だからこそ優秀な者達を配置しているかもしれません。王都トゥーラかその近くに配置しておき、最後に襲わせる者達を動かせば対応してくるでしょう」
「素早く手紙でも届けさせれば十分間に合うわね。元々油断なんてする気は無いけど相手は魔隷師だし、色々警戒した方がいいわ。それにゴロツキを雇うパターンも想定しないと」
「ああ、ゴロツキに襲わせておいて、本命を紛れ込ませるという訳ですか。となると矢でしょうかね? ゴロツキは唯の囮であり、肉壁でしかないでしょうから」
「ゴロツキ程度ならコトブキの召喚モンスターか、トモエの支配モンスターで蹂躙できるから、私達は暗殺に警戒した方がいいわね。どっちも暴れるの得意だし」
「分かりますけど、シグマとセスにリナとリーダは女王の護衛に回しましょう。後の者達でも十分に蹂躙できます。情け容赦は欠片もありませんし、どちらも主にそっくりですから」
「本当に容赦の欠片も無いわよね。突撃するのも居れば、静かに敵を殺すのも居るしさ」
「でも敵を殺すという部分は全くブレないんですよ。どれだけ殺したいのでしょうか? たまに先を競って殺しに行きますしね。戦闘に飢えている、なんて事は無い筈なんですが……」
「毎日殺し合いをしておいて、まだ足りないっていうのもねえ……」
「………」
殺し合いなんて言い方をしてるけど、魔物の狩りなんだから普通の事だよ。狩人だって毎日魔物を狩って生活してるのに、僕達がおかしいっていうのは止めてほしいね。
ダンジョンを通過してアトー村へと辿り着いた。途中、トイレ休憩とか色々あったけど、それでも早歩きで来ただけあって昼に到着。とりあえずセナとセスを護衛にして、女王はトイレへ。
その間に僕はマイルームへと戻り昼食を買って戻ってくる。アトー村の入り口近くにある木の下で休憩しつつ、マイルームから持ってきた昼食を配る。僕とトモエは急いで食べてログアウト。リアルへと戻った。
現実でも昼食を食べてトイレに行き、雑事を熟したら自分の部屋へ。流石に2人での護衛なので、珍しくトモエが雑事を手伝ってくれたよ。「明日は槍が降るのかなー?」って言ったら蹴られたけど。
ログインしてゲームに戻る。僕達のアバターも無事だったので問題はなく、休憩も十分に出来たようなので出発。隣のドゥエルト町には今日中に着いておきたい。
アトー村で昼なら十分に間に合う筈なんだけど、出来れば早めに着いて宿を確保しておきたいから急ごう。再び女王にはドースに乗ってもらって進んで行く。
まだ護衛初日だから暗殺者は来ないと思うけど、明日からは本番だ。今日でなるべく距離を稼ぎたいけど、徒歩となるとこんな速度でしか移動出来ないんだよね。
それでも普通の人よりは速いんだけど……。




