0358・第一王女シャルーファ?
「ブラッディアと聞きましたが、ブラッディアの何処でしょう? おそらくは王都トゥーラだと思うのですが……」
「ええ、そうよ。向こうには既に受け入れを頼んであるわ。後は娘のシャルーファを王都トゥーラまで連れて行ってほしいのだけれど……」
「何か?」
「ごめんなさいね、転移魔法陣は使えないわ。使うと行き先が特定されてしまうのよ。次女の後ろ盾の者達と、三女の後ろ盾の者達が狙ってるわ。こういう揉め事は国が疲弊するだけだというのに……」
「本当にね。さっきも言ってたけど、隙を見せても無視してくれるのはブラッディアぐらいよ。あそこはアンデッドの国だから、周りに興味が無いし、周りの国もブラッディアには興味が無い。あってもビスティオぐらいね」
「あそこも最近は方針転換したと聞くわ。何でも天使の星に攻め込もうと考えてるみたいね。私も詳しい事は知らないけれど」
「あの、王女様はドレスのまま移動されるという事はありませんよね……? それだと狙ってくれと言わんばかりになってしまいますので、流石に……」
「もちろんよ。そもそもサキュリアの王女は必ず魔隷師の訓練を受けるの、最後には自分で自分の身を守るしかないからだけど。だからこそ絶対に裏切らない支配モンスターを味方につけておくの」
「では、王女様も……?」
「ええ。と言っても、王城で飼っていても不審に思われない者でなければ駄目なのだけれどもね。娘はフラッシュ・クロウを支配しているわ」
「ああ、あの光るクソカラス、っと……」
「……まあ、戦った事があるなら気持ちは分かるけどね。もうちょっと言い方というものを考えなさい、トモエ」
「はーい」
「……とりあえず、シャルーファの着替えと準備が終わったら出発してちょうだい。移動には結構な時間が掛かるでしょうけど、無事に送り届けてくれると信じているわ。大丈夫でしょう?」
「ええ、おそらく問題はないと思います。師匠からも色々とサキュリアの暗殺者について聞いていますし、「弟子を舐めるという事は、師である妾を舐めるという事ぞ」。と言っていましたので、師匠の面目の為にも殺します」
「「「………」」」
「何故か沈黙してるけど、エンリエッタさん関係なく、これがいつものコトブキなんだけどね? 師匠が師匠なら弟子も弟子って、ラスティアも言ってたし」
「そろそろ貴女は別室で着替、ラスティア……? それは【色欲】のラスティアの事かしら?」
「ええ。【色欲】のラスティアと【純潔】のキャスティ。この2人はコトブキの使い魔だから、普通に知りあいですけど……?」
王女様はラスティアの事を知らないからか、そのまま隣の部屋に行ったけど、女王様はえらく驚いてるね? 何故かは分からないけど、ラスティアとの間に何かあったんだろうか?。
「少年はよく分かっていないみたいだけど、ラスティアはサキュリアの誇りでもあり汚点でもあるのよ。魔隷師でもないのに悪魔となった者であり、それも踊り子であり暗殺者。サキュリアにとっては手放しでは褒められないの」
「ええ。特に古い時代だからこそと言える正統派の暗殺者。今はああいう暗殺者はもう居ないの。支配モンスターを用いた暗殺が主流だし、暗殺者も色々な手管を使えるからでしょうけど……」
「でもねー。ラスティアの暗殺は、女性の体を使った暗殺なのよ。それはサキュバスにとっては誉れでもあるの。多くの者を篭絡する魅力、それを存分に活かした暗殺という事になるわ。私としても「良くやった!」と思う部分はあるし」
「その辺りは実にサキュバスらしいと思うけど、何故今は行う人が居ないの? 誉れでもあるんでしょ?」
「幾らサキュバスといえども、不特定多数の男はちょっと……と思うわよ、普通は。あそこまで、あっけらかんと男を誘える女も珍しいのよ。ラスティアの場合は孤児から始まっての寂しさもあったんでしょうけどね」
「ああ、それは確「お待たせしました」かにそう……」
トモエが喋ってると王女様が隣の部屋から出てきた。庶民の着る服であり、旅装一式という姿だ。厚い布で作られた服とズボンに、大きなバックパックに分厚い革のブーツ。そして顔を覆えるフード付きのローブ。
「さて、準備も出来たならすぐに動きましょうか。私が王都を出るまでは一緒に居てあけるけど、それ以降は少年達に頼むわね」
「はい」
僕達は挨拶をして部屋を後にし、サインさんの後ろをついていく。王女様は女王様とお別れしてからだけど。
僕が思いついた事はサインさんが離れてからの方がいいな。そう思いつつ後をついていくと、食堂のような場所に入り更に奥へと進む。
厨房の更に裏、食材の搬入口のような場所から外に出て、そのまま王城から離れるように歩いていく。後ろを振り返ってみると大きな城が見えたが、もう2度と来る事も無いなと思った。
そのままサインさんについていき、王都の入り口でちょっと待たされたものの無事に通過。外へと出た。
フードを深く被ったままの王女様は大丈夫かなと思うも、それより先にサインさんが口を開く。
「それじゃあ申し訳ないけど、私はそろそろ行くわね。道中色々とあるとは思うけど、貴方達なら無事でしょう。頑張ってね」
そう言うと、サインさんは転移魔法で消えていった。僕達は残されたもののすぐに歩きだし、王女様に質問する。
「王女様。幾つか質問したい事があるんですが、良いでしょうか?」
「私の事は気軽にシャルーファと呼んで下さい」
「それでは周囲にバレてしまいますので、シャルとお呼びします。シャルは必ず歩いて行けと言われましたか? それとも馬車などに乗るのは問題ないと考えていいですか?」
「特に歩きで行けとは指示されておりません。私のフロウは……あのように上を飛んでおりますが、私に乗れる支配モンスターが居れば許可されたでしょう」
「そうですか……」
「ドースを出すって事?」
「ううん。ドースに乗ったところで王女様だけだから、そんな事をしても大して速くならない」
「だったら、どうすんのよ?」
「………これを使うんだ」
「……木の板、でしょうか……?」
「あー……転移札を使うのかー。相変わらず、こう、反則的な事を思いつくわね。確かに転移札でエンリエッタさんの所に飛んだ方が早いわ。そこは既にブラッディア国内なんだし」
「そう。この国の暗殺者といえども、簡単には動けない。サキュリアの中なら好き勝手に出来ても、ブラッディアじゃ相手にも枷が嵌まる。どのみち襲ってくるとは思うけど、それはサキュリアほど簡単じゃない筈」
僕はシャルに話してから手を繋ぎ、フラッシュ・クロウを下ろすと、魔石も使って転移札を使用。いつもの風景である、師匠の家の前まで飛んだ。
シャルは急に風景が変わったのでキョロキョロしているが、その後にトモエも飛んできた。
「さて、トモエも来たし、師匠の家から西にある王都まで行こうか。一度行った事があるから道は分かるし、とりあえず仲間達を呼ぶよ」
僕はそう言って召喚モンスター達を呼び、トモエも支配モンスター達を呼ぶ。僕達の準備が整うとラスティアが声をかけてきた。
「コトブキ、あの子がサキュリアの王女?」
「そう。第一王女シャルーファ様だよ」
「ふーん……」
「何かあったのですか? 貴女が不審人物を見るような目つきなのは珍しいですね」
「だってねえ………そうりゃあ!!」
「キャーーーー!!!」
あれ? 「キャー」の声がシャルーファさんじゃないぞ? もっと低い年上の、ってまさか!!。
「うう……まさかここまであっさりと見破られるとは思わなかったわ」
「貴女だれ?」
「ゴホン。私はサキュリアの女王シェルファーナよ。今回の事はちょっと事情があって、こうなってるの」
「……とりあえず、どういう事か詳しく話しなさい。っていうか、<破滅>も混ぜた方がいいわね」
どうやら師匠も巻き込む気らしい。事と次第によれば、ブラッディアの王城も知っているというかグルだからだろう。




