0356・次なる依頼は?
魔隠石を採って脱出してきた僕達は、一旦ディディの町へと移動。邪魔にならない場所で僕とトモエはマイルームへと退避、魔石を倉庫から出して戻った。
魔力が回復するまで休憩し、僕は一足先に【昏睡眠】で回復しておく。適当な雑談をしつつトモエの回復を待ち、それが終わったら転移札で師匠の家へと転移。ようやく帰ってくる事が出来た。
魔力が結構減っているものの、僕達はサインさんの屋敷への転移魔法陣へと乗り移動。トモエにノックをしてもらい、出てきた妖精のウィッシュさんに案内してもらう。
時間が時間であるものの、魔隠石を手に入れてきた事を確認してもらうと、明日もう1度来るようにと言われた。
「俺やナツやイルは明日は無理だけど、コトブキとトモエだけで何とかなりますか? 流石に明日は無理なんで俺達は戦力になれないんですけど……」
「ごめんなさいね。向こうも時間があまりとれないのよ。それなりに逼迫していてね、少年とトモエだけで十分だと思うわ。元々はそのつもりだったのよ。だから2人で何とかなるでしょう」
「師匠、いったいどんな仕事を依頼するつもりなの? 依頼はするけど魔隠穴に行け、石を採ってこいだし。それが終わったら依頼するって言ってたわよね?」
「申し訳ないんだけど、依頼内容を知る者は少なければ少ないほど良いの。そもそもこの依頼を知っているのは私だけなうえ、他の者に知られる訳にはいかない理由がある。本来なら、この依頼以外にも別にあったんだけどね」
「他にもあった?」
「幾つかの仕事があったんだけど、これだけ早く初見の魔隠穴を攻略出来るなら、一番難しい依頼を頼めるのよ。それが情報をなるべく出したくない仕事なわけ」
「師匠がもったいぶってるんじゃなくて、相手の都合で出せないって訳ね。それなら仕方ないかぁ……」
「相変わらず、貴女という人は……!」
「はいはい。師匠第一主義だから怒るんでしょうけど、普通に考えれば説明も無しにいきなりやれは、相当ヤバい仕事の証なんだけどね。有無を言わせない為に直前まで黙る訳だし、その時点で普通は近付かないわよ」
「まあ、トモエの言っている事も事実だから仕方ないのだけれど、少なくともトモエと少年は明日来なさいね」
「はあ……分かりました。では時間も遅いので、僕達は失礼します」
そう言って席を立ち、僕達はサインさんの屋敷を後にした。言葉は悪いがトモエの言う通りであり、何を依頼されるか事前に知る事が出来ないというのは、相当にヤバい仕事の証だろう。
気乗りしないし嫌な予感がする。相当に面倒臭い仕事か、それとも危険か、はたまた随分と上の者からの依頼か。おそらくはこの3つのどれかだろう。
師匠の家に戻るとファルに夕食の準備に行ってもらい、僕達は夕食が出来るまでの話し合いを始める。
「ディディの町への転移札は僕が持ってるけど、飛びたいなら朝に行こうか? 豪雪山とかウェズベア森ならともかく、ディディの町へは僕が作ってもらった転移札でしか行けないしね」
「そうだな。朝一で行って帰ってくるって事をしなきゃならないし、俺達も<魔石・中>を集めてコトブキに売るか。そうすりゃ移動分の魔石も集まるだろうし。後はコトブキの出す武具でも適当に買えばプラスになるだろ」
「面倒で迂回させる形にしなきゃいけないけど、お互いにお金を出し合ってるのが一番マシ。タダであげたりすると、どうしてもそれが当たり前になっていく。そういう事で揉めるのも面倒」
「まあ、分かるよ。私もこういうゲーム初めてやるけど、そういうのはちゃんとしておいた方が良いって思うし、中には私みたいな初心者を騙す人とか居るらしいしね。見せてもらうフリして渡してもらったら逃げるらしいよ?」
「レアアイテムとかは特に狙われやすいんだよ。特にレアを手に入れたら周囲に分かるようになってるゲーム。レアアイテムを手に入れて素直に喜ぶヤツばっかじゃねーし、あんなものPKどもに狙われるだけだ」
「碌な仕様じゃないわよねー。演出か何か知らないけど、余計な事はしないでほしいわよ。レアが出たか出てないか、そんなのは他人に知らせる必要ないっての。特に役立つレアをドロップする魔物だと、粘着してくるし」
「あんなもの、わざとユーザー同士を争わせようとしてるに決まってる。クレームが散々入ったにも関わらず改善しなかった。だから徒党を組んだ有志が潰す事になる」
「アレは酷かったわよねー。レアアイテムをゲットした人に手を出したPKを、有志連合が囲んでボッコボコだったもの。完全にリンチだったけど、ルールには抵触しないギリギリを狙ってたからね」
「逆に徒党を組んだ連中が、PKを狩る事態に陥ったからなぁ。エサはレアアイテムだし、周囲のプレイヤーが即座にPKを襲い始めるのには笑ったわ。まあ、俺もやったんだけど」
「多くの場所でPKが狩られてやっと運営は動いた。あのゲームは間違いなくギスギスを推奨しようというか、やらせようとしていたゲーム。それを有志連合が潰した」
「そもそも普通のプレイヤーとPKの人口を比べたら、多勢に無勢って分かる筈なんだけどね? 何故か運営がPKの肩を持つ不思議なゲームだった。結局1年もたずにサ終したけど」
下らない雑談に変わっていたタイミングでファルが来たので夕食へ。師匠に依頼の事を聞かれたので素直に話すと、師匠はちょっと厳しい顔つきで話す。
「コトブキが考えた通り、おそらくは権力者絡みの依頼であろう。それもわざわざ隠すぐらいじゃ、命を狙われておる可能性が高い。サインのヤツも厄介な仕事を押し付けよって……」
「権力者が命を狙われるって、普通に自分で何とかすればいいと思うんですけど?」
「ナツの言う通り。その為の権力なのに、私達のような何の権力も持ってない者に任せるのはおかしい。そんな言い方だから、おそらくは王子か王女の筈」
「おそらくは第一王女シャルーファであろう。サキュリアは女王制の国じゃが、今の女王は三女でしかなく元々は女王になる人物ではなかったという。裏でなんぞあったのかもしれぬが、長女と次女が亡くなり急遽女王に即位したのだ」
「もしかして……?」
「うむ。第一王女シャルーファは、今の女王が本当に好いた男との子供であるという。ただ、臣籍降嫁で男爵家に入る筈が女王になってしまい、結局王女として育つ事になってしまった……という経緯だったと記憶しておる」
「このままだと下っ端の男爵家の血が女王になってしまうとか、そんな感じで狙われてる? 女王の血も継いでるのに?」
「権力者なんてそんなもの。どうせ男爵家じゃなくて、自分達の派閥の上の者を推す意味でやってるだけ。次女や三女が何処の血筋か知らないけど、そいつらの元となってる家に阿ってるんだと思う」
「で、あろうの。その為なら暗殺者すら送るのが貴族という者だ。コトブキよ、今回のサインからの依頼はサキュリアの暗殺者が相手かもしれん。気を付けろ。奴等は殆どが魔隷師ぞ」
「つまり支配モンスターを使った追跡などの搦め手で来る……という事ですか」
「うむ、それが分かっておれば十分であろう。後は己で何とかせい。それよりも魔纏石を妾のスケルトン・クラフターに預けておけ。アレが買い取る」
「分かりました」
夕食後。僕はマイルームから魔纏石を持ち出し、師匠のスケルトン・クラフターに渡そうと思ったら、そのまま倉庫に案内された。そして倉庫の前で魔纏石を出すと目視で確認し、代金を手渡される。
どういう理由で値段が決まってるのか分からないけど、僕は受け取った代金をインベントリに入れ、ソファーの部屋からマイルームへと飛んだ。
明日から通信環境が断絶する可能性があり、その場合一週間から二週間ほど復帰に時間が掛かります。
復帰次第まとめて流しますので、申し訳ありませんが御了承下さい。




