0355・運営さん達26
『プレイヤー<コトブキ>がウェズベア森を越えて、境界の小屋に到着しました。結界魔法陣が敷いてあり、ログアウトできる事を確認したようですが、引き返しています』
「一応の確認って感じかな? もしくはログアウトできる事が分かったので、長期戦の用意をする為に帰るのか。先がどうなっているか分からない以上は、引き返す判断は正しいだろうね」
「いたずらに突っ込んでも上手くなんて行きませんからね」
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2000年 10月21日 土曜日
『プレイヤー<コトブキ>は前日の夜に依頼の真相を聞いていますので、このイベントの結末が確定しました。3つのうちの最上位である<時代劇END>です』
「……ああ、コレね。一番悪いのは女王が出てこず領主と戦いになってしまうもの。次にマシなのがプレイヤーのみで家令と戦う、つまり秘密組織のボスと戦うもの。そして弟君が選んだ一番簡単なヤツ」
「簡単っていうの止めてあげましょうよ。それが一番良い結末ですよ? プレイヤーにとっては一番戦闘の見せ場が無いですけど……。でも代わりに、お白州の裁きは見られます」
「それが良いのか悪いのか、プレイヤーとしては微妙なところじゃない? <マリアトゥーラ>の好感度は上がるかもしれないけど、弟君って既に相当の高さじゃなかった?」
『NPC<マリアトゥーラ>のプレイヤー<コトブキ>に対する好感度は、全イベントを起こせる数値を突破しています。ギリギリですが、全てのイベントを起こす事は可能であり、今回の事でまた上昇します』
「彼だからここまで高いのか、それとも<マリアトゥーラ>がチョロインなのか……どっちなんでしょう?」
「一応言っておくと、<マリアトゥーラ>は女王だから、好感度の上がり幅は最も上がり難いグループよ? 権力者を含め、地位や立場や力が有れば有るほど、好感度は上がり難く設定されてるの」
「それで全イベントを起こせるって事は、これ以上あげる必要が無いって事でしょう? とんでもないですね」
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『プレイヤー<コトブキ>一行が山の研究所に突入しますが、一行の戦力であれば誰も欠けずに制圧するでしょう。計算する必要もありません』
「まあ、でしょうねー、としか言えないわ。そもそも弟君が居るのに、そのうえ他のメンバーも居るんじゃ余裕で突破するでしょう。そして外に出て戻って行ったら茶番の始まりね」
「という事は、実質この研究所の制圧戦がイベントバトルですか。なんだか秘密組織のボスとか領主に比べればショボイですね?」
「仕方ないわよ。そういう設定のイベントなんだし、そもそも悪の組織と大立ち回りしてる時点で駄目だしね。正しいのは連中を公権力で潰す事で、プレイヤーとかいうアウトローが潰すのは国家としては間違ってるもの」
「確かにそうですけど……」
『プレイヤー<コトブキ>一行が研究者を倒し、<弱体の枷>を着けて運び出しました。これで完全勝利の形となり、後はお白州を見て終了となります』
「お白州という名の、権力者が格好をつける為の茶番。あれ見てて思うんですけど、時間も無駄に掛かってるんだから、淡々と説明だけすればいいのに……って思いません? 盛り上がりませんけど」
「そう? 金さんだと紋所を出すし無駄に人情くさいけど、越前の方は割と淡々としてる感じするけどね? もちろん情に訴えたりとかもするけど。お白州って聞くと、すぐに金さんを思い浮かべるからじゃない?」
「というか金さん以外に、お白州が出てくる時代劇があったんですね」
「いや、結構あるけど……?」
『プレイヤー<コトブキ>一行が執事長の<ファルデス>と戦っていましたが、領主一行が介入しました。現在話を聞いており、そして女王<マリアトゥーラ>が介入します』
「ああ、始まったか。圧倒的な権力と暴力に介入されたら、一地方領主如きじゃどうにもならないわ。何より頭の中身を取り替えられるように洗脳されるし。自分を保ちたかったら、逆らわないのが一番よ」
「洗脳って……」
「吸血鬼の始祖だけが持つ、特殊能力という設定なんだけどね。だからこそビスティオに負けると身内の吸血鬼からも狙われるのよ、自分を失わない為に始祖を手にかけようとする。って感じでね」
「へー……今のところはそんな風に見えませんけど、そんな事になるんですね」
「いや、弟君達がそうならないように潰して回ったから、その流れは無くなったのよ。ビスティオは既にブラッディアじゃなくて、ゲートの向こうにあるエルフェリアを狙ってるしね」
「あらら、残念……。圧倒的な女王が屈服する様を見たかったんですが」
「貴女、思ってたよりも捻くれてるわねぇ」
『プレイヤー<コトブキ>は、今回のイベントも最良の結果で終えました』
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2000年 10月26日 木曜日
『プレイヤー<コトブキ>が<支配のサイン>から依頼を請けました。魔隠穴での特訓イベントが開始されます』
「ああ、アレか。目が見えない中で修行するのは主人公あるあるだ、とか言い出したヤツが作った洞窟。言いたい事は分からなくもないが、目が見えなきゃ攻略不可能だろうにな?」
「本当にアレは苦労しましたよ。御蔭で今でも難易度調整を間違ってるんじゃないかと思ってます。あそこ難易度高いんですよ。弟君が行ってくれるなら、難易度調整に役立つ……かなぁ?」
「あの弟君だからな。彼の感覚は常人と違うから当てにならん。ついでに姉の方の感覚もだ」
『プレイヤー<コトブキ>が魔隠穴の攻略を開始しました。掛かった日数によって今後のイベント内容が変化します』
「4日以内だと一番難しいが、成功すると一番評価の高い依頼になるな。それが護衛依頼というのも、また王道というか何と言うか……な感じではある」
「我儘王女とかを護衛するって、漫画やアニメやラノベでもよくある展開ですからね。我儘王女じゃないですけど……」
「代わりに命を狙われてる系、いわゆる薄幸の王女様だな。この第一王女シャルーファが護衛対象だ。しかも転移魔法陣の使用は不可だから、このイベント厳しいんだよ」
『プレイヤー<コトブキ>は転移札を持っているので、<破滅のエンリエッタ>の屋敷までは簡単に連れて行けます。後はそこからブラッディアの王都まで連れて行けば良いだけでしかありません』
「「………」」
「セントラル。それは有りなの?」
『禁止されていませんし、どのみち幾つかの場所で暗殺者と戦う事になります。なのでイベントとしての整合性に問題は一切ありません。だからこそ禁止されておらず使用可能となっています』
「それなら仕方ないな。裏技的なやり方だが、こういうのは柔軟にやらせた方がいい」
「本当にいいんですか……? まあ、OK出るなら我々はこのまま見守るだけですけど」
「良いさ。あまりこっちの思い通りに縛り過ぎても楽しくない。プレイヤーが関わって作られていくんだし、それ故の雛形だ。そこを我々が縛っても凡作になるだけでしかない」
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2000年 10月28日 土曜日
『プレイヤー<コトブキ>一行が魔隠穴を攻略しました。4日以内でしたので、王女護衛イベントに決まります』
「割とあっさりだったが。まさか魔隠穴に通う為の転移札を<破滅>に作らせるとは……こっちの方が予想外だったな。まあ、彼はサブが<錬金術師>だから当然と言えば当然か」
「予想は出来た筈なんですけどね。それはともかく、続きのイベントの監視を始めましょう。彼がどう攻略するか見物な筈なんですけど、転移札を使うでしょうからねえ……」
「我々でも先は読めんなー……」




