0344・魔隠穴05
トモエ達を前衛に出して魔隠穴の中を進む。僕達は遠くまで認識出来ているけど、未だにトモエ達は手探り状態で進んでいる。その姿を情けないだとかは思わない。少し前まで僕も同じだったんだから。
そんなトモエ達も罠があれば魔法で壊し、敵が出てくれば倒して進む。そんな感じで進んでいる後ろで、僕は広がった認識範囲を使って詳しく調べている。なかなかどうして認識範囲が広がった程度では難しそうだ。
「【精密魔力感知】が中級になって認識範囲が広がる……つまり視界が広がった訳だけど、それだけで攻略できるほど甘くはないね? 奥に進む道、手前に戻る道。それらをどう判断するか……」
「コトブキの言いたい事もわかりますが、ラスティアは路銀を稼ぐ為に死体の回収をしていたと言っていました。つまり、何かしらの方法があって認識できる筈です。私達は未だに分かっていませんが」
「まあねえ。難しくはないんだけど、気付かない奴は、ずーっと気付かないと思うわ。そういう類の物が魔隠穴にはあるのよ。全てをつぶさに調べていれば分かるんだけどね。生き残る為に必死な方が見つけやすいのかしら?」
必死な方が見つけやすい……ねえ。どこかにヒントとなる物があり、それが分かれば奥への道も、入り口への道も分かると。………そんなのが何処かにあるんだろうけど、今は分からないな。
例えば奥に進む道にはあって、入り口の方には何も無いとか……? あるいは魔力の何かがあって、それが入り口の方は少なく、奥へ行く程に多くなる。……いや、違う。
いったい何を目印にして、奥への道と入り口への道を認識してるんだ? 少なくとも死体回収の人達は、外と往復できるぐらいなんだ。毎回、迷ってウロウロしているとは思えないし、あり得ないだろう。
つまり何かしらの目印は絶対にある。でないと死体回収なんて出来ないし危険すぎる。周囲をしっかり認識して、確認しながら探そう。トモエ達が戦ってて魔法が飛ぶんで、色々確認し辛いけども。
「しかしトモエ達も周囲が見えないとはいえ、結構大胆に進むよね。認識範囲が広がってるから危険だって分かるけど、狭い範囲じゃ自分が如何に危険か分からないんだから、本当に怖いよ」
「それはそうよ。手探りよりはマシとはいえ、下級の視界じゃ攻略は難しいもの。今まで長く戦ったりとか色々してたから、一度の探索で中級になれたのだし、積み重ねたものがあるだけ他より楽よ」
「たまにすれ違いますけど、他の者も下級の認識範囲と似たような感じですね。割と必死に確認しながら進んでいます。無理をしない範囲で帰れるといいのですが……」
「どうなのかしらねえ……。たまに支配モンスターを連れた者も居るし、そいつらは帰れるでしょうけど、他の連中は大変よ。私もそうだったけど、支配モンスターを頼れば帰れるのと、一人で何とかするのは全然違うのよね」
「仲間が居る者はどうですか?」
「それも同じ。支配モンスターと私達じゃ、感じ取れるものが違うのよ。だからこそ、脱出するなら魔物の方が圧倒的に有利なのよね。もちろん何度もアタックして慣れていけば、攻略は出来るでしょうけど」
「その何度ものアタックを行う前に、死亡する可能性があると……」
「まあね。元々サキュリアは魔隷師が多い国だし、そんな魔隷師が鍛える為の場所ともいえるのが魔隠穴だもの。他の職業の者も使えるとはいえ、同じという訳じゃないのよ。だからこそ、ここに来る前に鍛えてくるべきなんだけど……」
「鍛える場所もここですから、何とも言えなくなってきますね。まあ、修行中に命を落とすという事も、ある話ではありますが……」
そんな話を僕達がしていても、トモエ達は前方で戦い、罠を壊し、人を助けている。……うん? 人助け?。
同じサキュバスみたいだけど、いったいトモエはどうするんだろう? ……ああ、入り口まで一緒に行くんだね。僕達も攻略している訳じゃなく、どちらかと言うと修行してるだけだから、別に良いんだけど。
トモエ達が先頭のまま、その後ろに助けた人が居る。ラスティアが話してるけど、どうやら脱出できずに困っていたうえ、既に疲労困憊のようだ。こういう状況で魔物に襲われて殺されてしまうんだろう。
既に足下が危うい女性はシグマに背負ってもらい、僕達はトモエ達の後ろをついていく。すると、今度は2人組の女性達を助けたみたいだ。トモエは彼女達も連れて脱出する事に決めたみたい。
今度の女性も疲労困憊だったので、一人はドースの背に、もう一人は僕が背負う事になった。それは良いんだけど、出来れば早めに脱出してくれる事を願うよ。僕の体力がもつ間にね。
何とも言えない空気感が漂ってるけど、僕は何も言わない。流石にラスティアやキャスティに背負えとは言えないしね。ついでに言うと、女性達だって鎧を着けてるので役得云々なんて事は無い。
このゲーム12歳以上だから、そういうのは無いんだよ。なので微妙な空気感を出すのは止めていただきたい。そう思っていると、更に2人追加された。……どうなってるの、この状況?。
内心、「何かのクエストが始まってる?」と思うも、このゲームクエスト名とか出ないからサッパリなんだよね。新たに増えた女性はラスティアとキャスティが背負い、トモエ達は進んで行く。
「本当に入り口への道を進んでるんだよね? 迷って奥へと進んでないと良いんだけど……」
「心配しなくても入り口に向かって歩いてるわよ。こういう時には運が良いのか、それとも進み方を理解したのか……」
「進み方というのは風の事ですか?」
僕が背負っている女性が風だと言い出し、ラスティアが黙った。つまり奥への道と、入り口への道を知る手がかりは風なのか。……まさかこんな所でネタバレするなんて、ラスティアも思ってなかっただろうなぁ。
「あ、あのー……もしかして、言ってはいけませんでしたか?」
「ああ、いや。もう言っちゃったから仕方ないわよ。さっきも言った風、これが道を知るうえでの重要な鍵よ。魔隠穴はね、奥から入り口に向かって風が吹くの。これは絶対でね、変わる事がないのよ」
「ちなみに、何故かは分かっていないそうです。そして魔力を発する岩を壊すか、欠片を砕いて空中に撒くと……」
「風の向きに流れるという事ですね。もしくは風の流れに集中すれば分かると。……ああ、確かに感じますね。成る程、こんな攻略法があったとは。流石に気付きませんでした」
「普通は教えられずに放り込まれるんだけどね。最近は知らせるようにしたの?」
「最近と言われても困りますけど……200年くらい前から、魔隠穴の前の事務所に行けば教えてくれますよ?」
「あ、うん。200年前ね」
ラスティアとしては200年前と言われると微妙な気分になってくるんだろうね。
流石に死亡率などの問題で教えるようにしたんだろうけど、200年より前は事前情報なしで放り込んでたって事だ。スパルタと言うべきか、それともネタバレ禁止だったと言うべきか……。
いや、命が懸かってるんだから、ネタバレなんて言葉を使うべきじゃないね。おっと、魔力の感知範囲からトモエ達が消えた。という事は外に出たって事だから、僕達も出ようか?。
外に出ると背中の女性を下ろし、ようやく解放された。頻りにお礼を言われたが、僕達も修行中だし、特に何かを求めたりなどはしない。お礼の言葉だけを受け取って、さっさと宿へと戻ろう。
トモエは嬉しそうに「中級になった!」と言ってるけど、頑張ってれば午前中になってたと思うんだけどね? まあ、喜んでいるところに水を差したりしないけど。
さて、そろそろ宿に戻ってマイルームに退避させ、それから転移札で師匠の家に戻るかな。




