0340・魔隠穴01
「まあ、貴女が相手を舐めていて負けたなんて事は横に置いておくとして、<破滅>を通して2人を呼んだ事は他でもない、サキュリアにある<魔隠穴>に行ってもらう為よ」
「「<魔隠穴>?」」
「あそこにやるって事は、魔力操作系を高めさせようって事? それとも、あそこの魔物を支配させる気? 強力な魔物じゃないけど、確か……」
「はいはい、そこまで。説明してあげてもいいけど、それは後でね。<魔隠穴>だけど、そこは簡単に言うと洞窟よ。ただし、何をやっても灯りが点かないという、非常に珍しい洞窟なの」
「灯り点かないのでは、どうやっても攻略できませんし、魔物が居るなら危険すぎますが?」
「確かに何の能力もスキルも無ければね。<魔隠穴>の中も魔物も、全て魔力を持っている。つまり、<魔隠穴>の中では魔力を感知する事が重要になってくるのよ。あそこはダンジョンではないけど、かなり長い場所なの」
「そこへ行って僕達は何をすればいいんでしょうか?」
「最奥にある<魔隠石>を採ってきてほしいのよ。強い魔力を放つ石でね、なぜか<魔隠穴>の奥深くにあるの。それを持つという事は<魔隠穴>を攻略したという証拠になる。それが終わったら依頼する事もあるんだけど、まずは実力を示すのが先ね」
「まあ、あそこに行けば魔力関係の能力は伸びるでしょうけどね。久しぶりに行くのも良いか、修行になるだろうし」
「かつて最年少で突破しただけあって、余裕ねえ。ラスティアは分かってるでしょうけど、あそこの魔物はちょっと面倒だから教えてもいいわよ?」
「トモエはともかくコトブキならすぐに気付くと思うわよ? 特に戦闘に関しては<破滅>並の異常者だから、放っておいた方が良いでしょうね」
「その言い方もどうかと思いますけど、間違っていないところが何とも言えませんね。とりあえず<魔隠穴>という所を攻略してくればいい。という事ならば、後は場所だけですが……」
「場所はサキュリアの南西にあるんだけど遠いのよ。面倒でしょうし移動に時間が掛かるから、送る事しかできない転送陣を設置しておいたわ。帰る時は転移札で帰れるでしょう?」
「まあ、そうですね。ところで僕達の知り合いも<魔隠穴>という所に連れて行ってもいいですか?」
「2人の知り合い? うーん………まあ、いいでしょう。優秀ならそれでいいし、<魔隠穴>を攻略出来ないならその程度だしね」
「あの3人なら問題ないわよ。この2人は別にして、あの3人も優秀だもの。むしろ、この双子は自分達が異常なんだと自覚してほしいくらいよ」
「まあ、<破滅>が弟子にするくらいだから、少なくとも少年が異常だというのは納得できるわね。アレは自分が異常だという自覚を持っているけれど、それでもその意識は薄いのよ」
「そうですね。コトブキは同じ感性や感覚を持ちながら、更に自覚が乏しいという極め付きですけども」
「トモエがハイスペックなのよね。それが”普通”だと思ってたのなら、コトブキぐらい捻じ曲がるのも分からなくはないわ。ただ、戦闘方向に特化して捻じ曲がるのは、どうなのかしら?」
「それはもう言っても意味が無いでしょう。コトブキというのは、ある意味これで完成されてますし」
「戦闘狂として? トモエに勝つにはそれしかないというのは分かるけど、もはや唯の修羅と化している気もしないでもないわね」
「何かメチャクチャに言われてるっぽいけど、話を戻すと、庭にあるという転送陣? で<魔隠穴>に行けばいいんですね?」
「そうよ。あそこを攻略出来るという事は、少なくとも魔力関係のスキルは中級を超えるという事。そこまでの能力があれば依頼を熟すには十分よ」
「【精密魔力感知】だから、どうなるかは分からないけどね。案外、下級のまま突破する可能性も否定出来ないところがあるけど……。むしろそこは敢えて中級まで自分を鍛えてそうね」
「ああ、やりそうですね! コトブキなら」
もうそれでいいから、下らない話は止めにしてさっさと行くよ?。
僕達はサインさんに出発する事を伝え、転移札で出現した方とは逆側の庭に出ると、そこには転移魔法陣とはちょっと違う形の魔法陣があった。相互の物ではないからか、転移魔法陣に比べて簡易的な感じがする。
その転送陣の上に乗ると僕達は一気に飛ばされ、気付くと小さな町の近くの丘の上に出現していた。どうやらあそこの町に行けという事なのだろう。
皆で一緒に町に行くのだが、どうも小さな町の割には賑わってる気がするね? 不思議に思っていると、ラスティアが答えを教えてくれた。
「あの町の名前はディディ。<魔隠穴>があるから潤ってる町で、挑戦者が幾らでもくるのよ。それ故に活気があるんだけど、<魔隠穴>で亡くなる者も多いの」
「聞いた感じだと魔物も居るみたいですし、仕方がない事だと思いますが……。あれ? ダンジョンじゃないんですから死体は?」
「当然ながら死体を持ち出してくる仕事もあるわ。町には<魔隠穴>を攻略出来る者も居るからね。そういう者が死んだ場所まで行って、死体を持ち帰るの。仲間が居るなら良いんだけど、大抵は1人で来るから……」
「町の物という事ですか。それでもそのまま放っておかれるよりはマシですね。ちゃんと供養はしてもらえるみたいですし」
「あんまり良い事とも思えないけどね。昔、攻略した後で死体運びの仕事をしてた事があるのよ。帰りの路銀が必要だったし……」
「ああ、経験者だったのですか……」
何とも言えない雰囲気のまま、僕達は門番に挨拶して町に入る。まだ朝早い時間だし、特に混んでもいないので町の人に聞き、<魔隠穴>へと向かう。
町の外れにあったのだが、<魔隠穴>という洞窟の前には多くの人が居た。それに<魔隠穴>の近くには建物も建っている。これはこれで怖ろしい洞窟感が無いなぁ……。
建物の中に入る必要は無いらしいので、トモエはマイルームに移動し、僕はファル以外を召喚した。全員揃ったら<魔隠穴>へと出発だ。
横幅は100メートルほど、縦には20メートルほどの大きな入り口があり、僕達はそこから<魔隠穴>へと進入していく。
どれぐらい行き帰りに時間が掛かるのか分からないが、今日は多少の時間で戻る必要があるな。一日掛かりだとログアウトをどうするかという問題が出てくる。
そんな事を考えながら一歩入った直後、一切の光が無くなった。……成る程。灯りが点かないというより、光が見えなくなるといった方が正しいね。さて、【精密魔力感知・下級】だと……?。
「これはアレだね? 初代ウィ○ードリィみたいなワイヤーフレームみたいに見えるというか、そう感じるんだね」
「あー、成る程。どっかで見た事あるなと思ってたらアレかぁ……。たしかに洞窟の縁に沿って、あんな感じで見えてるわね。実際には壁だからもっとデコボコに見えるけども」
「この<魔隠穴>では魔力の通ってる部分だけ見えるのよ。もちろん魔物も【魔力感知】系で見えるわ。あとは普通に戦えばいいだけよ。とはいえ、ここで出てくる魔物は大抵が物質系なんだけどね」
「ゴーレムですか?」
「小型のゴーレム系とかパペット系、更にはドール系ね。支配して持って帰る奴もいるわよ。淡々と仕事をしてくれるらしいから、ドール系が一番人気じゃなかったかな?」
「なるほど、彼らには感情というものがありませんからね。天使の星ではサモナーが召喚していましたよ、いわゆる人形系の魔物を。感情が無いのでテイマーでは契約できなかった筈です」
「魔隷師の場合は支配契約だから成立するんでしょうけど、私は詳しくは知らないわ。ま、とりあえず進みましょうか」




