0339・支配の魔女の屋敷
ファルが呼びに来たので朝食に行き、その席で師匠に<支配の魔女>であるサインさんの所へ行く事を説明した。
「ようやくか。まあ、そなたらにもやる事があるのだから仕方ないがな。……とにかく、妾の方に文句を言うてこんのならば何でもよい」
「師匠はそもそも何の用があって私達を呼ぶのかしら? 私こっちに居る方が長いし、向こうに碌な伝手も無い。更に言えば、関わりのある人も居ないのにね」
「それはそれで問題なんじゃないの? そもそも自分の師匠が居ながら、全く師匠と関わりが無いというのもね? ある意味で訳が分からないわよ」
「言われてみれば、確かに。自分の師の所ではなく、別の者の所に入り浸ってる訳ですしね。まあ、それを良しとしている<支配の魔女>もどうかと思いますけど」
「だから帰ってこいっていうか、仕事を頼んできたんじゃないの? 何の仕事か知らないけど。……でも<支配>の事だし、多分魔物に関わりある事なんでしょうね」
「サキュリアにあるダンジョンの攻略……とか? もしくは、どこかへ行って魔物を捕まえてこい、ですかね?」
「サインの奴なっらそっちであろ。何を捕まえてこいと言うかは知らぬがな。もしかしたら、それなりに苦労する魔物かもしれん。サキュリアにも、それなりに難所のような場所はあるし、それ故に良い素材が採れる所もな」
「ああ、そっちの可能性もあるのか。魔物を捕まえるんじゃなくて、鍛える所へ行けって事ね。支配モンスターは死んだら終わりだから大変でしょうけど」
「それがありますから難しいですよね。ネクロマンサーはそういった事がありませんけども……」
「代わりに死体を操るなんてって言われるのよねえ。コトブキの配下見てると死体って感じはしないし、ネクロマンスに関してちょっと見方変わるけど」
「アレはまた特別だと思いますよ。ネクロマンサー、つまりマスター色が濃く出すぎではありませんか? 率先してボコボコにしにいくとか、嫌がらせ攻撃を喜んでするとか……色々アレですよ?」
「まあ、マスターであるコトブキが戦闘中に嫌がらせしたり、邪魔したり、スイッチしてボコボコにさせたりしてるものねえ。敵の目の前で後ろから突進してくるドースに合わせたりとか」
「ああ、いきなり敵の目の前で左右に飛ぶんですよね。それで敵は一瞬訳が分からなくて硬直、その隙に突進してきたドースが凄いパワーで衝突するという……。あれはグリーントレントが根ごと抜けそうでした」
「どんなパワーでぶつかっとるんじゃ、流石にそれはやりすぎであろう」
「修復用の<腐った肉>は持ち歩いているんですが、体が傷付く以上にやりたがるんです。今までの鬱憤というか、攻撃力不足で悩んでましたから……。ですので三重の突進スキルでの一撃は爽快みたいなんです」
「ああ、うむ。言いたい事は分からんでもないが、己の体が傷付く事よりも、敵にぶちかます方が大事とは……。確かにマスターの影響を色濃く受けておるのう」
この場に居る全員が「うんうん」と頷いている。
師匠、師匠のスケルトン・クラフター、トモエ、ラスティア、キャスティ、ファル。何で全員っていうか、ファルまで頷いてるのさ?。
よく分からない一体感の食事は終わり、ソファーの部屋からマイルームへ。全員をマイルームへと呼び出したら、ソファーの部屋へと戻り、【昏睡眠】で全回復しておく。
その後トモエとタイミングを合わせる形で<転移札>を使用。光る魔法陣が足下に出現した後、僕達は転移した。
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着いた先は家庭菜園? みたいな庭に、蔓が巻きつく紅い煉瓦の洋館。その言葉がピッタリと合う屋敷があった。師匠の家は貴族の小さい屋敷みたいな感じで大きくはないけど、<支配の魔女>の家は結構な大きさだ。
おそらく師匠がネクロマンサーなのに対し、サインさんは魔隷師なのが関係してるんだろう。支配モンスターの為には大きい家が必要だし。
トモエは勝手知ったる我が家と言わんばかりに移動して行くので、僕もその後ろをついていく。すると正面玄関に回ったトモエは、「ドンドン!」と玄関扉を叩く。
誰か出てくるまで叩いていると、中から「それ以上、叩くんじゃない!」と大きな声が聞こえた。その後、玄関の扉が開くと、背中に半透明な羽根の生えた妖精みたいな人が居た。
「誰かと思えば、トモエ……貴女ですか? サイン様の所に碌に戻ってこない貴女がいったい何の用です? ここに用などないでしょう」
「あのねえ、師匠が呼んでるってエンリエッタさんに言われたから来たのよ。そうでなければ嫌われてる私が戻ってくる訳ないでしょ。いちいち面倒臭い」
「それは貴女が碌にサイン様のいう事も聞かずに好き勝手しているからでしょう。あの魔物はイヤだ、この魔物はイヤだと言って拒否し続ける!」
「当たり前でしょうが。私は責任の持てない事はしないの! 捕まえました、しかし碌に何もさせませんじゃ、話にならないでしょうが! だからこそ拒否してんのよ」
「貴女と言う人は……! 魔隷師というのは「玄関で何をしてるの?」ですね!!」
妖精の人の後ろからサキュバスが現れたけど、第一回のイベント以来、久しぶりに見たなぁ。心の中だけだから失礼にはならないだろうけど、この人もトモエと同じく無駄に露出の多い人だよね。ラスティアはそこまででもないのに。
「流石に玄関の前で口喧嘩をされても困るのだけれど? それに……また、珍しいお客さんが居るようね? <破滅>の弟子をしてる少年じゃないの」
「え………大変申し訳ありませんでした!! 私とした事がお客様の前で粗相をしてしまうなんて! トモエ、お客様が居るなら伝えなさい……!」
「お客様って言われても、コトブキは私の弟だし? 別にお客様ってイメージなかったわ」
「これだからトモエは! お客様は、お客様でしょう!」
「いいから2人とも入りなさい。このままじゃ、周りから妙な勘繰りを受けるわ。とりあえず応接室に通して」
「かしこまりました」
妖精の人の先導で僕達は歩いていく。大きな屋敷の中を歩き、通された部屋のソファーに座る。目の前に居るサインさんに対し、僕は仲間を召喚してもいいか聞くと了承されたので呼ぶ。ラスティアとキャスティを。
「……? ああ、ここが<支配>の屋敷な訳ね。突然、呼び出されたとはいえ、今日は呼び出すと言われてたからねえ」
「ええ。お久しぶりですね、<支配の魔女>。懐かしいと思える程には交流もありませんでしたが」
「………まさか、<純潔の天使>? ……何故、貴女が?」
「私は大天使様と大悪魔が見守る中で、正式にコトブキと戦い負けたのですよ。その結果<所有紋>を付けられましてね。今はコトブキの使い魔として生きています」
「私は封印で力を奪われてたから負けたし、キャスティは天使の力を使うなと言われてたのに使ったのよね? まさかあんな形で追い詰められるとは思ってもいなかった訳だし」
「それはそうです。まさか首を絞められながら腕や足まで締め上げられるなんて……。おかげでコトブキを弾き飛ばす為に天使の力を使ってしまい、負けてしまいましたけどね」
「そんな事があったの……。何だかおかしな話というか、貴女が相手を舐めてかかったとしか思えないのだけど……?」
「うっ」
まあ、そうだったよね。大天使からも相手を見下すのが悪いって言われてたし。鑑定して相手の能力が低かったからって、舐めちゃいけない。
戦闘というものは、勝利するまで気を抜いちゃいけないものさ。




