0333・運営ダンジョン36階
誰を連れて行くかと考えたけど、ファルを除くいつものメンバーで決定。ユウヤ達も、今日は各々が自分のやりたい事をするようなので、全員自由となった。なので僕は運営ダンジョンに出発するんだけどね。
流石に皆がやりたい事があるならそっちを優先するんだけど、今日は自由行動だ。
ユウヤが魔力金属作り、ナツは今まで遅れていた料理のスキル上げ、イルは必要なスキルの取得、トモエは【細工】と【石工】のスキル上げらしい。何故かいつの間にか【石工】を習得してたみたいなんだ。
初めて聞いた時には驚いたけど、細工師って高い確率で宝石を扱うからねえ。宝石は<細工師>の領分でもあり<石工師>の領分でもある。結構アバウトなんだけど、どっちでも加工はできるらしい。
だけど、どっちかだけだと上手く行かない的な事が宝石や細工師スレに書かれていたらしく、それでトモエも【石工】スキルを習得したようだ。なので石の加工や原石の加工をしてスキル上げをするんだって。
大変だなーと思うも、僕も【錬金術】を鍛えなきゃいけないので、他人の事を言ってられないんだけどね。それでもまずは運営ダンジョンだ。ここはもう終わらせておきたい。
31階に転移した僕達は、再び幅5メートルの狭い場所を進んで行く。強風が吹いているものの、飛ばなければエストも移動できる。というより僕が左手で抱いて移動している。
フォグも足下をトコトコ歩いているので問題なし。この調子なら飛ばされる事もないだろう。出てくるウィンドゴーストは【浄化魔法】でさっさと始末し、ゴーレムからは逃げる。
僕が囮となって避けている内に皆は走りぬけ、最後に僕が逃走する。その形で逃げ続けて35階、現在【昏睡眠】で回復中だ。このスキルは役に立ってるんだけど、【羅刹】は殆ど役に立たないなー。
役立てるのが難しいというか、そんな大量に魔物なんて出てこないし、皆と戦ってるので僕だけが止めを刺し続けるのは難しい。ソロなら役に立つんだろうけど、ソロだと敵を倒すのに時間が掛かる。
もしくは武器に大きな負担を掛ける事になるので、結果的に長続きしない。色んな意味で使い難いスキルなんだ、忘れたりはしないけど。
全回復し、皆もある程度回復したのを確認したらボス部屋へ。再びブロンズゴーレムと戦う。前回戦っているので大して苦戦する事も無く、落ち着いて戦い勝利。やはり誰かが囮役をやれば然して強くもないボスだ。
36階の魔法陣を登録し、次に進むは雨の降りしきるジャングル。踏み出してすぐにズブ濡れになったけど、それでも僕達は進んで行く。すると早速魔物が現れた。
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<ポイズンブラッドフロッグ> 魔物 Lv41
その名前の通り毒性のある血を持つカエルの魔物。敵を見つけると体の表面に分泌したり、舌から分泌させながら攻撃してくる。触れるだけでも駄目な毒なので、注意して戦おう
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<パープルスネーク> 魔物 Lv43
毒がありますよと教えてくれる色の蛇。その通り毒を持ち、噛み付いて注入してくる。死にはしないものの強い痺れの毒であり、簡単な魔法では治せない。回復手段が無いなら逃げよう
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「パープルスネークですか、【ハイ・クリアポイズン】が無ければ治せない毒を持ちます。まあ、私が魔法陣を知ってますので問題ありませんけどね。魔力消費はそれなりにあるので乱発はできません。回避優先で」
「当たり前でしょ。そもそも毒なんていちいち受けたくないんだから、回避するに決まってるじゃない」
キャスティの言葉もラスティアの言葉も雨音で聞き取りにくい。何となくこう喋ってるんだろうとは思うけど、完全に聞き取れてるとは言いがたい。ここでは声を掛けての連携は難しいね。
ジェスチャーすら水しぶきで見辛いのだから、思っている以上に厄介な場所というか環境だよ。派手に水が叩きつけられ飛沫が上がり、「ザーー!!」という音で声が掻き消されそうな場所。
それがジャングルの中なんだから大変で、未だに階段すら見つかってない。この環境で隠されていたら、いつまで経っても見つからないっていう可能性が……。
ここも運営の嫌がらせだと思えば納得も出来るけど、毒と悪環境のコンボはキツい。カエルと蛇を倒しながらウロウロするも、全く階段が見つからない。
いったい何処にあるんだ? という事も重要なんだけど、それ以上に重要なのが、帰り道が分からない事だ。ジャングルの中なうえにウロウロとし過ぎた所為で、入り口が分からなくなってしまってる。
かなりマズいと思いつつも、ウロウロする事しか出来ない。カエルと蛇のドロップは大した事の無い物しかなく、ここは突破が大変なだけの階層だ。
もしかしたら隠された何かがあるのかもしれないけど、そんな物を探してなんていられない。皆も入り口を探してくれてるけど、なかなか見つからなくて焦ってきている。
「ムコウモ、チガウ……」
「こっちも魔物の反応だけっぽいわね。厄介な事に木々が高かったりする所為で、エストが飛んでも見渡せないなんてね。天井付近にまで木があるなんて、普通は思わないわよ」
そう。エストに上空から確認してもらおうとしたんだけど、透明の壁が天井になってるんだ。もともとダンジョンってそうらしいんだけど、天井ギリギリにまで木がある所為で、エストでも偵察できなかった。
間違いなく、そういう対策済みの場所って事だと思う。それは仕方がないんだけど、それでも入り口にすら戻れないっていうのは流石に……って、あった!。
僕達は魔法陣のある階段へと駆け込み、ようやく一息吐いた。
「それにしてもキツかったね。大量の雨と見通しの悪いジャングルの所為で、碌に進む事もできやしない。地図を描こうにも土砂降りで紙が駄目になるし……本当に厄介だよ」
「ですね。紙では碌に書けないでしょうし、木に傷を付ける訳にもいきません。ダンジョンの中の物は傷つけても元通りになりますから、目印には使えませんし……どうしましょうか?」
「どうするって言ったってねえ……まさか神のダンジョンが、ここまで厄介だとは思わなかったわよ。どんどん難しくなってない?」
「ショウガナイ。ダンジョンハ、ソモソモムズカシイモノ」
「そうなんだけどさー。魔物が強いとかならまだしも、こういう難しさは要らないっていうかー……」
「ブルル?」 「クー……」 「カァ」
「明らかに準備不足というか、突破する方法を考え付かないと無理な気がする。一つ一つ調べて目印を見つけて行って突破するか、それとも何かを思いつくまで待つか……」
「碌な案も出ない気がするけどね? 真っ直ぐ進んで戻るってのをやってみない? まだ時間はあるんだし」
「そういえば焦ってただけで、そこまで長い時間ウロウロしてた訳じゃないね」
人間、焦るとやっぱり良くないね。大した時間が経ってないのに焦りだけが募り、時間感覚さえ狂ってたなんて。もう一度気合を入れてジャングルに行こう。まずは真っ直ぐ。
本当に真っ直ぐ行けるかは分からないけど、出来る限り真っ直ぐなら大丈夫だと思う。それなら帰るのもそこまで難しくないだろうし、何となくで覚えてるだろう。
今度は周りの景色も見つつ、多少は記憶していこう。あまり記憶力をこんな事に割きたくないんだけど、ここを突破する為には仕方ない。頑張って進もう。




