0320・ゾンビ・クロウ
目の前のボスであるジャイアントが動き始めたが、それを見ながら矢継ぎ早に対応を叫ぶ。流石に身長3メートル超えの人型は簡単には対応出来ない。
「皆、防御は二の次! 回避優先で敵の攻撃を受けるな! 左右の端にシグマとセスが行って薙ぎ払いを防いでくれ! ただし全力で防御はしなくていい、皆が回避するまでの時間稼ぎとして防ぐんだ!!」
「ガン!」 「カタ!」
ジャイアントはその体に見合う剣を持っている。切れ味はあまり良くなさそうだが、代わりに凄く頑丈そうな剣であり、巨大な鉄板というの正しいだろう。流石にあんな物をまともに受けたら潰される。
あれだけの大きさなら怖いのは振り下ろしではなく薙ぎ払いだ。剣の長さだけで3メートル近くあり、それを振り回すのだから尋常じゃない。まともに戦ったら絶対に勝てないと思える重量物だ。
僕達は魔法で遠距離攻撃をしているものの、ジャイアントが気にせずに暴れまわるので、効いているのか効いていないのかが全く分からない。今のところは振り下ろしや叩き付けが多いが、いつ範囲的な薙ぎ払いが来るか……。
約3メートルの範囲って思っているよりも広く、特に接近していると回避するのは難しい。【ダークジャベリン】を顔に集中させているが、全く意に介していない。やっぱりコレは効いてないと考えた方がいいな。
【闇魔法】を使うのは止めて【浄化魔法】の【セイントバレット】に切り替えたが、結局のところ意に介しないのは変わらなかった。っと、薙ぎ払いが来た!!。
「高い位置ならしゃがめ! 相手は低い位置への攻撃は得意じゃないらしい!!」
3メートル超もの身長があると、流石に足下への攻撃はやり辛いのだろう。高さ的には1メートル70ぐらいのところで薙ぎ払われた。
大半が少し頭を下げれば回避可能だったのでかわし、セスは流されるような形で防いだが飛ばされる。しかしセスのおかげで剣の速度が低下し、皆が回避するだけの余裕を作りだす事が出来た。
セスも飛ばされた先で立ち上がったので、今の内に【ダークヒール】で回復しておく。
セスも戦線に復帰したので僕は前線に上がり、隙を縫って【闘刃】螺旋突きを右足の甲に喰らわせた。
「GAAAAA!!!」
どうやら足の甲は痛いらしく、後ろへと右足を下げてしまった。左足を前に出した半身の構えになっているが、先ほどと違う為か微妙に戦いにくそうだ。
どちらの足が前でも戦えるのだろうが、いつもと勝手が違うと戸惑う事がある。おそらく現在のジャイアントはそういう状況だろう。こちらとしては都合が良いのでこの調子で戦闘を推移させたい。
ジャイアントも再び攻撃を繰り出してくるが、先ほどよりは力が篭められないのか、剣の速度も遅くなっている。袈裟切りなども横の範囲は狭い為、そこまで回避に苦労したりはしない。
前に出している左足にも隙あらば攻撃しようと思うのだが、意外にも素早くバックステップを行い、攻撃を受けないように気を配っている。それだけ右足のダメージが大きいのだろう。
そうして隙を窺いつつ適度に攻撃していると、再びジャイアントが叫んだ。
「GUAAAAAA!!!!」
今度は悲鳴のような叫びだったのでどうしたのかと思ったら、セナが右足の甲にトンファーを叩きつけていた。どうも僕が穿った場所をピンポイントで狙ったらしい。あれは痛いだろうね。
とはいえそんな隙を逃す筈もなく、今度はキャスティが前に出ている左足の甲に【闘刃】を叩き込む。それはウォーハンマーの三角錐部分から出る、回転する杭のような【闘刃】だった。
「GYAAAAAAA!!?!??!?」
両足の甲を穿たれてしまい、まともに立てなくなったジャイアントは尻もちをつく。その隙を狙って一気に近付いたラスティアは、薙刀に【闘刃】を纏わせてジャイアントの首を切り裂く。
素早く離脱したおかげでラスティアには掛からなかったが、左の首筋から夥しい鮮血を噴き出しながらジャイアントは倒れる。そのまま起き上がる事なくジャイアントは消えていき、僕達の勝利となった。
思っている以上に強かったし、攻めにくい相手だった。何より剣を振り回してくる為、意外にも懐に入り辛く、更には防御力も高かった。布のような服しか着ていないのに、簡単には刃が通らなかったぐらいだ。
魔物だと言ったらそれまで何だけど、人型でアレはちょっと不思議ではある。
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召喚モンスター:エストのレベルが上がりました
おめでとうございます。召喚モンスター:エストは進化可能です
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おっと、エストしかレベルが上がらなかったけど、もう進化可能か。さて、次は何かな……うん? 選択できるの?。
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ハイゾンビ・バード:ゾンビバードの強化種。体が大きくなるので飛行時の魔力消費が増えるが、純粋な戦闘能力も上昇する
ソンビ・クロウ:カラスになったゾンビバード。体が大きくなり飛行時の魔力消費は増えるものの、代わりに賢さは上昇する。思っているよりも頭は良い
ゾンビ・ホーク:鷹になったゾンビバード。体が大きくなり飛行時の魔力消費は増えるものの、代わりに目と飛行時の速さが上昇。特に目が良く、偵察に優れる。
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ふんふん、カラスと鷹それぞれに個性があるね。ハイゾンビバードは純粋強化だけど、今のところコレを選ぶ理由が無い。この中でどれが良いかと言われたら、使い勝手の良さそうなカラスに決まってる。
頭が良いって事は細かな命令も通じそうだし、偵察の時に自分で判断できそうだ。黒い色も隠れやすいだろうし、空から偵察する以上の偵察能力を得られると思う。という事でカラスをポチっと。
「おお、カラスだけあって真っ黒だな。当たり前だけど」
「カァ」
「……マックロ。デモカワラナイテザワリ」
「カー……」
やっぱりワシャワシャしてるというか、撫でたり広げたりして遊んでる。最近の仲間だから珍しいのかと思うも、セナってドースやフォグを触ってる事も多いんだよね。動物系を触るのが好きなんだろうなぁ。
31階に進み、転移魔法陣を登録する。次の地形を確認すると切り立った崖の上のような場所だった。左右に5メートル程しか道幅が無く、その下は白い霧に覆われていて見えない。
落ちたら即死だろうと思いつつも、実際には落ちても大丈夫な可能性もある。どちらかは分からないが、試す気にはならない。もし試すなら寝る前かな? ログインして即ここに来て落ちてみる。そんな方法でしか試せないだろう。
皆で進もうと思ったものの、何となく嫌な予感がしたので止める。ここを進む際はラスティアとキャスティは置いていこう。
「まあ、そうねえ。仮に【飛翔】のスキルが復活してても来たくはないわ。落ちたら死ぬっぽいし、わざわざ危険を冒す必要も無いし、私はパス」
「ですね。無理に行かされても困りますし、なんと言っても足場が狭すぎます。まともに戦闘行為が行える広さじゃありません。魔法主体になるでしょうけど、出てくる魔物によっては落ちる可能性が……」
「とんでもなく高くなるわね」
という事で戻る事にし、後はマイルームで物作りをして過ごす事になった。ジャケットなども含めて作らなきゃいけない物は沢山ある。攻略は急がなくてもいいし、あそこを無理に進む気は無い。
上手く進まないと落ちる危険地帯なんて、準備をちゃんと整えてから行くべきだ。元々ソロ専用なんだから、僕だけでも構わない訳だしね。




