0032・ゼット町で買い物
浅層で戦いつつ、魔力が回復したのでゾンビドッグを召喚した。フォース・ゾンビドッグ。だからお前の名前はフォグな?。
「ワン!」
「うん。目玉が飛び出てて耳が千切れてたり、腸を引き摺って歩いてたりするけど、鳴き声は実に犬だな。とりあえず腐った肉を食って体を修復しようか」
僕が腐った肉をインベントリから出すと、何故かセナが腐った肉をあげていた。別に良いんだけど、フォグの尻が動いている。よく見ると尻尾も無かったのか。もしあったら「ブンブン」振られてたに違いない。
すると最初のセナと同じくピカピカ光って修復完了。普通の犬になった。こうなるとサモナーもネクロマンサーもそこまで変わらない気がするね。おっと、そろそろ昼だから一旦師匠の家に戻ろう。
適当に枝を払いながら戻ろうと思うと、鉈をファルが引っ手繰っていき、スルスルと木を登ると枝を払い始めた。
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召喚モンスター:ファルが【伐採】を習得しました
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早いよ。幾らなんでもさ、試してすぐに覚えるとかどうなってんの? もしかして僕が【伐採】スキルを持ってるからすぐに覚えた? ……何かそんな気もするな。とりあえず受け取った枝を棒に変えて、師匠の家に急ぐ。
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召喚モンスター:フォグのレベルが上がりました
召喚モンスター:フォグのレベルが上がりました
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相変わらず初期はレベルが上がりやすいなぁ。とりあえず師匠の家に戻ってきたので、声を掛けようと思ったんだけど居なかった。何かあったのかスケルトン・クラフター以外に居ない。僕がスケルトン・クラフターに挨拶すると、紙を1枚持ってきて渡された。
それを読むと、どうやら師匠は魔女仲間に呼ばれたらしく、しばらく家には戻れないと書かれていた。食事はスケルトン・クラフターが作ってくれるらしいけど、食材とかは大丈夫なんだろうか? 何なら町に行って買ってくるけど? お金あるし。
そう思ってスケルトン・クラフターに聞いてみると、師匠の家の台所に案内された。入った事が無かったんだけど、お邪魔して後ろをついていくと、妙に歪んだ倉庫があった。倉庫の建物が歪んでいるのではなく、見えている中の景色が歪んでいる。
もしかして大量に物が詰め込めるの? そう聞くと、師匠のスケルトン・クラフターは顔を上下に動かす。マジか……多分だけど時間すら止まってる気がする。つまりインベントリと同じ効果だ。……あれ? もしかしてプレイヤーも拠点を持てば使える?。
だからインベントリの枠は20と決まってるんだろうか? スケルトン・クラフターと一緒に食堂へと戻り、食事をしつつ色々と調べる。特にネクロマンサー・下級になった際に得た【瘴気変換】のスキルがよく分からない。
……ああ、成る程。このスキル微妙だなぁ。瘴気のある場所で【瘴気変換】を使えば瘴気の塊を作り出せるらしい。瘴石というそうだが、これを食べさせると召喚モンスターを回復させられるようなんだ。……もしかして進化先にも関係する?。
ある程度使って練習しておこう。多分だけど錬金術と然程変わらないと思われるので、何回かスキルで使えば把握できるだろう。それより重要なのは僕の武器だ。石と木の槍じゃ、中層では戦えない。かといって店売りの武器じゃ練習にならないし……。
ここは新しい武器を試すべきかな? 特に破壊力のある武器。となると……ベータの時に使ってた棒かな。あれがしっくりくるし使い勝手がいい。鉄の短剣とか持ってるけど、午後からは町に行って売ってしまおう。
食事を終えた後、スケルトン・クラフターに行き先を言っておき出発。ゾンビドッグが鼻を「スンスン」しながら先頭を行き、敵が居ると教えてくれる。【魔力感知】や【闘気感知】で分かるけど、毎回きちんと褒めておく。
もしかしたら両感知スキルでも分からない魔物が居るかもしれない。そういった時に嗅覚というのは絶対に役立つだろうからな。そうやってフォグが見つけた魔物を倒しつつ進んで行き、森を抜けた。
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召喚モンスター:フォグのレベルが上がりました
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分かれ道まで来たので東に行き、ゼット町の方へと進んで行く。特に何事もなく町に着き、まずはお婆さんの店へ。お婆さんに挨拶した後で見せてもらっていると、おずおずと話しかけられた。
「あー、ちょっと聞いていいかい? 子爵が<神の贈り物>を奪った子供って、おそらくあんたの事だろう?」
「え? ええ、まあ。それがどうかしましたか?」
「いや、衛兵の1人がそれを言ったばっかりに、あんたが子爵の騎士に襲われて殺されちまったって聞いてね。稀人だったからって良い訳じゃないけど、稀人だったから蘇ったって聞いて安堵したよ。そういや子爵とつるんでた衛兵や衛兵長は処刑されたけど、知ってるかい?」
「いえ、特に興味も無かったので知りませんし、聞いてません。僕が聞いたって仕方ない事ですし、何か口を挟める訳でもありませんしね。何かあったって聞いても、「そうですか」と返すだけです」
「………それでいいのかい?」
「良いも悪いもありませんよ。僕は稀人であり、外様の者です。この国の事に関与する権利などありませんよ。他所の国の者が我が国に口を出すな、と思うでしょう? そういう事です。それよりも採取道具とか解体道具とかってありませんか?」
「うん? まあ、あるけどね。ちょっと待ちな、裏から取ってきてあげるよ」
そう言ってお婆さんは裏へ行き、少ししたら戻ってきた。革で出来たアタッシェケースのような物を持ってきたけど、アレってなんだろう?。
「これが不思議かい? こっちが採取道具一式が納められてる。で、こっちが解体道具一式さ。どっちも40000デルだけど、大丈夫かい?」
「もちろん問題ありません。80000デルここに置きます」
「まいど。それが売れるのは久しぶりだよ。狩人の中には買っていく奴がいるから置いてるけど、高くて買う奴はあんまりいないんだよねぇ」
「後は蹄鉄を売ってて着けてくれる店ってありますか?」
「それなら町の東入り口に行きな。そこに乗り物屋があるから、そこで蹄鉄を着けてもらえるよ」
「ありがとうございました。それじゃあ、失礼します」
東の入り口かー、毎回西から入ってくる僕には馴染みがないのも当然だな。とりあえず東の入り口っと。
乗り物屋っていうから馬車とか人力車とか売ってるのかと思いきや、トカゲの魔物だったり、鹿の魔物だったり、サイのような魔物を売ってる。いや、売ってるというより乗せてくれるんだなー。主人はテイマー系の人かな?。
「いらっしゃい。ジッと見てるけど、何かご用?」
「すみません。ここで蹄鉄を着けていただけると聞いたので来ました。蹄鉄自体も売ってほしいんですが、良いですか?」
「ああ、蹄鉄ね。アナター、蹄鉄だって!」
「……おー、今行く!!」
この人、多分だけどサキュバスだ。シズの初期水着に似たのを着てる。奥から現れた人の額に角があるって事は、旦那さんは鬼族か。おー、筋骨隆々だなぁ。凄いや。
「ウチの嫁を見る奴は多いが、オレを見てくる奴は珍しいな。変な視線じゃねえから別にいいけどよ、体がほっそいからか?」
「あ、すみません。仰るとおり、鍛えても何故かムキムキにはならないんですよ。何でか知りませんけど」
「……その顔でムキムキって、世の中の多くの女性が悲しむから止めておきなさい。周りの女性達に止められたりしなかった?」
「え? 何で分かるんですか?」
「「………」」
「ゴホンッ! えーっと、蹄鉄だったな。4つで12000、着けるのは3000。あわせて15000だが良いか?」
「おねがいします。15000……お渡しします。ドース! 蹄鉄を着けてもらうから、こっち来て」
「まいど、ありがとうね」 「ブルル」
「おお、ゾンビホースか。久しぶりに見たが、コイツ骨がしっかりしてるな。いい馬体してるぜ」
「ブルッ!」
ドースは大人しく蹄鉄を着けられているが、その横から鞍を買わないかとセールスを受けた。なんと10万もするが、かなりの逸品らしい。何でも子爵が依頼していた物みたいなんだけど、処刑されたので縁起が悪く、買い手が居ないんだってさ。
ある意味で丁度良かったので、僕はその鞍を買いドースに合わせてもらった。10万もする理由は、軽いにも関わらず強靭な素材で作られており、騎士の乗る馬に使う為の物だからだそうだ。両手を離しても高い安定性を誇るらしく、自慢の一品なんだって。
「まったく。アホ子爵の所為で気合い入れて作ったコレが、お披露目もなく倉庫行きになってたところだったぜ。10万デルの価値は十分にあるからな、長く使ってやってくれ」
「こちらこそ、良い物を売ってもらってありがとうございました」
良い買い物の後は、気分がいいね。




