0314・カルトラス山
「昨日、ウェズベア森を越えてカルトラス山へ行ったんだけど、その境界に小屋が建ってたんだ。その小屋が何かは分からないけど、マリアさんも把握していない小屋だったみたい」
「1国の女王なんだから、細かい事までは知らないでしょ、普通」
「それが、僕達に依頼する前に調べさせてるらしいんだけど、小屋の情報は無かったんだってさ。後、<死王>の話は実は無関係で、あの城砦都市の領主。伯爵の鼻っ柱を圧し折っておきたかったのが真相らしいよ」
「つまり、あの領主に何かをさせたかった? 私達はその為の囮?」
「分かりやすく言えばそういう事。どうも吸血鬼絶対の種族主義に陥ってるらしく、それで失敗させて叱責。他種族に対する見下しを止めさせたいんだってさ。それで今回の依頼になったみたいだよ」
「成る程、そんな裏があったんだ。まあ、あの領主も執事長も何もしなかったもんねえ。家令はどこに居たのか知らないけど、女王の依頼に対して非協力的ってどう考えてもマズいわよ」
「唯でさえ封建社会の王権制の国において、王に非協力的なのは難癖を付けて下さいと言ってるようなもの。権力争いなら総攻撃を受けて潰されるのが当然。幾ら見下しや差別が酷いからといっても、アレは無い」
話の途中でラスティアとキャスティとファルを呼び、ファルは朝食の応援に行かせた。ちょっと召喚するのが遅れたけど、話に集中していた僕が悪いので仕方ない。師匠のスケルトン・クラフターから怒られそうだ。
「それにしても私達をダシにして矯正するのは良いんだけど、これで終わりなら随分簡単な依頼ね」
「それがそうでもなくてね、小屋を作ったのが誰か分からない。グリーントレントが大繁殖している原因が分からない。あの森にはウェルズベアーの毛皮ぐらいしか産物が無かったのに、今は薬草類がある」
「つまり本来なら無かった筈の物があって、おかしな魔物も大繁殖してる? ……当初の目的は達成してるけど、おかしな事の原因が分かっていない。こっちに依頼を切り替える可能性もあるね」
「流石に当初の目的というか、裏の目的が簡単に達成されすぎてるからね。そっちに依頼が切り替わっても、こっちは強く文句は言えないよ。あまりにもあっさり終わってるし」
「言いたい事は分からなくもないわね。流石にこれじゃ駄目だと思わなくもないもの。っと、来たわね」
ファルが来たので話を止め、僕達は朝食をとりに食堂へと移動する。席について食事を開始すると、師匠が話し始めた。
「昨夜、ウェズベア森とカルトラス山の境界に行ったら、コトブキの言った通りの小屋があった。更にその中に人の気配を感じたのでな、中に入って一気に捕縛。その後にごうも、尋問を行った」
「「「「「「………」」」」」」
「その結果、グリーントレントを増殖させる研究をしておる者であった。どうも<闇の花>とかいう地下組織から頼まれてやっておったようじゃの。魔物を増やす研究だったのだが、その男は何故かグリーントレントを増やそうとしておった」
「何故グリーントレント……」
「グリーントレントがおる森は、豊かな環境になる事を知っておったそうでな。それで増やしておったらしいわ。どうやら地下組織の連中はそれらの薬草やグリーントレント、そしてウェルズベアーで資金を得ようと考えていたようじゃの」
「あっさりと失敗してますが、そんな事をねえ。僕達に見つかって師匠に引きずり出された以上、組織が維持できるとはとても思えないんですが? だって親衛隊という狂信者が動くでしょう?」
「まあのう。確実にあやつらが動いて処理するじゃろうの。なので地下組織に関してはこれで終わりとなる。が、流石にそんなに甘くはない。マリアはカルトラス山を調べてくれと言うておったぞ」
「そちらにも何かされているかもしれないからですか?」
「うむ。可能性としては低いが無いとは言えん。一応ごう、尋問したから吐いていない情報は無いと思うのだが……」
「それでも調べない事には安心できないでしょうし、仕方ないのでは? 僕達もアレだけで依頼が終わったとは思えませんし、あの程度で勲章は流石に……。唯の領主の自爆ですからね」
朝食を終え、僕達はユウヤにフレンドコールで説明する。ユウヤは驚いたものの、説明内容には納得していた。僕は召喚モンスター達を呼び出し、こちらにやって来たユウヤと共に、新しい転移魔法陣に乗る。
転移した場所は、昨日見た小屋の隣だった。ここからカルトラス山を調べていくのだが、まずは山へと歩いて進む。ユウヤが先頭に立つ陣形で進んで行くものの、すぐ後ろには僕が居るし召喚モンスター達も居る。
これだけの大人数だと陣形なんてあってないようなものだ。周囲を警戒しつつ、エストには空から見てもらっている。トモエもルーイに飛んでもらって確認しているようだが、今のところ魔物は発見できていない。
僕達が進んでいると、魔力反応があった場所から敵が飛び出してきた。
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<ライトウルフ> 魔物 Lv33
【光魔法】を扱う狼の魔物。厄介な目眩ましを多用してくる為、忌み嫌われると同時に恐れられている。集団になると目を眩まされる可能性が高いので、戦い方を考えよう
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「目の前のはライトウルフ。【光魔法】で目を眩ませてくるから注意!」
「【光魔法】って……それって普通は天使の星じゃねえのか!? 何で悪魔の星に居るんだよ」
「文句言わず前で戦う! 目が眩まされてガブリとやられないようにね。やられても助けないよ」
「いやいや、そこは助け、はやっ!?」
思っていた以上にライトウルフの動きが速く、【光魔法】が無くても厄介な魔物であると判明。ユウヤは2度目の噛みつき時にシールドバッシュを行い気絶させた後、頭に棍棒を振り下ろして始末した。
目眩ましと速い噛みつきが厄介なだけで、打たれ強くはないらしい。シールドバッシュが効きそうなので、出来れば気絶させる事をメインに戦ってほしいけど難しいかな。
モンスターのAIも優秀だし、一度見られたら対応されそうな気がする。そう思っていたら、今度は4頭同時に出てきた。そして案の定、1頭を気絶させたら残りは近付いてこない。
仕方なく【ダークジャベリン】で攻撃しつつ、僕の方に引き寄せる。素早くジグザグに動きながら接近してきたけど、動きからバレバレだ。僕の左から噛みつきにきたものの、既に短めに持っていた槍で口の中を突く。
真っ直ぐに突きこんでやったからか、一撃で死亡し消えていった。僕が倒した時には戦闘は殆ど終了しており、セナが飛び込んできたライトウルフの頭をヌンチャクでカチ割ったところだった。
未だに【光魔法】は使われていないが、僕達も油断はしない。目が眩むというのがどれ程のものか分からないが、戦闘中に目が眩むというのは致命的すぎる。
まともに戦えなくなってしまう可能性が高いので、出来得る限り受けない方向で戦いたい。まだ2戦しかしていないんだ、相手の強さも分かっていないと言える。そう言って、皆の気を引き締めさせた。
……にも関わらず次の戦闘。余裕を見せたユウヤが【光魔法】を喰らい、目が見えなくなった。ある意味でお約束というか、ユウヤがやるべき事をしっかりとやっている気もするが、フォローする側の身にもなってほしい。
素早く前に出た僕は【ダークバレット】を連打してヘイトをこちらに向け、噛み付いてくるライトウルフに対し【闘刃】を使って倒していく。流石に2頭同時の噛みつきは厄介だったが、そこは柄を使う事で防いだ。
皆も一気に攻めてくれた御蔭で、素早く倒す事はできた。が、ユウヤの目はまだ眩んだままらしい。




