0313・謎の小屋
「僕達への依頼はどうなるんでしょう? ここで裏をバラしたって事は失敗ですか?」
「いえ、元々はヴィッシュ伯爵の尻尾を出させれば良かったから初日から合格よ。そもそも女王である私が依頼している以上、協力するのは領主の義務なの。最初からそれを放棄している訳でね、叱責するにはそれだけで十分。能力は高いから失脚させる気は無いし」
「しかしマリアよ、そやつはそれを分かってやっておるのではないのか? どうせ能力惜しさに厳しき沙汰は下せまいと、高を括っておる気がするがの」
「それだったらそれで構わないわ。ちょっとコトブキ君に<煉獄の枷>を嵌めてもらえば良いでしょう。それで従うようになるわ。駄目なら可哀想だけど、配下に任せて洗脳処置ね。それで忠実な下僕になってくれるから」
「「「………」」」
まあ、ラスティアとキャスティは黙るだろうし、アマロさんが唖然とするのは分からなくもない。親衛隊の事を知らなければ、そのリアクションになるのも分かる。狂信者を知っていれば普通としか思わないけどね。
「それよりも問題は山小屋なのよねぇ……」
「山小屋か……普通の山小屋であれば気にもならんが、結界の魔法陣の上に建てておるというのが奇妙だのう。そこまでして、そんな所に小屋を建てる必要があるのか?」
「あの辺りにそんな事をする理由がある場所なんてないわ。森や山の恵みを密かに得る為? ウェルズベアーの毛皮なら分からなくもないけど、わざわざ黙って知られずに小屋を作る理由にはならないわ」
「特に結界の魔法陣をわざわざ使ってるところがねえ。私達も確認してるけど、割とお金が掛かるうえに高度なのよ結界は。どこから人員を用意したのかしらね?」
「その辺りを調べれば明らかになりますかね? 闇で活動している者も居るでしょうし、そういう者を使っていると足取りは追えない気がしますが……」
「それは仕方ないわ。問題はそういう潜っている奴を使ってまで、何故あそこに小屋を建てたのかという事よ。そこまで利益にならなさそうだし、ウェルズベアーの毛皮も急に増えれば怪しまれるし値も下がる」
「おまけに小屋があるのは森と山の境界に、それも隠すように置いてある、と。やはり怪しいの、それにグリーントレントが大繁殖しておるのもおかしい。何がしかの実験かの? グリーントレントを増やす?」
「増やしたところで臭いか、鍛冶師が喜ぶぐらいでしょ? 素材としてはそこまでで、魔炭にした時の質が良いぐらいだし。別にそこまで必要な素材でもないわよ」
「グリーントレントが臭い所為で魔物が城塞都市に行ったという話が、どうも現実味を帯びそうです。それはそれでどうかと思いますが、事実としてその可能性も……」
「<死王>の事は関係無いけど、魔物が城砦都市の方へ近付いてるのは事実なのよね。森の中でグリーントレントに臭い息を吐かれ、狩りにならないから出てきたのかしら?」
「その可能性はそれなりにありそうだが、小屋がのう。やはり人為的に何かをしておると考えるのが一番自然か? しかし今のところの異変が、城塞都市に魔物が近付くのと、グリーントレントだけというのもな」
「そうねえ。魔物が近付くのもグリーントレントの所為だとしたら、グリーントレントが異常に増えているというだけなのよねえ。ウェズベア森は、そもそもウェルズベアーしか特産は無い訳だし」
「ん? ……マリアよ、今日コトブキが<ティロエム>と<クリュード草>と<ロッティウヌ草>を持って帰ってきたぞ? あれらは十分な産物になるであろう……もしかして、これも異変か?」
「………私が読んだ資料に薬草の事、ましてや<ティロエム>の事なんて書いてなかった筈。あそこの森で<ティロエム>が採れるなんて記録は無かったような……?」
「ふむ。やはり小屋の近くに転移魔法陣を置いてくるのが一番じゃな。誰かが使っておるなら、運良く出くわすかもしれん。出会うたならば、叩きのめして聞き出してくれようぞ」
「ま、<破滅>殿がそうしてくれるのが一番手っ取り早いと思うけどね。もし捕まえる事が出来たら情報をお願い。対価はいつも通りに支払うから」
「まあ、分かった。誰かが本当に使っておるのか分からんが、居たら縛り上げてそっちに渡してやる。妾が聞いた後でな」
「拷問し過ぎて壊さないでね。それじゃ」
そう言ってマリアさんは影に沈んで去っていった。僕達は見慣れたものだが、アマロさんは初めてなのか少々驚いてるね。同じ事が吸血鬼なら出来るのか、その辺はまだ分からないけど。
僕達も食事を終えてソファーの部屋へと戻り、いつも通りにマイルームへ。ラスティアとキャスティも呼び出してログアウト。リアルへと戻る。
雑事を熟して食事をし、お風呂などを済ませたら再ログイン。今度は訓練場でキャスティから【生命力操作】を習う。
ランクというか格が上がると生命の器も大きくなる。その大きくなった生命の器なら多く使えるのだが、今の格なら乱発は危険との事。白く輝くまでいくと篭めすぎなのだそうだ。
ほんのり輝く程度で十分で、その状態で扱うと危なくなったら分かるとの事なので訓練をする。少し経つとあからさまに気分が悪くなってきた。吐きそうになっているが、これが生命力の使いすぎ状態らしい。
この状態になれば誰もが危険だと分かるが、白く輝く状態だと、たった1回で危険域を超えかねないようだ。イベントの時はそうでもなかったんだが、あれは偶然にもギリギリだったのか? そんな気がする。
十分に【生命力操作】を学べたらログアウト。本日はここまで。
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使い魔:ラスティアが【生命力操作】を習得しました
使い魔:キャスティが【生命力操作】を習得しました
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2000年 10月21日 土曜日 AM8:34
今日もログインする訳なんだけど、師匠が小屋に転移魔法陣を置く話はどうなったんだろう? 特に犯人が居たら捕まえるという点がどうなったか気になる。実際に犯人じゃなくても、誰かが使うために小屋を建てたんだろうしね。
その人物が何を考えて、どんな事をしてたのか。気にならないと言えば嘘になる。それはともかく雑事も終わったし、さっさとログインしよう。
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使い魔:ラスティアのサブ職業:踊り子・下級のレベルが上がりました
使い魔:キャスティのサブ職業:農家・下級のレベルが上がりました
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囲炉裏部屋に転移した僕は、すぐに倉庫に行き売り上げを入れる。中に入っているファルとキャスティの作った物を売りに出し、2人に声を掛けてからソファーの部屋へと移動。
どうやら既にトモエやナツにイルも来ていたようだ。3人はアマロさんと話しているみたいだけど、どうやら色々と教えているらしい。
「あっと、コトブキ君やっと来たんだね。それよりも新しい人が居るなんて聞いてなかったよ、何で教えてくれなかったの?」
「何でもなにも、僕も昨日の夕方に初めて会ったばかりなんだけど? しかも昨日はマリアさんの話とか色々あって、それどころじゃなかったし」
「城塞都市の話、何か進展あった?」
「進展というか、何というか……もしかしたら朝食の時に師匠から進展は聞けるかも」
「「「???」」」
アマロさんは昨日聞いてたから分かるだろうけど、むしろ当事者の3人の方が分かっていない状況になってるなぁ。




