0312・依頼の裏側
セロンヴラドに戻りつつ素材を採取して戻る。そこまで大量にある訳じゃないけど、それは真っ直ぐ東に戻っているからであり、南北に動けばもっと沢山あると思う。ただしグリーントレントもその分居るけどね。
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召喚モンスター:エストのレベルが上がりました
召喚モンスター:エストのレベルが上がりました
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ようやく森を抜け足早に町へと戻る。町中へと入った僕は真っ直ぐ領主館へと行き、門番に中の人を誰か呼んでくれと頼む。帰る為には転移魔法陣を使うしかないからだ。影の者はここまで来て慌てて監視に移行したらしい。
まあ僕がどのタイミングで帰ってくるかなんて分からないから仕方ないんだろうけど、職務怠慢で怒られるかもね。再び執事長が出てきたけど、愛想も言葉もなく僕を先導する。僕も気にせず従い、さっさと小屋の中の転移魔法陣で戻った。
師匠の家に着いた僕は中へと入り、ビックリして立ち止まる。それは知らないプレイヤーが1人居たからだ。
「あれ? いったいどなたですか?」
「えーっと、僕はコトブキっていうんだけど……そちらは?」
「ああ、貴方が有名なネクロ氏ですか。私は<アマロ>と言います。先ほどエンリエッタさんの弟子にしていただきました」
「ああ、師匠の弟子にね。……もしかして第4陣?」
「はい。実は応募に三回も落ちてしまって……まさか第4陣で始める事になるとは思いませんでした」
「そ、それは何とも……。大変だったね」
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<アマロ> 稀人 Lv2
種族:吸血鬼
メイン職業:ネクロマンサー
サブ職業:薬師
状態:健康
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何とも言えない、運が悪い人だなぁ。それよりも吸血鬼っていう種族があったのか。もしかしたら第4陣から追加されたのかな? 僕だって種族が変えられたくらいだし、おそらく3陣までが種族を変える方法もあるんだろう。
あまり初心者に突っ込んで色々聞く訳にもいかず、僕はソファーの部屋に行ってファルの拠点変更をした後でマイルームへと転移。召喚モンスター達をマイルームへと移して戻る。するとラスティアとキャスティとアマロさんがお喋りしていた。
「それにしても、コトブキ以外に<破滅>に弟子入りする物好きが居るとは思わなかったわよ。それぐらい<破滅の魔女>に弟子入りする奴って頭おかしいって見られるの。嫌になったらすぐ辞めた方がいいわ」
「そこまで言うのもどうかと思いますけど、言いたい事は分かりますね。国崩しと言える人物ですから、その力を自分も持ちたいと思う輩は過去にも居ましたが……。そんな者は弟子にもとりませんか」
「でしょうけど、アレなら面白がって教えかねないとも思うけど? それに吸血鬼みたいだけど、引き摺り込んで魔女にするかもね。男でも魔女になれるけど、コトブキは仙人になっちゃったし」
「えっと、コトブキさんは仙人なんですか?」
「まあね。元々は魔人だったんだけど、とある事がキッカケで仙人に変わったんだよ。種族が変更される事もあるから、頑張れば魔女になれるんじゃないかな。どうやってなるかは知らないけど」
「そんな事は<破滅>に聞けば分かるでしょ。本気でするなら教えてくれるわ、逆に本気でする気が無ければ教えてくれないでしょうけど」
雑談の最中にファルが来たので、夕食を食べに食堂へと行く。到着すると既に師匠が座っていたので早めに話しておこう。
「師匠、今日もセロンヴラドとウェズベア森へ行ったんですけど、ウェズベア森に結構な<ティロエム>が生えていました。採って来ましたけど要りますか? 他に<クリュード草>と<ロッティウヌ草>もありましたが」
「ほう、あの城塞都市の隣の森にのう……それは盲点であった。あんな辺鄙な所いちいち調べておらなんだわ。しかし<クリュード草>と<ロッティウヌ草>は便利じゃな。アマロに教える事にも使えるし、あれらはポーションの必須材料。あって損は無い」
「今日はウェズベア森を越えてカルトラス山の境界にまで行ったのよ。そこに結界魔法陣の上に建てた小屋があったのを見つけてね、だから明日からはそこを拠点にして山の調査」
「その小屋はウェズベア森とカルトラス山の境界にあったのじゃな?」
「ええ、そうですけど……何かありましたか? 私達は城砦都市セロンヴラドから真っ直ぐ西に行き、そこからウェズベア森に入りました。そこからもカルトラス山を目指して真っ直ぐ西へと進んだと思いますよ」
「ふむ………マリアには悪いが、そこに転移魔法陣を置くかの。ついでに認証の結界を張っておけば問題あるまい。流石に<ティロエム>だけでは置かぬが、他にも薬草がある可能性がある。妾も自らの足で調べておくか」
「<破滅>が転移魔法陣を敷いてくれるなら楽だから助かるけど、あの女王の狙いとはズレるのが何とも言えないわね。もしかしたらウェズベア森とカルトラス山の調査が目的じゃない可能性もあるわよ?」
「うむ、確かにそれもある。とはいえ、それはコトブキらの受けた依頼であり妾には関係がない。重要なのは薬草が採れる場所の確保じゃからな、そちらの依頼は自分達で何とか……マリアが来たか」
依頼の最中なのにマリアさんが……確かに来てる。単に来ただけなのか、それとも進捗を聞きにきたのか……。果たしてどっちだろうね?。
食堂に来たマリアさんは椅子に座った後、アマロさんを見てから首を傾げ、そして僕を見て話し始めた。
「依頼の事を聞きに来たんだけど、知らない子が増えてるわね? それも吸血鬼じゃない。どうやら稀人みたいだけど、私が関知しない吸血鬼族というのも何だか微妙ねえ……。ま、神様達のやった事でしょうから文句は無いけど」
「依頼に関しては特に何も。今日ようやくカルトラス山に着いたところです。といっても山小屋まで進んでから引き返しましたけど」
「山小屋?」
「ウェズベア森とカルトラス山の境界に、魔法陣の上に建てられた山小屋がありました。どうも安全が確保されてるようだったのを話していたんですが、そこに師匠が転移魔法陣を置くと言ってましたよ」
「ふーん、そんな所に山小屋がねえ。……依頼する前に一通り情報は上がってきてるんだけど、そんな山小屋の話なんてなかったわよ。どういう事かしら?」
「魔物が城塞都市を襲っているという話ですけど、それってグリーントレントは関係ないんですか? あの森やたら大量にグリーントレントが居ますけど」
「えっ? ………ちょっと詳しく話してくれるかしら」
なのでウェズベア森の事を話していったんだけど、その結果マリアさんは黙ってしまった。どうやら想定外の情報だったみたいで考え込んでいる。そこまで考え込む話なのかどうかは分からない。
少しの間、食事をしながら待っていると、マリアさんは口を開いた。
「元々の本当の依頼内容は<死王>とは関係なくてね、あそこの領主であるヴィッシュ伯爵がどの程度の種族主義に陥ってるかを調べる為に依頼したの。どうも他種族を随分下に見ているらしいという報告があったから、コトブキ君達に調べさせようと思って依頼したのが真相なんだけど……」
マリアさんの言葉を受け、僕はあの伯爵や執事長の言葉などを伝えると眉を顰め始めた。どうやらあの伯爵を変える気などは無いようだけど、ボロを出させて鼻っ柱を折ってきたかったみたいだ。
「あまり見下しが酷いと手玉にとられる可能性もあるからね、慎重に相手を窺うぐらいでいいのよ。そもそも相手を見下すって唯の傲慢だもの、そんなのは【傲慢】の悪魔だけで十分でしょ?」
「それは確かにそうね、私もそう思うわ」
【傲慢】の悪魔も酷いって聞いたし、そんなのが何人も居ても困るだろうなぁ。挙句、領地を任せている人物がそれじゃ国としても困るんだろう。
それよりも、僕達への依頼はどうなるんだろうか?。




