0307・熊の毛皮
そのままウェズベア森を探索していると、新たな魔物を発見した。ウェズベア森というだけあって、出てくると思っていた魔物が出てきたようだ。
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<ウェルズベアー> 魔物 Lv42
ウェズベア森に生息している熊の魔物。強力な爪と牙を持つものの、最も厄介なのは高い魔力抵抗を持つ毛皮である。防御力もさる事ながら高い魔法防御力を持つ為、熊の魔物であるうえ近接戦闘を余儀なくされる。地力が試される魔物の一体
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「魔法防御が高いそうだから、近接戦で戦うしかないみたい。地力が試されるって説明に出てるし、ここはユウヤに頑張ってもらおうか?」
「ちょっと待て、コトブキ! 何で俺なんだよ。言いだしたのはコトブキなんだから、コトブキがやるべきだろ」
「僕が戦ってもいいけど、多分すぐに勝つよ?」
僕はウェルズベアーの前に出る。すると、ウェルズベアーは立ち上がって威嚇してきたので、その隙に首に向かって【闘刃】螺旋突きを放つ。首を貫いたものの、ウェルズベアーの首が太かった所為で大きなが穴が空くに止まった。
それでも首に大穴が空いて助かる訳も無く、ドォンという音と共に倒れた後、ピクリともせずに消えていく。あっと言う間に僕が終わらせたからか、逆にユウヤがジト目を受ける羽目になってるね。
「いや、ちょっと待てって。あんなデカイ熊といきなり戦えって言われて、すぐに戦える奴はなかなか居ないぜ? 後、俺とコトブキの戦闘センスは同じじゃないからな? お前ら勘違いしてるだろ」
「そもそもユウヤは近接ビルド。コトブキみたいに魔法寄りじゃない。にも関わらず魔法防御の高い敵との戦いに躊躇するのは駄目。流石に怒られても文句は言えない筈」
「そうだよねー、幾らなんでもアレはないよ。次に出てきたらユウヤと一対一ね。そもそもユウヤだって【闘刃】は使えるんだし、それなら魔法防御なんて関係なく戦えるよね?」
「まあ、そうだけどよー」
「アレでしょ。コトブキが【闘刃】を使った時に気づいたんでしょ。それまで気付く事もなくド忘れしてたんじゃない? イベントの間は使わなかったし、今日はどっちかというと防御主体だったしね」
「僕もそう思うよ。すっかり頭から抜け落ちてたんでしょ、いつものユウヤとも言えるけど。魔法防御が高いって事は闘気で勝てるって事だし、それぐらい簡単に気付くと思う。イベント前なら」
「まあ、確かにイベントに影響受けてるかもな。あの時は石と木の武器しかなかったし、あれに【魔刃】や【闘刃】なんて使ったら簡単に壊れるからなー。最後まで使えなかったのが響いて、感覚がズレたか」
「咄嗟の場合に困ったことになるかもしれないし、直した方がいいね。盾も闘気を流さないと強化されないし、普通に守ると壊れる可能性が上がるし。難しいところではあるんだけど」
「まあな。攻撃によっては素直に受け止めた方が、耐久力の減りが少ない場合もあるからな。そこまで考慮しなくてもいいのかもしれねえけど、盾士としてはキッチリ使い熟したいところでもあるんだよ」
ドロップは毛皮だったけど、これで革鎧を作ってもらった方が良いんだろうか? 今の革鎧よりは魔法防御が上がると思うんだけど、鎧には魔法防御力とか闘気防御力って表示されないんだよね。
【総合鑑定・下級】じゃ無理なのか、それとも何か別のスキルが要るのかは分からないけど。少なくとも魔法防御の高い魔物の毛皮だから、今までの物よりは優秀な物になりそうだ。
「確かにそうね。それに盾に貼ってもいいと思うんだけど、どう?」
「どうかな? やっぱり硬めの素材を最前面にした方が安定するだろうし、間に挟む感じなら上手く魔法防御の効果が出るんじゃないかって思う。昔の人の盾みたいに革を貼るだけだと、物理的な防御力が今より落ちるよ」
「昔の盾って革を貼ってたの?」
「最初の盾は唯の木製だったと言われてる、だから盾じゃなくて楯。次に皮とか革を貼って防御力を上げた盾が出てくるんだけど、この中に有名なアイギスの盾が含まれる。その後は縁を金属で補強したり、前面に薄い金属を貼り付けた盾も登場し、総鉄製の盾に繋がっていく」
「今の盾はポリカーボネートとかの警察が持っているヤツだね。機動隊も持ってるのかな? だいたいは犯人逮捕か暴徒鎮圧用に持ってるだけだよ。戦争では攻撃力が上がり過ぎて、盾では防げないから意味がないんだ。だって戦車でも難しい訳だし」
「それはともかく、アイギスの盾って何?」
「ナツは詳しくないから仕方ないけど、ギリシャ神話のゼウスが持つ盾の事。山羊の皮を付けた盾とか胸鎧とか肩当の事をアイギスと呼んでる。後にアテナの盾になってメドゥーサの首をくっ付けられた、頭のおかしいサイコパス専用の盾」
「サイコパスって……まあ、間違って無いけどな。そもそもメドゥーサって美しいって言われるゴルゴン3姉妹の末っ子だし、やった事はアレだけど、殺される程の事か? って思うわ。わざわざ顔を醜くされたうえに殺されたんだぜ?」
「えっ、そうなの!? それって酷くない?」
「確か、アテナの神殿でポセイドンとヤってたから怒りを買ったんじゃなかった? それで醜い怪物に変えただけでは飽き足らず、ペルセウスに殺させるのよね。その後、メドゥーサの首をアイギスの盾に嵌めるの。完全なサイコパスなのよ、アテナって」
「「「………」」」
ナツがドン引きするのは分かるんだけど、何故かラスティアとキャスティもドン引きしてるね。まあ、ギリシャ神話って頭のおかしいのが多いけど、日本では何故かアテナのサイコパスなエピソードが知られて無かったりするんだ。
ゲームとかアニメに登場するだけで、本当はどんな女神かなんて興味が無いからかな? まあ、僕も興味本位で調べなきゃ知らなかっただろうけど。アラクネの話も酷いしねぇ、気に入らなきゃ癇癪起こすって最悪だよ。
下らない話はここまでにして、再び森の中を探索する。何頭かのウェルズベアーを倒したけど毛皮は最初の1枚だけで、後は牙か爪ばかりだ。予想以上に毛皮の入手率が低くて驚く。これは鎧1つ作るのも大変だ。
「ビックリするほど手に入らないんだけど、どうなってんだ? 魔法防御に優れた魔物の毛皮だから手に入り難いのは分からなくもないけど、それにしてもコトブキが手に入れた1枚だけかよ」
「確かに全く手に入らないね? どうなってるんだろう。皆にチャンスがあるし、倒す人もそれぞれ別なのにコトブキ君しか手に入ってない。これって少々不自然じゃないかな?」
「もしかして取得条件がある? ……もう1回コトブキに倒して貰えばいい。そうすれば分かると思う。同じ条件で試したいから、さっきと同じ方法で倒してほしい」
「まあ、それはいいけど、上手く立ち上がってくれるかな?」
倒し方でドロップするかが変わるって面倒くさいな。逆にそれさえ分かれば簡単に手に入れられるって事なんだろうけど。
ウェルズベアを見つけたので僕だけが近寄り、立ち上がって威嚇してくるウェルズベアーの首を素早く突く。【闘刃】螺旋突きを使ったので一撃で首に穴が空き、倒れたウェルズベアーは消えていった。
そして得られたドロップは、やはり毛皮だった。
「あの倒し方なら確実に毛皮が手に入る、もしくは毛皮の確率が高い事は分かった。問題は他のメンバーが同じ事をしても手に入るかどうか」
「これで駄目なら他に理由があるって事だしな。そうなると原因を絞れない可能性もあるし、できれば出てほしいところだ」
僕もそう思うよ。




