0305・城砦都市セロンヴラド
聞きたくない事を聞いたものの、それは錬金術師として諦めるしかないと思い横に置く。今は僕の事じゃなくてマリアさんの依頼だ。皆も<資格>の事があるから欲しいだろうし、となると解決は僕とトモエだけログインしてる時じゃマズいな。
「今日はゆっくりするつもりだったけど、午後からはセロンヴラドという城砦都市に行ってみようか? ポイント交換は各自が好きにするという事で。本当は皆でワイワイするつもりだったけど、依頼があるし勲章が貰えるみたいだからね」
「ポイント交換はザッと見たところ、前回とそこまで変わってない。今はそこまで種類なども増やす気は無いんだと思う。使うならスキル? 特に習得が難しいスキルか、それともマイルームを充実させるかぐらい」
「確かに適当に見てもそんな感じだね。ユウヤが来たら説明して、城砦都市に行っちゃおうか。早めに始めておいた方が良いだろうし、ユウヤだって勲章が無いと魔力水? ていうのが手に入らないかもしれないし」
「ああ。そういえばユウヤって魔力水を手に入れられたの? いや、その話をしたのってイベント中だったから、そもそもまだ行ってないか。とりあえず貰えるかどうかに関わらず、巻き込みましょう!」
「巻き込むって言い方はアレだけど、ユウヤだって勲章があるかどうかは重要だろうし、それで良いんじゃないかな」
そう言いつつ師匠の家を出ると、ちょうどユウヤがやってきたところだった。事情を説明し、ユウヤと一緒に久しぶりの真っ赤な転移魔法陣から飛ぶ。
着いた場所は石壁が周りを囲む部屋の中だった。ドアがあるので開けて外に出ると、そこは庭? の片隅だった。訳が分からなくて困っていると、執事のような人がやってきて僕らの前で一礼する。モノクル? とかいう片眼鏡を掛けている人だ。
「皆様が女王陛下の依頼を請けられた方でございますね。私めは執事長のファルデスと申します。以後、お見知りおきを」
「僕はコトブキと言います。マリアさん……あー、女王陛下から依頼をされてウェズベア森とカルトラス山の調査を頼まれました。それでお聞きしたいのですが、ウェズベア森とカルトラス山はどっちの方角にあるんでしょうか?」
「それも踏まえて、まずは我が主の所へ御案内いたします。どうぞこちらへ」
そういって執事長さんに案内されるまま屋敷の入り口に回り、入り口から入っていく。中は質実剛健という感じで無駄な装飾とかは無い感じだ。そんな中を歩いていくと、大きな扉の前で執事長がノックし中から誰何の声があった。
執事長が「ファルデスでございます。依頼を請けたお客様をお連れしました」というと、中から「入れ」という声があった。割と低音の声だけど通る声だね?。
執事長が入り、続いて僕達が入ると、執務机には背の高い人が座って何やら書き物をしているようだった。その手を止めると僕達を見て挨拶してきた。
「君達が女王陛下の依頼を請けてやってきた者達か。私はヴィッシュ・セロン・ドラコ、ここの領主をしている。君達が女王陛下の依頼を請けた以上は期待するが、早めに仕事の完遂を頼む。では行っていい」
それだけを言うと手元の書類に目を落としたので、僕達はさっさと部屋を出た。正直に言ってあんまり愛想の良い人じゃないし、こっちを見下してるのが丸分かりだったので適当にスルーした。おそらく吸血鬼だろうし高位なんだろう。そして高位吸血鬼のイメージどおり高慢な感じだ。
ある意味で予想通りというかイメージ通りなので、僕達の誰も怒っていない。何というか分かりやす過ぎる人物だった。そんな内心を隠しつつ、館の入り口まで案内された僕達はそのまま館を出る。吸血鬼の館と思えば印象も変わるが、アレじゃねえ……。
町に出た僕達は思い思いの会話を始める。
「あの領主、俺達に何の説明もしてないって理解してるのかねえ? 女王様からの依頼だっていうのに、何もしてないんだぜ? 後で絶対に問題になると思うんだがなぁ……。それとも女王様まで話が行かないとでも思ってんのか?」
「さあ? 吸血鬼らしい感じだったけど、あくまでも貴族でしかないんだよね。女王が依頼した相手に、少なくとも何の説明も無いっていうのはマズいって分かりそうなものだけど……ワザと失敗させようとしてるのかな? それはそれで、マリアさんが激怒しそうだけどね」
「あの女王が怒らなくても、親衛隊という名の狂信者が何をするか分からない。まあ、ここの領主も狂信者なのかもしれないけど」
「狂信者だから私達が気に入らないって事? そうだとしたら、何か小っさい人だね。自分は認めないっていう態度だったし、女王様から解決できないと思われた事に怒ってるのかな?」
「解決出来ないから送られてきた……そう解釈するのも分からなくはないけど、正直に言ってコレって勲章を渡す為のものよね? ここの領主が云々じゃなくて、私達に勲章を渡して唾を付ける為の」
「そうだと思うけど、あの領主は理解してないんじゃないかな? 僕達に課せられたのは調査と解決だし、あの領主の御機嫌とりなんて含まれてないからね。どうでもいいよ」
僕がそう言うと、後ろで影の一部から感じていた精神が離れた。僕達に対する監視なんだろう。皆は気付いてないかもしれないけど、僕は気付いていた。マリアさんの影に隠れている人すら把握できるようになったのはいいけど、まさか”3人”も隠れているなんて思わなかったよ。
ずっと1人しか見た事なかったから3人も隠れて警護してるなんて思わない。表情に出さない様に必死だったけど、勘付かれてたような気もする。僕の方をチラリと見て来てたし。
それはともかく僕達は町の人に話を聞いていき、ウェズベア森とカルトラス山が城砦都市の西にあるという事が分かった。僕達は御礼を言ってから離れ、町の外へと出て行く。何故かラスティアとキャスティが大人しいけど、どうしたんだろう?。
「別にどうもしないわよ? あえて言うなら、吸血鬼の連中って大抵の奴がプライド高いから鬱陶しいの。いちいち面倒臭いから対応を丸投げして放っておいただけ」
「分かります。かつて天使の星にも来ていた事がありますし、私が返り討ちにした事もありますが、総じて吸血鬼はプライドが高いのですよ。彼らは【血式魔法】という特殊な魔法を使えますからね。その所為でプライドが高いのです」
「それってもしかして、血を操る魔法?」
「ええ。血を操り霧状にして敵の目を晦ませたり、血を活性化させて体を強化したりするの。ただし一度出した血を戻す事は出来ないし、血が減れば使えなくなるから、そこまで強力な魔法ではないんだけどね」
「とはいえ厄介な事は間違いありません。先ほど霧状にするとラスティアが言いましたが、【血式魔法】は全て血を使います。当然ながら物質なので、魔法や魔力で防ぐのは難しいのですよ。更に【血式魔法】を使う事で、体の何処からでも血を出してくるのです」
「そうそう。指先から血を霧状に噴出して目を塞いでくるのよ。いちいち厄介なのよね。そこまで大量の血を使う事は出来ないけど、吸血鬼って高位の奴ほど血を効率的に使ってくるの。特に強化系だと血を失う事もないし、魔力や闘気の強化とは別枠だから併用してくるのよ、あいつら」
へー、そうなんだー。と思うも、このゲーム特殊な魔法って多いなぁ。踊りだって魔法の1種とも言えるし、音楽系もそうだ。更には契約系もそうだし、召喚系も魔法に分類される。
プレイヤーが吸血鬼になれるかは知らないけど、なったら【血式魔法】は使えるんだろうか?。




