0302・アイストレント
食堂の椅子に座り朝食を開始する。僕達が適当な雑談をしていると、師匠が深刻そうな顔で話し始めた。
「そなたらは知っておるかもしれんが、<死王のオーラ>を持つ魔物が見つかったそうじゃ。これは<業炎の魔女>であるフラムからの情報じゃがな。どうも何処からか<死王のオーラ>が漏れておるのか、それとも介入されておるようじゃ。そなたら稀人は神の作りし場所で<死王の欠片>と戦ったと聞く。それからのようじゃの」
「なら稀人が原因という事? それとも神がワザと漏らしてる? 私達に退治させるというか、減らさせる為に」
「ラスティアの言うておる事が正しかろう。例え生命エネルギーを使って封印を強化したところで、死を使ってのものじゃ。僅かなりとも<死王>の力を強める事になる。星が分けられて永い時が経っておる以上、<死王>の力が何処まで膨れ上がったかは誰にも分からんのだ」
「だからこそ少しずつ漏らし、それを退治させる事で減らしていこうという事ですね。大元が減れば封印の力で外に出さずに済みますし、流石に死の概念というのは、私達天使でも何も出来ない相手でしょうから」
「難しかろうな。神どもと大天使と大悪魔で封印せざるを得なかったもの、それを地上の者らがどうにかしようという事が間違いであろう。小分けにすれば対処できるのだから、後は地上の者に任せる。そんなところじゃろうな」
「とりあえず<死王のオーラ>を持つ奴が居たら倒せばいいだけでしょ? 簡単、簡単」
「ラスティア。一応言っておくと、倒すには【浄化魔法】か【回復魔法】が居るんだけど、どっちも持ってないよね? ……そういえばラスティアって、封印される前は【回復魔法】を持ってたんじゃなかったっけ?」
「持ってたけど、<死王>に効くのって【回復魔法】なの? 確か……何か凄く効くヤツなかった? 聖人どもが使ってるヤツでさー?」
「【生命の輝き】と呼ばれるものですか? 【生命力操作】というスキルがあれば使えますけど、あれは自身の生命力を使って使うので限度があるんですよ。回復すれば幾らでも、と思ったら大間違いで、使えば使うほど上限が減っていくんです。最後にはボロボロになって死にますよ?」
「うわ、こわ! 何よそれ? ……生命力を直接使うの? それって超絶に危険じゃないの! 一度や二度なら問題なく回復するんでしょうけど、生命の器を破壊しそうな技ねえ」
「実際そうですよ? 使いすぎれば生命の器が壊れ、二度と元には戻らなくなります。そうなったら、どこかにぶつかっただけで死にかねません。それ程までに生命の器が壊れるのは危険な事なのです」
成る程、気軽に使うのは止めとこう。嫌な予感しかしない。それでも止め的には使って問題無さそうだね。一度や二度なら問題無いみたいだし。それに向けての練習もしておかないと駄目だろうから、密かにやっとこう。
「【生命力操作】って公式イ……聖人の争いの時、最後にコトブキが使ったヤツがそうじゃなかった? 白く輝く槍を投げつけてたじゃない。<死王の欠片>を貫通して飛んでったけど」
「………もしかしてコトブキ、聖人達が使っているのを見よう見まねで使ってみたのですか? ……よくそんな危険な事をしますね。コトブキには生命力の使い方をキッチリ教えた方が良さそうです。勝手に練習すると危険ですからね」
「あっ、私にもお願いね。かつては戦う事も無かったけど、今回は巻き込まれる可能性高そうだから、覚えておいて損は無いと思うのよ。そういえばコトブキは他に何かのスキルを習得した?」
「他は【精神感知】と【看破】くらいかな? どっちも魔力や闘気を隠蔽する敵を探してた時に、色々してたら手に入ったんだ。流石に精神は隠蔽出来ないみたいで、すぐに発見できたよ」
「また珍しいスキルを習得したものじゃのう。ゴーレム系の魔物には効果が無いが、生物系全般は見つけられるスキルか。それだけの感知系スキルを持っておれば、後は磨いていくだけで済む。【看破】もそれは変わらんからの」
その後もちょこちょこ話して朝食は終了。ソファーの部屋に戻ってダラダラ話していると、ユウヤが外の転移魔法陣からやってきた。師匠の家で合流した僕達は適当に雑談して過ごす気だったけど、それでは勿体ないという事で、豪雪山に行く事に。
まあ素材は手に入れておいて損は無いし、それで来たんだけど……。まあ、気付くよねえ。
「アッハッハッハッハッ!! 成る程な。勘違いでファルを置き去りにしてたのか! そりゃまた酷い事をするネクロマンサーだぜ、まったく。しっかし、まさかコトブキがそんな初歩的ミスをするとはなー。珍しい事もあるもんだ」
「本当にね。何でそんな勘違いをしたのか分からないけど、次に召喚体が増えたらファルを外さなきゃいけないんだ。元々生産職として期待してたし、今でもしてほしい事はそっちだからね」
「まあそうだろうな。実際、生産って時間が掛かるし、鍛えていくにも時間が掛かるんだよ。俺だって今は足踏み状態が続いてるしなぁ……魔力金属の件で。素材は集めてるんだけど、なかなか上手くいかねーし」
「そういえば素材って何なの? 僕はその辺りの情報をまるで集めてないし、師匠に聞けば分かるかなと思ってるんだけど、今はまだ聞いてないんだよね」
「通りで今ごろそんな事を言い出したのか。師匠いわく、魔力金属の作り方は<鍛冶師>と<錬金術師>で微妙に違うらしいから、エンリエッタさんに聞いた方がいいぜ。俺の方は魔力水とかいうのが要るんだけど、<錬金術師>には必要ないらしいし」
「魔力水? それってゼット町の北にある湖の水じゃなかったっけ? あそこブルーサーペントが住み着いていて、そこの水には魔力が篭もってるとか何とか……どうしたの?」
「……そんな近くにあったのかよ。………って、そういえば前に聞いたような気がするぞ? しまった、何で俺は思い出さなかったんだ! 通りで師匠が生温い目で見てくる筈だよ、チクショウ!!」
「ユウヤもコトブキ君の事を言えないんじゃないかな? どっちもド忘れしてるし、私達から見たらどっちもどっちだけど?」
「それはそうだけど、あまり言うと返ってきた時に恥を掻くから私は言わない。ナツは御愁傷様」
「ちょっと待って、それはズルい! イルだってトモエだって同じ事を思った筈でしょ。私にだけ恥を掻かせて逃げようなんて、許さないよ!!」
「えっ、何で私何も言ってないのに巻き込まれてるの? おかしいでしょ。私何も言ってないんだけど?」
「そろそろ林に【ダークウェーブ】使うから気をつけてよー。もう慣れてる場所だけど、何があるか分からないからねー」
そう言って僕が【ダークウェーブ】を放つと、いつも通りにスノートレントが動き出して近付いてくる。その後ろに何やら反応の違う木が見えるんだけど、あれ何だろう?。
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<アイストレント> 魔物 Lv18
スノートレントの上位種。スノートレントよりも吐く息が臭く、凍りつくような冷気を吐き出してくる。樵でもなかなか見分けが付かないと言われる危険な魔物。分からないならウェーブ系の魔法で確認しよう
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「アイストレントっていう上位種がいる。遊んでないで真面目に戦うよ! 他にも居るかもしれないから注意して。スノートレント以上に吐く息が臭いらしいから」
「ゲッ!? アイストレントが居るなら注意しなさい。アイツの冷気のブレスは範囲がそこまで広くないけど、臭いの範囲はかなりひ、クッサ!?」
「ぐっ!? これだからトレントは厄介なんですよ!!」
うっ、確かにオーク玉ほどじゃないけど臭い。そして無言で泡のネックレスを使うトモエ。ちょっとズルくない?。




