0293・第三回公式イベント17
リアルに戻って食事をし、雑事を終わらせたりお風呂に入った後、全てを終わらせてからログイン。今日でイベントが終わりそうなので、流石に僕も夜にログインした。囲炉裏部屋で少し食べて飢餓度をゼロにし、それから城に移動する。
城の片隅に出ると、何故か人の気配が全くしない。ついでに周囲を探るものの、魔力も闘気も精神も感じなかった。隣に居るトモエと顔を見合わせ、慌てて掲示板を確認する事で理解できた。
どうやら急に森の魔物から一斉に黒いオーラが上がり、魔物が強化されて暴れ始めたみたい。それで戦争は中止、ここに出現している<死王のオーラ>持ちを倒す事になったそうだ。ちなみに一部の連中が持っていた黒い武器は爆発し、周囲のプレイヤーを巻き込んだらしい。警戒しておいて正解だった。
僕達も森に行こうと思った矢先、ユウヤ達も転移してきた。なのでユウヤ達に事情を説明した後、城に残っていた素材で装備を作ってから出発。相変わらず僕達が置いていた装備は誰かに取られてる。一度も残っていた事が無い。
全員が石と木の武器だけど、これは諦めるしかないね。代わりに残っていた皮で剣帯を作り、そこに差せるだけの棒手裏剣を差してから城を出る。走って前線である森に行くと、森の入り口の所にもホワイトゴブリンが居て、黒いオーラを噴き出していた。
「前にも説明したけど、黒いオーラを減らすには【浄化魔法】、倒すには【回復魔法】が効果的になる。僕とナツは使えるけど、他の皆は使える魔法でサポートをお願い」
「私は【浄化魔法】が使えるけど、【回復魔法】は無理。ユウヤとイルは両方持ってないでしょ?」
「俺は未だに魔法を習得してないからな。まったく持ってない」
「私は【火魔法】ぐらいしか持ってない。<死王>というのはストーリーに関わって来そうだし、せっかくだから両方使えるようになっておく。2つくらい新たに習得しても問題ない」
「あっ、そう考えりゃそうか。俺も【浄化魔法】と【回復魔法】は習得しとこう。何か嫌な予感するしな。持ってないヤツは全く戦えないとか勘弁してほしいし」
そう言っている2人に【セイントバレット】の魔法陣と【ファーストエイド】の魔法陣を見せて使わせる。2人とも覚えるのが苦手なのか、上手くは行かないようだ。戦闘もしてるしね、急に覚えると言っても難しいだろう。
僕達は後ろに魔物を通さないように戦線を維持し続ける。前にビッグハンマークラブを引っ張った時には、相当の距離を追いかけてきたので、城にまで行かせると陥落しかねない。そんな嫌な予想もしてる。
「それはあるかもな。俺達2陣営に勝ってるのに、後でコッソリ入り込まれて負けましたー、ってなったら流石にキレる自信あるわ。そして運営ならそれを狙ってきそうなんだよな」
「公式イベントなんてお祭り騒ぎ。その騒ぎに乗じて悪さをするなんて、ある意味では古典的というくらい使い古された手法。だからこそ、やってくる可能性はある。一種のお約束」
「そう考えると、確かにやってくる可能性は高そうね。それより2人は使えるようになった?」
「私は出来た」
「俺も今できた。思ってるより魔法って簡単だな、難しそうなイメージを勝手に持ってたけど、そんな事は無かったか。コレなら早めに習得しとくんだったぜ。<マジックアカデミー>の所為で苦手意識があったみたいだ」
「あの魔法バカゲーで? 確かに分からなくもないし、終始ユウヤは面倒臭そうにしてたよね。マジックウェポンは使ってて楽しかったけど、無駄に凝ってた所為で魔法使うの大変だったし」
「そうなんだよ。呪文がどうとか星の配置がどうとか、五芒星がどうとか六芒星がどうとか。鬱陶しい事このうえなかったからなー、アレの所為で若干魔法に苦手意識あったんだと思う。マジで面倒臭かったし」
「そういえば前にそんな話をしてたわね。あんた達2人がそう言うって事は、思っているより遥かに面倒臭いゲームだったって事でしょうけど……よく続けたわね、そんな面倒臭いゲーム」
「面倒くせえけど面白いんだよ。ビックリするぐらい面倒くせえ癖に、ゲームとしては面白いんだ。それが腹立たしくてな、コトブキと頑張ってたんだけどさー。途中でついにギブアップした」
「その2ヶ月ぐらい後に突然サービス終了して終わったけどね。せっかくの面白さを、鬱陶しい魔法の手順で全部台無しにした感じ。誰がゴリ押ししたんだろうね、アレ。未だに何故ああだったのか本当に理解出来ない」
「皆、余裕だね。私が必死に魔法使ってる横で簡単そうに……」
「ナツはゲームに慣れて無いからしょうがない。そのうちにナツも乱戦に慣れる。私達は幾つものゲームをしてきたから慣れてるだけ」
「まあ、そんなもんだ。慣れれば覚えたての魔法を使いつつ、敵の攻撃を盾で捌く事ぐらい当たり前のよ、あいてっ!?」
「ユウヤ……そこはきっちり防ごうよ? どうしてこう、締まらないオチに持っていくかな?」
「別に持っていきたくて持ってってる訳じゃね、うぉっ!? 何だあれ!!」
突然、森の一角に巨大な黒いオーラが立ち昇り、僕達の周りに魔物が沢山ポップした。その魔物達は黒いオーラを立ち昇らせつつ、なぜか城に向かって走って行く。ヤバいと思った僕達はすぐに黒い魔物に【回復魔法】を掛ける。
すると、【回復魔法】を受けた魔物だけは僕達を狙ってきた。
「こいつら【回復魔法】を受けないとこっちに向かって来ないぞ。城に行かせたらマズい! 誰でもいいから掲示板に書き込んでくれ。【浄化魔法】か【回復魔法】が使えないヤツは掲示板に書き込んでくれ!」
ユウヤが森に向かって大声で叫んだけど、聞こえただろうか? 僕達はそれどころではなく、大量の魔物に【回復魔法】を使って、何とかタゲをとっている。それでも漏れがあり、走って追いかけつつ【回復魔法】を強引に掛けていく。
敵に追いかけられつつ、敵の攻撃を回避しつつ、城に向かっている敵に【回復魔法】を使う。本当にお祭り騒ぎというか、魔物と踊ってるかのような状況になってきた。それでも僕達だけで食い止めたのを褒めてほしいくらいだ。
特に乱戦に慣れていないナツがマズい。後ろからの攻撃に対処出来てないんだ。僕は素早くナツを後ろから襲っている魔物に【回復魔法】を使い、こっちにターゲットを変えさせる。僕も厳しいけど四の五の言っていられない。
必死になって凌ぎ、【回復魔法】を使って少しでも数を減らしていく。僕自身を狙ってくる奴が全然減らないけど仕方ない。タゲが外れそうになると【回復魔法】を喰らわせ、無理矢理にこっちを向かせる事で城には行かせないように止める。
途中から掲示板を見たのか、参戦してくれる人達が来たので何とか分散されて楽になった。本当にシャレになってなかったけど、無事に乗り切れた事に安堵する。もちろん最後の最後で気が緩んで失敗、なんて事をする気は無いので気を抜いたりはしない。
城に向かおうとしていた魔物を全滅させ、ようやく森の中へと向かっていく。巨大な黒いオーラは未だに無くなっておらず、森の中から大きな声が聞こえてくる。どうやらレイドボス的なものと戦っているらしい。
僕達はそのボスへと近付きつつも、雑魚の処理を優先して片付けていく。このままボスが倒れてくれればいいが、雑魚が居るからボスが強化される。そういうギミックも無い訳じゃない。それに城に向かっていたのが気になるんだよね。
ボスには関係無くとも、最終ポイントには凄く影響しそうな気がするんだ。他の陣営は大丈夫かな?。




