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0291・第三回公式イベント15




 ガンガンと棒と柄がぶつかる音がしたかと思ったら、今度は静かな中で踏み込む音や倒れる音などが森の中で響く。稽古と称しながらも確実に殺しにきている攻撃をなんとか捌き、命を繋ぎ続ける。


 ここまでに至ったら流石に僕も分かっている。カムラン氏は僕がなんとか出来るギリギリで動いているという事を。しかし、その速度はどんどん速くなっており、慣れてくればすぐに速度を上げられてしまう。


 静と動の中で呼吸をし、なんとか動ける状況を確保する。まるでリアルのように感じながらも、自分の動きをコントロールして喰らいつく。ここで命を散らしたら何の意味も無い。もはや動ける理由はそんなものでしかないが、気力で凌ぎ続ける。


 それでも決死の覚悟のまま動いていると、突然その時が訪れた。



 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 剣の聖人の陣営の総大将<セイディアス>が、槍の聖人の陣営の総大将<オルテー>に討ち取られました。これ以降、剣と棍の陣営は槍の聖人の陣営の傘下となります。剣、槍、棍の陣営は通常フェーズへと戻ります


 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 「おっと、終わったか。……それにしても、あのバカが討ち取られたとはな。ははははははは! いい気味だ。俺との戦いで一対一だと言いながら、卑怯な事をするから負けるんだよ」



 どうやら稽古はこれで終わりらしい。やれやれ、本当に疲れたよ。それでも気を緩める事はしないけどね、最後まで警戒し続ける。この経験を必ずや城まで持って帰ってやる。そんな思いと共に、僕はカムラン氏を警戒し続けた。


 しかしカムラン氏は事の外あっさりと背を向け、自分の陣営の城へと歩いていく。そんな中ふと立ち止まり、こちらに振り向かずに話し掛けてきた。



 「終わったし、それじゃあな、小僧。派手なスキルとかに惑わされるんじゃねーぞ。一番大事なのは基本だ、それさえしっかりしてりゃ戦いというのは難しくはねえ。派手な技やスキルを使う前に地味な基礎を磨けよ」



 最後にそう言ってカムラン氏は去っていった。僕としてはようやく安堵すると同時に、どっと疲れが押し寄せてくる。聖人との稽古っていったところで、相手は脳筋だからか、やる事は死闘にしかならない。本当に大変だった。



 「お疲れ様。コトブキにしては珍しく、本当の意味で疲れきってるわね。ギリギリの攻防だったのは分かるんだけど、もしかして手加減されてた?」


 「かなり手加減されてたね。元々から圧倒的に向こうの方がレベルが高い訳だしさ、どう考えても不利なんだよ。なんとか避けてても、避けられるからって加速させてくるし、身体強化をしててもその速度で攻撃してくる。正直言って常にギリギリは大変だよ」


 「聖人はスキルを使わなくても強いけど、スキルじゃなく実力を磨けって言ってた。おそらくだけど、高威力のスキルはかなりの隙があるんだと思う。よくある後出しジャンケンが勝つタイプかな?」


 「先に大技出したら負けるタイプか。大技後の隙が大きすぎて使えないヤツな。高威力ならそうなっても普通だと思うから、PvPになると小技の応酬になる。実際NPC相手でもそれは変わらないだろ。対人戦なんだしさ」


 「それよりも早く戻ろう? 他の陣営の人が手を出してくるかもしれないし、襲われたらマズいよ」


 「そうだな、さっさと戻った方がいい。コトブキ、大丈夫か?」


 「大丈夫、今の内にさっさと戻ろう」



 僕はそう言って歩き出す。先ほどの戦いでかなり消耗したけど、それでもMPやOPが尽きている訳じゃない。【精密魔力感知・下級】や【練気感知・下級】、それに【精神感知】を使って警戒しながら戻っていく。


 幸いにも襲われる事なく城まで戻れたので安堵しつつ、一度マイルームへと戻ってログアウト。すぐにログインしてマイルームから城へ。おそらくこれでカムラン氏との戦いは記録された筈。


 僕が戻ってきた少し後に皆も戻ってきたので、少しダラダラしながらリヤカーを牽いて森へと行く。残りの陣営がどうなるかは知らないが、素材を集め……ホワイトゴブリン? ホワイト系の魔物が出るようになってる!。



 「槍の陣営が3人の聖人の陣営になったからか、ゴブリンがホワイトゴブリンに変わってる。この武器じゃキツいかもしれないけど、頑張って倒そう。良い素材をくれるかもしれない」


 「ホワイトゴブリンなら勝てなくはないだろ。流石にホワイトオークかブルーオーガなら分からないけど、よ!!」


 「そうだね。連携が多少よくなった程度じゃ、武器が悪くても負けないよ。それに武器を強化しなくても普通に戦えるしね」


 「この程度に負けるなら、そもそも36階とかに進んだりしない。あそこの大乱戦に比べたら、この程度は大した事でも何でもないし」


 「それでも魔法で崩したりとか色々しなきゃいけないけどねー。武器が悪すぎて一撃で勝つのは無理だから」



 周りに居る味方がザワついてるから、あんまり僕達の内情をバラさないでほしいかな? といっても何かを言ってくる事なんてしないだろうけどさ。そんな事を考えていてもキッチリ倒して得たのは鉄だった。


 どうやらホワイトゴブリンは鉄を落とすらしい、ならば他の魔物は? そう思って調べると、ホワイトコボルトはカッパーウッド、ホワイトオークは白曜石だった。これで白曜石製の武器は確保できる。


 ユウヤ達はすぐに理解したのかホワイトコボルトとホワイトオークを中心に倒し、カッパーウッドと白曜石を持って来たので武器を作る。ユウヤには棍棒と盾を、ナツにはメイスと盾を、イルとトモエにはナイフとスティレット。そして僕は槍だ。


 ユウヤが武器を手に入れた段階で簡単に敵が殺せるようになり、そこからは凄く楽になった。何と言っても敵を数回の攻撃で殴り殺してくれるので、戦闘の終了が極めて早く、その速度で素材を入手できる。


 一気に武器を作って進め、集まったら新しい武器を作る。そのサイクルで5人全員の武器を揃えた。最後にオルテーさんに作った片鎌槍に必要な素材を確保し、背負い鞄に詰めてから味方プレイヤーに順次渡していく。


 中には僕に武器を作ってほしいと言う人も居たので作り、渡したら次の人の分も作る。何故か<おすこい>の人とか<スターライト>の人とか居るけど、<検証班>の中にも錬金術師は居たよね? 何で僕が作ってるんだろうか。


 そんな事を考えながらも熟していると、トモエとイルが話し掛けられていた。ふと見ると<般若衆>の人達だったのだが、聞こえてくる言葉から推測するに剣の陣営に居たみたいだ。と思ったら、久しぶりの<仁王>氏もいるね。



 「久しぶりだな。君がどこに居たのか知らないが、槍の聖人は強かった。特に君が作ったという片鎌槍に翻弄されて、我々は手も足も出なかったよ」


 「僕は棍の聖人であるカムラン氏に稽古をつけられてました。信じられない強さでしたけど、稽古だからか殺されずに済みましたよ」


 「成る程な、通りで君がどこにも居ない筈だ。我々とは全く違う所に居たとは……」



 まあ、カムラン氏は僕狙いで襲い掛かってきたからねえ。最初から稽古をつけるつもりみたいだったし、僕を行かせる気は無かったんだと思う。味方の時と敵同士の時では気合いの入り方も違うし、敵同士の稽古はあの時しか無理だろう。


 だとしたらカムラン氏が僕に突っ込んできたのも分かる。それでも、おそらくだけど<剣刀士>を倒すまで待っててくれたんだと思う。聖人の力をフルに使えば、たとえ森の中といえど僕を見つけるのは容易かった筈だ。


 邪魔が排除されるまで待っていたとも言えるのかな?。


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