0286・第三回公式イベント10
「<死王>の封印を維持するには正のエネルギーを注ぎ続ける必要があるので、どちらの星でも戦争を止める事は出来ないそうです。かつて「戦争を止めないのは何故か?」とお聞きした際に教えていただいたのですよ。<死王>の事を」
「私はなんで聞いたんだっけ? ………思い出せないって事は重要じゃなさそうだし、どうでもいいか。それより<死王>とやらが出てきたって事は封印が綻んでるのかもしれないし、気を付けなさいよ? ワザとかもしれないけど」
「神々がワザと封印を解いているというのですか? 流石にそれはあり得ません。神々とて大天使様と大悪魔を作りだしてまで封印したモノですよ? それを解放したりはしないでしょう」
「でも、多少ならコトブキがやったみたいに【回復魔法】で倒せるんでしょ? なら、少しずつ漏らして潰す方に変えたのかもしれないじゃない。封印してたら溜まり続けて、手に負えなくなった可能性もあるし」
「このままでは危ないので少しずつ漏らして相殺し、総量を減らす方向に切り替えたという事ですか? ……大天使様も神々の声は滅多に聞こえないと仰っておられましたし、神々が何をお考えなのかは分からないんですよ。困った事に」
「勝手にされた挙句、後はそっちで対処しろと放り投げられても困るのよねー。とはいえ、かつての星を壊滅寸前にまで追いやった<死王>と聞けば、対処せざるを得ない訳で……。困ったものよね、本当」
「そういえば人間種が滅びたって言ってたけど、それじゃ<死王>というヤツも潰えるしかないんじゃないの? だって生きてる者が居ないんだし」
「全ての生きとし生ける者に死を与える、死の概念。それが<死王>です。死を撒き散らし終わったら、別の星に死を与えるだけでしょう。だからこそ神々はこの星で食い止めたのだと思います」
「成る程。概念が具現化しているだけで、そもそもは概念な訳だ。そりゃ滅ぼせないね。生きている者がいれば、絶対に死は存在する訳だし。世界が無にならない限りは不可能だろうさ」
「そういう事。だからこそ封印されたのよ」
2人の顔が険しいままなのは珍しいけど、話を聞くと仕方ないね。ゲーム的に考えるなら封印が緩んでいるのか、それとも<死王>というのが封印の中で膨れ上がっているのか。おそらくは、そのどちらかなんだろう。
何となくは見えてきたね。星を1つに戻して封印を解除、最後は<死王>との決戦で再び弱らせて再封印、という形だろう。違うかもしれないけど、<死王>とやらがラスボスなら流れ的に間違っていないと思う。
星を2つに分けるとか、どこかの有名なゲームにあったなあ。しかも星を分ける事で封印してるとかいう部分まで。
……口に出すのは止めよう、口にしなきゃセーフだろうし。
城に転移した僕は鍛冶師の所に行って槍を受け取ると、再びリヤカーを牽いて前線へと移動。森の手前にリヤカーを置いて森の中へ。他にもリヤカーを置いている人も居るし、リヤカーを護衛している人も居る。
話を聞くと、どうも回復ついでに護衛しているようだ。薬類も勿体ないので使っていないらしい。相手の城との決戦で使う予定だし、未だに城取りは行われていない。何処の陣営も未だに準備期間に当てている。
そんな状「ビーーーッ!!!」況なの、何!?。
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剣の聖人の陣営が、棍の聖人の陣営に攻め込みました。これ以降は城取りフェーズに以降します。両陣営は頑張って下さい
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城取りフェーズってなに? …………あー、これは大変だ。迂闊に城取りフェーズに移行すると、厄介な事になりかねない。
城取りフェーズに移行した陣営は、素材を一切入手できなくなるらしい。おそらく城取り戦に集中させる為だと思う。
それと城取り中の両陣営には、他の陣営は手出し出来ないんだそうだ。もちろん城取り中の陣営も、他の陣営に手出しする事は出来ない。余程しっかりと準備をしてから攻めないと、このイベントでの戦争はグダグダになりかねないね。
果たして本当に剣の聖人の陣営は、しっかりと準備をしたんだろうか? 最後は魔法を使って戦う事にならないか心配になる。唯でさえ武器は使ったら壊れるのに、何をやってるんだろうね。聖人が負けたら終わりだけど、どのみち聖人vs聖人になると思う。
まだまだ聖人に勝てるようなレベルでもステータスでもないし、どれだけ頑張ってもボコボコにされるだけだ。プレイヤーのやるべき事は、他のプレイヤーの邪魔をする事ぐらいかな。それと飽和攻撃をさせない事。
流石に魔法が入り乱れると、幾ら聖人といえどもダメージを受けるだろうし、そうすると負ける可能性が上がりそうだ。なので敵プレイヤーを減らすのがプレイヤーの仕事で間違いないだろう。
とりあえず今は素材の収集と、道具や武器の作成をしよう。四の五の言っていられない。斧を作って木を伐り、リヤカーを量産だ。とにかく大量に物資を運べるようにすれば、後は夜にログインする人達がどうにかしてくれる筈。
僕は再び石を探して斧を作り、木を伐って石木斧を作成する。その後は木を伐り倒してせっせとリヤカーを量産。休んでいる人達に城まで運んで貰う。とにかく少しでも素材があれば武器ぐらいは作れる。木だけでも運んでもらおう。
リヤカーを作ったら木を載せて運んでもらい、戻ってくるまでにリヤカーを作る。戻ってきたら木を伐り倒してリヤカーに載せて運んで貰う。石もせっせと運んでもらい、とにかく素材を城へと運ばせる。
石と木の武器だけでも、あるのと無いのでは大違いだ。素手よりもリーチが長ければ、その分だけ有利になれる。そんな事を話しつつ、どんどんと頑張って運んでもらった。
流石に時間が来たので僕も城へと戻る。それまでに青銅で斧を作ったり石木斧を量産したりしているし、城では石と木を組み合わせた武器を多く作っているらしい。やはり棍棒が多いみたいだけど、結構な槍も作られている。
それを見ながらリヤカーを城の中に置いた僕は、隅へ行ってマイルームへと転移。そのまま囲炉裏部屋でログアウトした。本日はここまで。
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2000年 10月17日 火曜日 AM8:33
昨夜、晩御飯の時に両親も交えて話したけど、公式イベントでついに城取りが始まった。剣vs棍だけど、現在どうなってるのかは分からないようだ。シズは夜にログインしてたそうだけど、どういう風に争ってるかの全体像は判然としないみたい。
陣営が違うのと森で争ってるのが多くて分からないらしく、相手の城にも近づけないようだ。何でも透明の壁みたいな物で阻まれるらしく、「ここから先は城取り中ですので進めません」というウィンドウが出たらしい。
一旦城取りが始まると、他の陣営が横槍を入れるのは不可能のようで、決着が着くまで見守るしかない。まあ、他の陣営にとっては素材回収のチャンスなので、このまま2つの陣営が争っている隙に沢山集めておくのが正しい戦略だろう。
ログインして囲炉裏部屋で起き上がったら、ファルとキャスティの作った物を売りに出す。プレイヤーマーケットからお金を回収して倉庫に入れたら、適当なサンドイッチを出して朝食に。
運営マーケットでお菓子を買って倉庫に入れていると、ラスティアとキャスティがやって来た。ここ最近は戦闘も無いので暇らしく、愚痴を零される。適当に相槌を打ちつつスルーし、僕は城へと転移。僕に愚痴を零されても困るんだよ、どうにもならないし。
近くに居た人に話を聞くと、剣と棍の城取りはまだ終わっていないようだ。なので今の内に素材の回収と、リヤカーの量産を頼まれたので了承。早速、出発だ。




