0277・第三回公式イベント01
2000年 10月15日 日曜日 AM7:22
今日は公式イベントの日なので早く起きて用意を終えた。両親は居ないので素早く雑事を終える事が出来たのでログイン。今の内にやるべき事を済ませておく。今回の公式イベントもログインしている者は全員強制参加だ。
ちなみに朝8時までにログインできていない者は、後から参戦する事が可能ではある。ただし席が余っている陣営にしか参加できないというデメリットがあり、今回の公式イベントは決着が着くまで続くイベントらしい。
この決着が着くまでというのは本気らしく、途中で退席可能となっている。マイルームに退避する事が出来るので、本当の意味で決着が着くまで続くんだ。何でこんなイベントにしたのか知らないけど、とんでもないなっていう気はするよ。
最後まで勝ち残った陣営が勝者となるけど、敗者も戦いは終わらない。実は負けた陣営は勝った陣営に味方しなきゃいけないので、最後まで分からない戦いになる。ちなみに公式イベントの名前は、「あの城を落とせ!」というようだ。
ログインして真っ先に確認するのは僕の装備だが、修復などはしなくていい。何故なら今回の公式イベントでは、何もかもの持ち込みが禁止されている。つまり裸一貫というか、服のみでの参戦となっているんだ。
公式イベント当日にそんな情報を出してくる辺り、完全にワザとだろうけど。それはともかく、武器防具が全く持ち込めない以上は、ここで装備の確認をする意味が無い。やるべき事は倉庫に全て詰める事だ。
それが終わった僕は現在、マイルームの囲炉裏部屋でゆっくりとしている。
「今日は聖人達の争いの日と聞いていますが、本当にあるのでしょうか? 私達が参戦出来ない以上、確認する術がありませんので」
「まあ気持ちは分かるよ。とはいえ決まってるし、間違いなくある。何たって武具も道具も、ありとあらゆる物が持ち込めないってなってるからね。向こうに行ってから、自力で武器をどうにかしなきゃいけないみたい」
「それもまた大変ねえ。武具の持ち込み禁止って事は、武具で強さの優劣はつけないって事でしょ? 余計に自力が求められるけど、コトブキの場合は問題なさそうねえ。むしろ相手が弱くなるから都合が良いかしら?」
「どうだろう? 僕だけじゃないと思うんだよね、武具に拘ってない人。僕も全く拘らない訳じゃないけど、得物が変わっても戦える人はやっぱり居るからさ」
「それだけじゃない気もしますけどね。それよりコトブキは誰に味方するんですか? 聖人も色々と居ますけど、比較的まともな者に味方した方が良いですよ?」
「色々と考えてみたけど、特に変わらなかったよ。槍のオルテーって人だね。槍か棒を使うからさ、どっちか迷ったんだけど……脳筋はちょっと」
「まあ、気持ちはよく分かるわ。脳筋連中ばっかりだし、その中でマシなのが2人しかいないもの。オルテーとイルシエラだけど、今回イルシエラは居ないらしいからオルテーしか選びようがないでしょ」
「でしょうね。私なら武器に関係なくオルテーを選びます。脳筋の相手なんて疲れるだけですし、どうせ突撃しか言わないでしょうから。突撃だけで勝てるなら、誰も苦労なんてしませんよ」
「でも、今回の戦いで組織立って戦うなんて無理だけどね。そもそも稀人はそんな練習なんてしてないし、戦争の訓練なんてしてないんだ。突撃くらいしか出来ないよ? 後は斥候か罠を仕掛けるか」
「罠ですか……。神様が作った特殊な場所で戦うのでしょう? そもそも罠を仕掛けられるのでしょうか?」
「さあ? ……っと、そろそろイベントフィールドまで飛ばされるみたいだ。既にオルテーさんの所に参戦表明してるけど、あっという間に埋まったなぁ」
そう、僕はログインしてすぐに槍のオルテーさんの所の参戦ボタンを押したんだけど、その時点で既に3218人も参戦していたんだ。ちなみに剣と棍と槌は、ログイン時点で既に締め切られていたんだからビックリだよね。
8時になった瞬間イベントフィールドへの転移が可能になっただけで、自動で飛ばされる事は無いらしい。メニューのイベントウィンドウから飛べるらしいので、僕はイベントフィールドへの転移ボタンを押して飛ぶ。
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イベントフィールドは稀人で溢れていたけど、上空に大きなウインドウで男装の麗人が映った。どうやらあれが槍のオルテーさんのようだ。ここは城の入り口近くなんだろう、後ろに門が見えるし。
「稀人の諸君、まずは私の所に来てくれた事を感謝しよう! そして戦うからには勝ちを目指す。私と共に他の4人を打ち倒すぞ!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」」」」」」
あー、もう。五月蝿いなぁ。最初からそんなにテンション上げなくてもいいと思うけどね。今回のイベントは長丁場になると思うから、最初から飛ばしても疲れるだけだと思う。そもそも決着が着くまで終わらないんだしさ。
「城の中には鍛冶場や調理場などの施設がある。外には木々が生えている場所などもあるので素材を調達し、武具を作らなくては何も始まらない。私は槍の聖人だが、槍に拘っている訳でもない。それぞれが使いやすい武器を作って戦うように。それと、城の外には魔物も居るそうだ。その者達は倒せば素材を落とすらしい。頑張って集めてくれ!」
成る程、そういう事ね。まずは石を沢山拾っていって一つにし、石斧を作るのが先か。それが出来れば木を伐る事も出来る。つまり他所に攻め込む前に、やるべき事が山のようにある訳だ。それで稀人のみって決まってるんだね。流石にこのルールじゃズルいって声が出そうだ。
早速僕は外に出て素材を確保しようとしたら、横にナツとイル、更にはトモエとユウヤまでが居た。いや、一応僕が何処に参戦するかは教えたけどさ、何で集まってきたの?。
「コトブキが居るところなら何かが起きる筈、もしくは楽しい事になる筈だから見ていないと損。だからここに参戦した。朝の6時から参戦可能だったから、6時にログインして参戦ボタンを押しておいた」
「私は普通にログインしてから押したよ? それでも3800人ぐらいだったからギリギリだったけど。一番早かったのは槌の聖人らしいって掲示板に書いてあった。あと棍の聖人は棍棒も含むんだって」
「俺も読んだな。聖女的な見た目だから集まるのも早いんじゃないかって思ったけど、意外に槌を使ってる奴って多いみたいなんだよ。コトブキのところの天使も使ってるけど、やっぱり威力の高さに惹かれるんだろうなー」
「そりゃハンマーだし威力は高くて当たり前でしょ、むしろ低かったらビックリするわよ。威力のかわりにメイスよりは使い難そうだけどね。ちゃんと当てないといけないし、綺麗に当てないと威力が分散しそう」
「するだろうね。斧もそうだけど、重い武器って最大の威力を出すのに苦労するんだよ。真っ直ぐ振り下ろせれば良いんだけど、それすら最初は出来なかったり、角度がズレたりして威力が出なかったり。当たり前だけど、武器って簡単じゃないから」
城の外に出た僕達は、話をしながらも素材を集めている。今回のイベントが厄介なのは装備を持ち込めないだけではなく、もう1つ重要な事があるんだ。それがインベントリの使用禁止。
なので素材を運ぶにしても人力で運ぶしかないんだ。今は石を集めているんだけど、この石でさえ抱えて運ぶ必要がある。錬金術がなければ大変だったよ、まったく。
1つに纏められるから持ち運びにそこまで苦労はしていないけど、早急に持ち運びの為の何かを作らないといけないね。




