0270・公式イベントの前日
「明日は聖人どもの争いらしいが、しっかり準備はできたのか? 鎧を作ると言っておったが、防具はなるべく頑丈な物にするべきじゃぞ。よほど動きにくく制限を受ける物でない限りは、命を守る事を優先せよ」
「まあ、当たり前の事ではあるんですけど、動きの制限を受けた事で失敗する事もありますからね。可動域をしっかり把握しておけば済むんですけど、どうにもならない事もありますし」
「それでも全身鎧よりマシじゃない? あれ攻撃受けて凹んだら、途端に動かせなくなるんでしょ? 剣のヤツと斧のヤツが着けてるけどさ、あんまり良い鎧とは思えないのよねえ……」
「全身鎧は確かに打撃系の武器に弱いからのう。身体強化をした一撃なら簡単に凹むし、関節が動かなくなった金属鎧など的にしかならん。もちろんそうさせぬ技術は聖人どもにあるのだが、寄って集って攻撃されればどうにもならんからの」
「それよね、コトブキが得意にしてる事って。当たり前だけど、戦いに勝つには相手よりも人数を多くしてボコボコにすれば勝てるのよね。それは戦争すら変わらない訳だし」
「そうですね。もちろん戦術や戦略で様々に変わりますけど、個々の戦闘としてみれば、多数な方が有利な事に変わりはありません。喧嘩も抗争も権力闘争もそれは同じです」
「勇者って勇敢な個人の事だけど、勇者と呼ばれる者が居る一方で、勇者のお膳立てをした者が沢山いるのよね。そういう人には光が当たらないけど、勇者よりもそっちを評価してあげたら? って個人的には思う」
「言いたい事は分かりますけど、国家としては象徴的な方が褒め称えやすいのですよ。国民を煽りやすいですし、褒賞は1人分で済みます。どう考えても個人の功績にした方が都合が良いんですよね。他の者は多少言葉の端に乗せて終わりです」
「実際の現実などそんなものじゃの。そして勇者や英雄という者が賛美される事で、苦労した他の兵士達の怨みを向ける。そうすれば権力者に怨みは向きにくいからのう」
「碌でもないわね。国家として仕方がない部分を差し引いても、それは駄目でしょ。報われない状況なんて不平不満の温床でしょうに、上は上手く捌いたつもりでもガス抜き出来てないじゃない」
「だから溜まって爆発するんでしょ? 結果的に爆発したから過去の国になってる訳でね。世の中なんてそんなものよ」
「ですね。それに関しては天使の星も悪魔の星も変わりません。人間種である限り、愚かではあるのですよ。ずっと」
なんとも言えない会話なうえに、食事時にする会話でもないような……。僕は聞いてるだけだったけど、それでも微妙な気分になりながらも食事を終える。
ソファーの部屋からマイルームへと行き、2人を召喚したらログアウト。
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リアルでの雑事を熟していると、両親が帰ってきた。お風呂の用意は出来ているので入ってもらい、その間に夕食作りを始める。今日の夕食はハンバーグらしい。先に諸々を作り終えてからにしよう。
「それにしても明日は公式イベントだけどさー、やっぱり支配モンスターを連れて行けないっておかしいわよ。そもそもサモナー系とかテイマー系はさ、戦闘での補正が低いって検証班が言ってたのよ? にも関わらず本人だけとか」
「まあ、物作りで活躍するとか、他にも活躍の仕方は色々あるからね。城取りだけど、全員が城から討って出る訳じゃないし、城を守る人員も要る訳じゃない。そこで活躍すればいいよ。サモナー系もテイマー系も魔法技能は補正受けてるんだしさ」
「それは確かにそうなんだけど、魔法系だけじゃなー……」
「風呂から上がったよー……うん? 静は何かご機嫌斜めみたいだけど、何かあったのかい?」
「明日公式イベントがあるんだけど、支配モンスターを禁止にされたの。どうも運営はプレイヤーだけで争わせたいみたい。でもねー……私達の職業って、そもそも仲間ありきなの。仲間が居るから近接戦闘の補正は低くて、そこまで強くないのよ。タマは除くけど」
「何で僕を除くのさ、僕だって低補正の中で頑張ってるんだよ? 他の職業の人は色々補正受けててつよいなー」
「その棒読み止めなさいよ、戦闘職を当たり前のようにブッ殺していく癖に。そういえば新しい鎧まで作ったんでしょ? 余計に性質が悪くなってるじゃないの。今までは軽めの装備だった癖に」
「当たらなければどうという事はない、っていう言葉を実践してただけだよ。実際に僕は前に出る訳じゃないし、最初からファル……スケルトンに盾を持たせてた訳だしね。なので僕自身そこまで重装備である必要は無いんだよ。今まで戦ってこれた訳だしさ」
「まあ、それはそうだけど……コレはちょっとねー」
シズが僕のスマコンを使って<レトロワールド>の装備を確認している。何故か僕の装備を確認してるけど、自分の装備と比べても意味ないだろうにね。何がしたいのやら……。
「ふーん、これが今の珠の装備なのか。槍と棒に鎧とか……棒手裏剣?」
「ああ、それ。タマが戦闘中に投げてるの。相手の足とか膝とか、場合によっては喉元とか眼にも直撃させてるけど。そういえば、よくあんなの狙えるわね? 戦闘中って動き回ってるでしょうに、普通は眼なんて狙っても当たらないわよ」
「普通じゃなくて、当たるタイミングで投げてるから当たるんだよ。たとえ戦闘中っていっても、常に動き続けてる訳じゃないんだ。一瞬止まるタイミングっていうのがあってね、慣れると分かるようになるよ。更に慣れると、その瞬間には投げてるね。たまに投げてから「あっ」て思う事とかあるから」
「いや、それはそれで駄目でしょ。何よ、気付いたら投げてるって。リアルでは絶対にするんじゃないわよ」
「する訳ないじゃん。流石にそうなるのは戦闘に集中してる時だけだよ。リアルで戦闘に集中する事なんて無いんだから、あり得ないって」
「なら良いけど、イマイチ信用に欠けるのよねー。……それはともかく、何処の陣営に所属するか決めた?」
「槍のオルテーさん? の所かな。何となく棍のカムランって人の所には行きたくないんだよ。師匠もラスティアもキャスティも脳筋って言ってたし」
「キャスティ? ……あら、この女の子ね。……使い魔って書いてあるけど、どういう事?」
「そのままの意味。タマの使い魔なんだけど【純潔】の天使なのよ。この爆乳でハーフラミアーで【純潔】って言われてもねー……っていうキャラ。タマの師匠いわく、力こそパワーの脳筋さんみたいよ、本質は」
「本質はそうなのかもしれないけど、あの時の師匠は皮肉で言ってただけだからね。流石にそこまでじゃないんじゃないかな?」
「へー……何か色々増えてるわねぇ。長く見てなかったけど、スケルトンとか増えてるし……ところで静、貴女のも見せなさい」
「えっ!?」
「おっ、それは見てみたいな。珠が強いであろう事は想像できるからいいが、静の方がどうなってるのかは気になるところだ。PVに珠は映ってたから見れたが、静は映ってなくて分からなかったからな」
「いや、別に見なくていいから! タマに比べたら普通だから! あっ!? ちょっ! 取らないで、別に変な装備とかしてないから!!」
「……変な装備はしてないけれど、何かまた露出部分が増えてないかい? 所詮はアバターであって本人じゃないけれど、流石にコレは……」
「ちょっと待って、一応これは初期値の限界だから。プレイヤーの中には課金して、ここまでやってる人が居るから!」
「……コレってビキニアーマーって名前だったかしら? まさか本気でコレだけ着けてる人が居るの? ……チャレンジャーねぇ」
ああ、有名な<姉御>って呼ばれてる人ね。それよりハンバーグ焼けたから持って行ってくれない?。




