0263・闘気バインド
僕達は上の階に戻り、急いで35階へと進む。既に昼が近いので、一気に突破して師匠の家に戻りたい。大して休憩もせずに情報の確認だけしてボス戦へ。ワーウルフ10体が現れたが、バインド系魔法に闘気を乗せて一斉に縛っていく。
上手く縛れたら首を刎ねるか、喉元を突き刺して殺害していき、出来得る限り早く数を減らす。こちらが猛攻を行うからか敵は数を減らしていき、あっさりと終了した。僕達は急いで36階の魔法陣へと行き、登録したら脱出。師匠の家まで走る。
師匠の家の前でユウヤと分かれた僕達は、師匠に断って先にログアウト。リアルでの諸々を済ませる。終わらせたらログインし、お昼が出来ていたので食事にする。どうやらナツとイルはまだのようだ。
食事をしているとナツとイルがやってきて椅子に座る。2人も食事を始めるが、リアルの方の昼食などは随分と急いだらしい。軽めの物で終わらせたらしく、こっちの方がまともな食事をしているとの事。それもどうなんだろう?。
そう思いながらも昼食を食べ、ユウヤから連絡があるまでに雑事を終わらせる。僕はブラッディキャメルの肉やブラックスコーピオンの身などをスケルトンクラフターに渡し、他の素材は一旦マイルームの倉庫に入れておく。
そういった小さい事をしているとユウヤから連絡があったので、師匠の家の前に出るとユウヤがやってきた。トモエ達も準備などが終わったのか出てきたので、皆で再びダンジョンに向かう。ユウヤはリアルで普通に昼食を食べてきたらしい。
「流石に多少食べただけじゃな……お腹空いて変な警告出ても困るしさ、しっかり食べるのは当然だろ。そこはしっかりしろと思うけど横に置いて、それよりも午後からは36階か?」
「そうだね。36階を攻略しないと先に進めないし、何より突破方法を編み出さないと無理だと言えるくらいに酷いんだ。あそこに書いてあった事だけで攻略出来るとは思えないしね」
「そう? あれで攻略出来るんじゃないの?」
「難しい。コトブキは地形が森だって言ってた。もし森の中で鳴かれたら一斉に敵が集まってくる。そうなったら最悪で、どこから攻撃されるか分からない。どれだけ敵がいるかも分からないから、こちらが一方的に不利になる」
「唯でさえ森の地形って大変なのに、更には魔物を集める厄介な奴が居るのよねえ。そいつをどうにかしない限り、集団から攻められる危険が消えない。安全を完璧に確保するのは無理でも、危険度は下げたいんだけど……」
「今のところ、どうすれば良いのか分からないんだ」
ダンジョン街に入り迷宮魔法陣から36階へ。ハイフォレストチキンの階へとやってきた。皆も周りを慎重に探っているが、幾つかある反応の内どれがハイフォレストチキンなのか分からない。
皆もそうだが困っている。魔力反応や闘気の反応を頼りに魔法を使う事は可能だが、それがハイフォレストチキンなのかどうかが分からない。更に言えば、ハイフォレストチキンだからといって森に入っていくと、他の魔物に発見される恐れがある。
そこから連鎖して鳴かれる可能性もある訳で……うん? 森の中に蔦ってあると思うんだ。それを使えないかな?。
「どういう事だ、コトブキ? 何か思いついたのか?」
「強力なバインド魔法で縛っている間に、他の所に移動させて木から吊るすとかどう? そこで鳴かれても僕達は居ない訳でさ、逆に安全な場所を作り出せると思うんだ。身を隠せる所を見つければ何とかならないかな?」
「つまりハイフォレストチキンを敵を集める道具に使うという事? 確かに隠れられる場所があれば良いけど、無ければ上手くいかない。それに、この大人数を隠せる場所なんて無い」
「そうすると、時間を掛けて敵を倒して突破するしかないって事になるけど……。それとも鳴かれるのは覚悟で、集まってきたハイフォレストチキンをどんどんバインド魔法で縛っていく? バインド役と敵を倒す役に分ければいけるんじゃないかな?」
「それもどうだろうなー……考えてても上手くいく訳ないし、とりあえず色々とやってみるしかねえか。まずはハイフォレストチキンを縛ってみてからだ。コトブキは闘気を混ぜて縛った事は無いんだろ?」
「無いよ。そもそも闘気を混ぜられる事自体、今日初めて知ったんだし」
僕は持っている石を魔力反応にぶつける。「ガン!」という音や、「ギィ!」という声はしたけど、肝心の鶏の声が聞こえない。現れたブラックトータスやパープルリザードを倒していると、ソイツは突然やってきた。
まさかの石を投げずとも来たハイフォレストチキンに驚いていると、「コケェェェェーーーッ!!!」と鳴かれてしまい、一気に反応が近付いてくる。もはや魔物のラッシュは避けられなくなったので、実験として闘気を混ぜたバインド魔法をお見舞いしてやった。
「クフェッ!?」
変な鳴き声を上げると同時に気絶したハイフォレストチキン。鑑定でも<状態:気絶>と出ているので間違いない。他の魔物に対してやってみたが、縛るだけで普通のバインド魔法と変わりは無かった。もちろん効果は強く持続時間も長くなっていたけど、逆に言うとそれだけだ。
どうもハイフォレストチキンだけが気絶するみたいだね。もしかしたら他に気絶する魔物も居るのかもしれない。この階層には居ないみたいだけど、これからは色々調べた方が良いみたいだ。覚えておこう。
「鳴かれたけど、その一度だけで済んで良かったな。残りのハイフォレスチキンは鳴かれる前に闘気バインドで気絶してくれるんで楽だぜ。これ多分だけど、魔力とかの反応に先制で闘気バインドを喰らわせれば突破できるんじゃね?」
「私もそう思う。多分だけどそれが正しい突破方法で、鳴かせて殲滅はただのゴリ押し。どんな魔物か分からなくても先制できるなら戦う方法はある。それが分かったんだから、今は鳴かせるべき。思ってるより肉が高く売れる」
「それだけじゃなくで甲羅も高く売れるみたいよ? コトブキに頼んで武器にしてもらうけど、闘気に耐性のある素材だからこっちに変えたいのよね。魔力は魔法に使いたいし」
「盾士の俺だってそうだぜ? 【魔刃】はそこまで威力でねえし【闘刃】より回数使えないしな。俺みたいな完全物理オンリーなタイプも闘気系の素材の方が良い。魔力の方が良い奴って、どんな構成してんだろうな?」
「魔法オンリーの魔法使い? 魔法使いでさえ剣や盾を持つのに、魔法オンリーにしてる人って居るのかな。ソロじゃとても戦えないし、MPが無くなったら足手纏いにしかならないけど……。仲間が納得するんだろうか?」
「MP切れで役に立たない奴なんて、野良じゃ絶対に組んでもらえない。それこそコトブキの所のセスみたいに、せめて盾を持って前に出てくれないと使えないし」
「野良で組む際は極振りって敬遠されるからな。一芸に秀でてても他が壊滅じゃあ……使えない認定されるのも当然だ。許容してくれる仲間じゃなきゃ無理だし、そもそもロマン枠だからなー、極振りは」
「ユウヤも能力値減って魔力関係は壊滅なんでしょ? 今の状態って極振りっぽくなってるんじゃないの?」
「………魅力を上げてないって聞く、コトブキ君に言われる事じゃないよ?」
「それ何のキャラさ? ついでに僕は途中から魅力を上げてるからね、壊滅はしてないよ?」
「コトブキ、お前もか!?」
「もしかしてブルータス? 他に上げてない勢の知り合いでも居るの? それはともかくMPも回復したし、そろそろ本気で戦いましょうよ。お肉も甲羅も欲しいし、トカゲの皮も意外に良い値で売れるみたいだし」
「滑りにくい皮ってなったら需要はあると思うよ。ゴム関係は無いみたいだし、そうなると滑らない皮の需要は大きいと思う。代わりにスライムが使われてるみたいだけど」
ゴムの代わりにスライムの体液ね。よくある設定だ。




