0261・木箱とスイッチ
2000年 10月12日 木曜日 AM8:18
今日はナツとイルがログインする日だ。3人とも高速で授業を終わらせているらしいけど、それ大丈夫かな? 適当になって、後で「覚えてません」なんて事にならなきゃいいけど。ちなみに学期末にはテストがあるけれども、それ以外には無い。
そもそもVR授業では毎回小テストが出るので、そこでテストを受けているという判定になるからだ。なので学期末のテストで一気に結果が決まってしまう。小テストの結果などは考慮されない。当たり前だけど。
逆に言えば、何度間違えても成績には反映されないという事になる。それはそれで勉強の苦手な人にとっては良い事だと思う。僕はどっちでもいいけどね。どのみち記憶力でゴリ押しするだけだし。
ログインしたらプレイヤーマーケットの売り上げを倉庫に入れて、ファルの物とキャスティの野菜を売りに出す。色々売れているようだけど、野菜の売れ行きと肉の売れ行きが良いね。その分は料理として出回るし、僕にとっても良い事だ。
今日もレベル上げであり、申し訳ないけどフィーゴは留守番となる。その事を説明してソファーの部屋へ。既にナツとイルはログインしており、トモエと話をしていた。僕はすぐに部屋を出ようとしたけど遅く、イルに捕まって矢の作成へ。
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サブ職業:錬金術師・下級のレベルが上がりました
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ここ最近は結構な量の矢を作らされてたけど、それでようやくレベルが上がるとは。次まで相当上がり難くなっているのか、それとも単に矢作り程度では碌な経験値にならないか。もしくは素材の問題だろうか?。
朝食に呼ばれたので食堂に行き、朝食を食べたらユウヤに連絡。転移魔法陣で来たユウヤと合流し、ダンジョンへと移動。その途中で今日は31階からスタートする事を説明しておく。昨日は何とか3体を連れて行けたからね。
「お疲れさんだな、コトブキ。流石に1階から31階とか1日で行くには大変だろ。ついでに探索もさせられたんだろうし、ダブルで面倒だったんじゃないか?」
「まあ、それなりにはね。特に最後のブルーオーガ戦でリーダが暴走したのには焦ったよ。まあ、足を切っておいたから碌な反撃は来なかったけどさ。何故かは分からないけど、ブルーオーガ3体は固まってたリーダを狙ってきたんだ。結果としては楽だったけど」
「固まってる相手であり、自分達より下のランクだから一気に潰そうと思った? もしくは裏切り者とでも思ったか」
「その裏切り者って可能性はありそうだね。だから一斉にマジックオーガに向かったっていうなら分からなくもないし。暴走の理由は分からないけど……」
「そこはアレじゃねえの? やっぱり1度ビビっちまったからには、叩き殺さないとプライドが許さないんじゃないかと思うぜ?」
「グオ!」
「どうやらユウヤの言ってる事が正しいみたいね。気持ちは分かるけど暴走されると皆が迷惑するから、今度からは止めてね」
「グォ……」
「コトブキの召喚モンスター達は大丈夫なのか? おかしな暴走をしてるところなんて見た事ないけど、全く無いとも言い切れないしさ」
「それを言い始めたらキリが無いけど、今まで1度もそんな事は無いね。敵に突っ込んでいく事もない訳じゃないけど、それでも冷静に戦ってるよ。チャンスだと見れば突っ込む事もあるし、上手く敵を捌いているしね」
会話をしつつもダンジョンの31階へ。ここからは敵を誘引して潰す作業だ。進んで行きつつ、遠目にブラッディキャメルが見えたら魔法を放つ。後は寄ってきたブラッディキャメルの足を切り、ボコボコにすれば乱戦にはならない。
皆でウロウロしつつ、魔法でブラックスコーピオンを砂の下から出したりしながら、魔物を倒していく。宝箱を探しているのだが、ルーイも発見できなかったので次へ。
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使い魔:ラスティアの種族レベルが上がりました
使い魔:キャスティの種族レベルが上がりました
召喚モンスター:ファルのレベルが上がりました
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32、33階も無かったので34階。この階もウロウロとしつつ探していると、ルーイがドースの鞍に降りてきて鳴く。どうやら見つけたらしい。翼で方角を示してくれるので進んで行くと、サボテンが群生している中心に木箱があった。
「よくあんなのを上空から発見したなー、鷹の目って本当に凄いんだって痛感するぜ。……さて、誰が取りに行く? あんなサボテンだらけの中心って、嫌がらせが過ぎるだろ。破壊可能だから壊せばいいんだけども、針が面倒臭いし刺さると痛いし」
「まあ、諦めて武器で切っていこう。魔力と闘気も回復するし、その方が良いよ」
と言った結果、長柄の切る武器を持つ僕とユウヤで切り進める事に。ユウヤは面倒になったのか、戟の枝を鎌のように使って根元から切っている。そして切り終わったサボテンを穂先で突き刺して放り投げていく。武器じゃなくて農具に見えてくる使い方だ。
そんな事を思いつつ頑張ってサボテンを切り、ようやく木箱を開ける事が出来た。魔力反応も闘気の反応も無し。なので開けたのだが、中にはスイッチが入っていた。
「これ、どうする? 明らかにスイッチだし、怪しすぎるだろ。押して全滅って可能性も捨て切れないし、何とも言えねえんだけど……ど「えいっ」うするよ」
「「「「あっ!?」」」」
逡巡しつつどうしようか悩んでいると、ナツが勝手に押してしまった。すると「ゴゴゴ……」という音がしつつ、前方の地面が揺れながら左右に開いていく。揺れが治まった頃には、階段が出現していた。
「おいおい。ナツが勝手に押したのは横に置いとくとして、階段が出てきたぞ? 考えられるパターンは3つか?」
「1つ目はこれが罠だという場合。2つ目はこちらが正解ルートだという場合。3つ目はお宝部屋へと行ける場合?」
「他にも特殊なボス部屋とか、イベントが起きる場所とか、可能性だけ考えればもっと色々あるね」
「とりあえず進んでみましょうよ。ここまでして行かないっていうのは、あり得ないんだし」
トモエの言葉に皆が納得し、階段を下りていく。何が待っているか分からないので慎重に下りていった結果、ボス部屋があったので一旦休憩にする。
「お宝部屋の番人か、それとも正解ルートのボスか。コトブキが言ってた方は、魔物を呼ぶチキンが居て突破は難しいんだろ? しかもコトブキは次の階への階段を見つけてないらしいし」
「そうなると、こっちの方が正解ルートっぽいよね。わざわざ木箱を見つけてスイッチ押さなきゃ来れないんだから」
「結局は進んでみないと分からない。場合によっては大きなトラップの可能性も否定出来ないし、何かのアイテムが手に入るかもしれない」
「とにかくしっかり休んで、気合い入れてボス部屋に入ろう。お宝部屋だと番人は大抵強いからね。かなりの強さのが出てくる覚悟をしておかないと」
皆には気を引き締めてもらい、休憩も終わったのでボス部屋の中に入る。扉が閉まり、足元の魔法陣が輝いて現れたのは包帯でぐるぐる巻きの人型。俗に言うマミーだ。
「確かに砂漠の地形だぜ、上は。でもピラミッドも無しに何でマミーが出てくんだ、色々と間違ってないか!?」
「文句言わずに戦う。マミー系は呪いの状態異常とか使ってくるパターンが多いから気をつけてよ。特に前衛!」
「【セイントエリア】!! とにかくコトブキ君と【セイントエリア】は維持するから! マミーってアンデッドなんでしょ?」
「マミーはアンデッドで間違いありません。それにしてもピラミッドの番人が何故こんな所でボスとして出てくるのか……」
「そんな事はダンジョンに聞きなさいよ。元々ここはダンジョンよ? ダンジョン自体が不思議だらけでしょうに、今さら不思議だって言う意味あるの!?」
会話しながら戦えるボスには思えないんだけどなー。何だか嫌な予感がする。




