0221・伯爵とデボン
「良かった、来てくれましたか! ……そこに居るのが盗賊のボスと呪術士。この者達が居れば伯爵令息が呪われていた証拠となります。後は捕縛すればいいだけ!」
「そうか、既に証拠があったんだね。君達、感謝する。私の呪いを解いてくれて、更には義父の犯罪の証拠まで手に入れてくれるとは。む! もう来たか!!」
伯爵邸の玄関から体を鍛えているのがよく分かる、筋骨隆々の渋い男が出てきた。まさかアレがラギル伯爵? ここは醜い感じの明らかな悪役を用意するところでしょうよ? 何で筋骨隆々の渋いイケオジ用意してるの?。
「父上! 例え義理とはいえ、貴方の行った悪行を私は白日の下に晒す。奴隷売買など決してあってはならぬ事。それをガロイに見られたからといって、私を呪い、ガロイを利用しようなど許せない!!」
「お前には永遠に分かるまい、私は子供の親なのだ。庶子である娘しか居らず、その子に後を継がせる事はできん。ならば親として、不自由せぬだけの金銭を与えてやるのは当然の事」
「だからと言って奴隷売買など許される事ではない! そもそも唯の犯罪ではありませんか! それも<デボン商会>に乗せられ……そういえば側室殿は何処へ?」
「ふん、既にビスティオにやったわ。側室は獣人だからな、ビスティオでも差別は受けまい。アンデッドであるお前には永遠に理解できん、己の子を愛するという事はな」
「だからといって犯罪を行ってもいい理由にはならない! 犯罪は犯罪だ!!」
「そうだろう、当然だ。しかし、だから何だというのだ。庶子であるうえに娘では後を継がせる事もできん。何かを残してやろうとしても、ブラッディアの法では多少の金銭しか与えてやれん。自分の子なのにだ!!」
「それは当然でしょう、法でそう決まっているのです。子供達を頼むと言われれば、私も十分な援助をするというのに……」
「血縁なき他人など信用に値せぬ、ましてや義理でしかない子などな。お前はアンデッドだから分からんのだ、血が繋がるという事の意味がな。まあいい、貴様らを潰して私もさっさと子供達の後を追わねばな。こんな国に未練などない」
「今まで散々禄を食んでおきながら、何という言い種だ。ラギル伯爵! 次期伯爵として、貴方をここで捕縛する!!」
「お前如き小童に負けるほど、私は弱くはないわ!!!」
何だろう? よく分からない理屈で戦いが始まったぞ? 伯爵の言い分はおかしいが、親として子供に多くの資産を分け与えたいというのは分からなくもない。おそらく伯爵家の資産は伯爵家の物なんだろう。だから庶子の子供には分けられない。
その為、伯爵家とは別の収入が必要だった。それが奴隷売買? 何でそこへ急に飛躍するんだろうねえ。なーんか、まだ裏がありそうな気がするなぁ。でないと、わざわざイケオジキャラなんて使わない筈だし、小汚い三流悪役で済む。
それが分からな……うん? 何か小汚いのがコソコソと逃げようとしてる?。
「デボン! お前を逃がすと思っているのですか? ここで確実にお前も捕縛し、罪を償ってもらいますよ!」
「ふひひひひ、この私が簡単にやられるとでも? 見縊られたものですなぁ」
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<デボン> NPC Lv24
種族:ハイラットマン
メイン職業:幻惑使い
サブ職業:商人
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メイン職業が<幻惑使い>って事は、おそらくフォグと同じで【幻惑魔法】が使えるんだろう。僕も訓練場でフォグから受けた事があるんだけど、あれってかなりウザいんだよね。
最初から使えるのは【羽虫】っていう魔法なんだけど、使われると視界に虫が飛ぶんだよ。小さい虫なんだけど、視界にブンブン飛んでてすっごくウザい。もちろん幻影なんだけど、気になってしょうがないという鬱陶しさなんだ。
だから僕は【幻惑魔法】を舐めたりはしない。アレは相当に厄介な魔法だ、特に近接戦闘職にとっては天敵と言ってもいい。戦闘に集中出来ないのが、どれほど大変かは嫌というほど知ったからね。
そしてガロイ氏も苦戦している。<デボン>の周りに居る兵士が厄介なうえ、【幻惑魔法】で上手く戦えないんだ。という事で、僕達はこうする。
「ガロイさん! 貴方は伯爵を捕縛する側に回って下さい。このデボンという奴は僕らで捕まえます」
「……すまない、そいつは絶対に逃がさないようにしてくれ! どうも伯爵よりデボンが元凶だと思われる節があるんだ!」
「了解です!」
「ひひひひひひ。この僕ちゃんが私の相手ですかぁ、このデボンも随分舐められたものですねえ」
「皆、【幻惑魔法】は面倒だけど、各自がカバーしあって確実に倒していくぞ。兵士どもは殺せ、アイツを捕まればそれでいい」
「ひょほほほほほほ。怖い、怖い。随分と恐ろしい事を言う、お坊っちゃんだ」
小汚くて小さい男。ラットマンはそこまでじゃないんだけど、コイツは敢えて醜悪な感じで作られてる。こいつが元凶というのも分からなくはないね。盾の4人が前で戦い始めたので、兵士に対して【ダークヒール】を使う。
状態異常が出ないのは、兵士もハイクラスの種族だからだろう。伯爵邸の兵士だからか強いなぁ、普通の兵士とはレベルが違うのが分かる。それはそうとして、デボンという奴を逃がさないようにしないとね。
常に【精密魔力感知・下級】と【練気感知・下級】で把握してるから、逃げられたという事は無い。【幻惑魔法】の使い手なんで気をつけなきゃいけないけど、今のところは大丈夫だ。
「ほほほほほ……レベルは低いですが、なかなかやるようだ。ならばコレはどうですかねえ。【影の舞】」
いきなり視界が影に汚染される。かなり高位の【幻惑魔法】なのだろう。僕はすぐに自分の魔力を操作し、相手の使ってきた【影の舞】を解除する。【幻惑魔法】は魔力で幻を見せているので、その魔力を払えばいいだけだ。まあ、それが難しいんだけど。
とはいえ僕は【精密魔力操作】を持つから、それくらいは出来る。【精密魔力操作】持ちの皆も解除し、できない者はキャスティが【クリアヴィジョン】で解除している。視界の状態異常を解除する魔法だけど、そんな魔法まであるなんて思わなかったよ。
「チッ! 【クリアヴィジョン】か。面倒な奴等だ。お前達、いつまで兵士のフリをして遊んでいる。さっさと殺せ」
「「「「ハッ!」」」」
伯爵家の兵士だと思ってたら、コイツの子飼いだったのか。でも兵士っぽい装備だし、潜ませていたのかな? 相手も盾持ちなんで簡単には崩せない。更にはハイクラスだし、どうしたものか?。
そんな風に戦闘が推移していると、僕の放った【ダークヒール】が効いたらしく突然倒れた。素早く他の兵士がカバーに入ろうとするも、それより早くセナが棒手裏剣を投げて仕留める。首防具を着けてないのが敗因さ。
「お前達、これ以上無駄な時間を掛けるな!! さっさと殺して脱出するぞ! このままじゃ役立たずの伯爵も捕まるかもしれん」
「「「ハッ!」」」
役立たず、ねえ……。ガロイ氏の言う通り、コイツが主体となって奴隷売買をさせていた訳か。1人減ったし、セナが見せたから僕も……今!。
「ガッ!?」
「クソッ、何だ急に!! 一人減ってから、こいつらおかしいぞ! もしかして私を相手に手加減していたとでも言う気か!?」
「全力を出すバカなんて居ないよ。まさか僕達の全力を見切ったとか思ってたの? これだから狡いラットマンは……」
「何だと、キサマ!! 今すぐお前の首を刎ねてやるぞ!!」
「おお、こわ。狡いラットマンの本性丸出しだ。人相にしっかり出てるもんね? 私は狡いですって」
「キィィィィィーーーー!!!!」
わぁ……すっごいキレてる。このゲーム挑発に弱いヤツ多すぎ。




