0220・呪いの解除
盗賊のボスと呪術士を捕まえた僕達は、今は枷を外して確認している。まずは呪術士だが、呪いの効果は未だ続いているものの、すぐに死ぬという事は無いらしい。元々ガロイ氏は強く、彼を利用する為に呪いを掛けているんだそうだ。
解除する事も出来るらしいので、それは今すぐじゃなくていいな。今は伯爵にバレたくない。そして弱体の枷を着けて放置、次は盗賊のボスだ。……話を聞いて分かったが、コイツは<デボン商会>に雇われただけだった。つまり<デボン商会>が関わっている証人でもある。
こちらにも弱体の枷を着けておき、盗賊のボスと呪術士を背負って町へと帰る。背負っているのはファルとシグマだ。僕は未だ<状態:デスペナルティ>のままだからね。森を脱出して歩き、町への地下通路の入り口に来た。
面倒だけど協力して盗賊のボスと呪術士を下ろし、地下通路を運んで行く。スラムの一角にある建物に皆で上げ、そこでマイルームへと転移。再び町に戻ると、スラムの建物だった。王都に戻される事は無かったので胸を撫で下ろし、もう一度マイルームへ。
全員をマイルームへと召喚し、僕はさっさとログアウト。既にいつもより遅い時間だからね。本日はここまで。
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2000年 10月1日 日曜日 AM8:11
ちょっと眠たいけど、体調は悪くないみたいで何よりだ。朝の雑事を終わらせたらログインして倉庫を確認。ファルが作ってくれた物をプレイヤーマーケットに流し、売り上げを回収して倉庫へ。
ラスティアとキャスティも囲炉裏の部屋へ来たので挨拶し、ファルが作ってくれたサンドイッチが倉庫にあったので食べつつ、これからの事を相談する。
「盗賊のボスと呪術士を確保したのは良いんだけど、伯爵と<デボン商会>は健在なんだよねー。その2つを何とかしないといけない訳で……いったいどうしたものか」
「伯爵邸に乗り込んで捕まえるって言っても、向こうには正騎士が居るでしょうし面倒よね。場合によっては結構な強さのも居るかもしれないから、今の強さじゃ確実性は低いわ」
「流石に囲めば勝てるかもしれませんが、高位の正騎士の場合、範囲攻撃系のスキルを豊富に持ってますからマズいんですよ。盾役が瓦解する可能性は高いです」
「そうなると押し込まれて負けるから駄目だね。ガロイ氏に相談したいけど、【念話】が届くかは謎だなぁ。頑張れば繋げられなくもないとは思うんだけど……」
「そういえば【仙力】と違って【心力】は簡単に使うわね?」
「【仙力】もそこまで難しくはないよ。高度な仙力だから難しいのであって、普通の【仙力】なら練りながら動く事は出来るんだ。ただ高度な方は本当に難しい」
「それは横に置いておいて下さい。それよりも今は、この状況をどうするかです。盗賊のボスも呪術士もそこまで命は保ちません、3日というところでしょう。その日数で解決しなければ困った事になります」
「それは分かるけど、今のところ有効な手は浮かばないのよねえ。コトブキも表を歩けないでしょ? 顔がバレてるんだし」
「そうだね。奴等にバレたら最悪、ガロイ氏かその恋人が殺されかねない。とはいえ、まずはガロイ氏にコンタクトをとるしかないね。……できるだけバレずにガロイ氏の所まで行くしかないか」
とりあえずプレイヤーマーケットを探して何か売ってないかと思ったら、フード付きのローブが出ていたので購入。これで顔を隠そう。怪しいけど、仕方ない。
マイルームを出て町に転移した僕は、試しに建物から【精密魔力感知】でガロイ氏を探す。すると東の方に見つけたので、その魔力に繋がるように【念話】を飛ばした。
(あー! あー! テス、テス。聞こえますか? 聞こえていたら返事をお願いします! 聞こえていたら返事をお願いします!)
(無事だったんですね、心配しましたよ! ところでどうかしましたか?)
(盗賊のボスと呪術士を捕まえました。今スラムの南西にある、町の外に繋がる建物に連れて来ています。盗賊のボスは<デボン商会>に雇われていました。この後どうしたらいいか困ってまして)
(………驚くほど速いですね。私は昨日の事もあって伯爵邸に呼ばれています。その時に【念話】で知らせますので、そのタイミングで呪術士に呪いを解かせて下さい。出来ますか?)
(もちろん出来ますよ。それだけで良いんですか?)
(出来ればですが、その後に伯爵邸に来てもらえると助かります。おそらく大立ち回りになるでしょうから。では、伯爵邸に行く時には伝えますので、一旦【念話】を解除します)
(分かりました)
それなりに魔力と闘気を消費するけど、遠く離れていても会話できるって便利だなぁ。さて、今の内に用意をしておかないといけないね。まずは皆を呼び出しておかないと。そう思い、僕は一旦マイルームへと戻る。
皆に呼び出す事を話し、スラムの建物に戻った僕は皆を呼び出す。で、事情を説明すると、届くとは思ってなかったのかビックリしていた。
「【念話】の距離ってそこまで遠くには届かないのよ、普通は。コトブキの場合は【魔闘仙】だからか、それとも高度な仙力が練れるからでしょうね」
「それよりも伯爵邸で大立ち回りというのは大丈夫でしょうか。そこまでしても恋人を助けたいのでしょうが、本当に首を落とされかねませんよ。愛の逃避行でもする気でしょうか? 良い事とは思えません」
「まあねえ。それよりもいつ呼ばれるのかしらね? 遅いと暇でしょうがないし、ここスラムだからね。面倒なのに巻き込まれないとも限らないのよねえ」
(聞こえますか? 伯爵邸からの使いが来ました。私はこれから伯爵邸に行きます。準備の方は大丈夫ですか?)
(問題ありません。既に準備は出来ていますので、いつでもどうぞ)
(では一旦切ります)
「伯爵邸から使いが来たってさ。今から行くから準備しててくれって。とりあえず呪術士の枷を外しておこう。それと、盗賊のボスも背負っていかないとね。とりあえず【クリーン】」
盗賊のボスも呪術士も垂れ流し状態じゃないからいいけど、これはゲームだからだね。現実なら色々な物を垂れ流してて大変だったろう。本当にゲームで良かった。
怯えている呪術士に説明しつつ、僕達はガロイ氏から連絡が来るまで待つ。短い時間なのに、やけに長く感じていると、遂にその時がやってきた。
(聞こえていますか? これからタイミングを話します。準備は出来ていますね?)
(ええ、問題ないです。いつでもどうぞ)
(では、いきます…………今!)
「呪術士、呪いを解除しろ」
何かが弾けたような感覚が広がり、呪術士と何かの繋がりが消えた。呪術士に聞くと既に呪いは完全に解けたとの事。なので再び弱体の枷を嵌めてファルとシグマに背負ってもらい、僕達は伯爵邸へと急ぐ。
といっても町の人も居るので早歩きぐらいの速度で進み、町の奥にある伯爵邸へ。未だに何の音もしてこないし、大立ち回りとは大袈裟な……。
ドゴォン!!! ズドォン!!!
……何アレ? 何か凄い爆発がして、伯爵邸の一部が吹っ飛んだんだけど? 伯爵邸の門番もパニックになって、慌てて中へと入っていった。この機を見逃さず、僕達も侵入しよう。ガロイ氏を助けなきゃいけないし。
そう思い開けられたままの門から中へと入っていく。伯爵邸の吹っ飛んだ場所、2階の東側から誰かが飛び降りて来た。2人いるんだけど、1人はガロイ氏だ。もう一人は誰だろう? ガロイ氏と同じく華奢なイケメンだけども。
ガロイ氏が僕達を見つけたからか、素早く駆け寄ってきた。イケメンも一緒に。




