0214・アットルマ町に到着
マイルームから宿の部屋に戻り、僕達は宿を出た。何故か従業員は変な顔をしていたけど、もしかして僕達が居ない事を確かめたのかな?。
外に出て酒場に行き、朝食を食べよう。特に可も無く不可も無い朝食を終えたら、移動馬車の店へ。まだ出発はしていない筈だ。
僕達は6000デルを支払って馬車に乗り、他のお客さんも乗ってきた後に少し待つと出発。馬車は一路西へと進む。僕達は揺れる馬車に耐えながらも、じっと待つ。馬車の方が移動は早いと聞いたんだけど、実際にはどれだけ早いか分からない。
特に話す事も無く、他の客も適当な暇潰しをしているだけの時間を過ごし、僕達は1つ目の村に到着した。どうもそれぞれの村で休憩するらしいので、その間にトイレなどを済ませるようだ。
僕はアバターなので、そもそもトイレに行ったり何てしない。なので適当に体を動かして伸ばし、馬車で揺られるだけだったストレスを緩和させる。移動は早いかもしれないけど、あまりにも暇過ぎる。とはいえ……やる事もないんだよね。
村の中を見ても何も無さそうなので、馬車に乗って座って待つ。出発時に乗ってないとココで降りたと見做されてしまう。流石にそれは困るので乗っていると、ラスティアとキャスティも戻ってきた。
その後すぐに出発したが、2人とも面倒臭そうな顔をしている。何かあったかな?。
「ああ、田舎に寄るとよくある事よ。ウチの嫁に! とか言われるの。どこも田舎だから仕方ないんだけどね、まさかアンデッドの国でも言われるとは思わなかったわ。まあ、言ってきたのは魔人だったけど」
「いちいち面倒ですよねえ。向こうは家を繋ぎたいのでしょうが、他の人に言えばいいのにと思います。私が天使だとは分からないし、知らないでしょうから仕方ないんでしょうけどね。私はファーマーですから余計に言われるんですよ」
「ああ、田舎でサブ職業が農家の女性は引く手数多だろうね。田舎の仕事なんて殆どが農業だから、その専門家ともなれば当然だよ。逆に踊り子は何故だろうね? 普通は町で求められる仕事だよ、踊り子は」
「家の事だ、っと、出発したみたいね。家の事だもの、残して次の世代に繋げるのが先でしょう。だから職業云々じゃないんじゃない? それに別種族の血が入った方が良いしね。そっちの方が大きく違うから、血が澱んだりしないのよ」
「それだけじゃありませんよ。サキュバスというのは基本的に美女が多いのです。天使の星でも貴族が狙っていたりする事もありますし、遠い祖先にサキュバスやインキュバスが混じっている者も貴族に居ます。顔が良い方が有利な事も多いですから」
「特に貴族関係なんてそうよね。王太子とか王子に子供を送り込むには、見た目が良い方が確率は上がるもの。当然ではあるんだけどねえ、天使の星の王族の多くに悪魔の星の種族の血が混じってるっていうのも……」
「そういった事を「穢れている」として忌避している国もありますよ。ただあそこは人族至上主義の国でもありますから、基本的には他国と関わろうとしません。差別も酷いので人間以外居ませんし」
「そんな所が天使の星にあるんだ。人間がどうとか以前に、差別の酷い国って碌なものじゃないね。エルフ以外を差別する国もあるって前に言ってだけど」
「それはエルフェリアですが、人族至上主義の国はエルフェリアの東にあります。絶えずエルフェリアと争ってますね。あの2国は差別感情で互いに憎しみあってますので」
「そもそも何でエルフ至上主義や人間至上主義なんかが生まれたんだろうね? 何か理由がある筈だけど、キャスティは知ってるの?」
「ハッキリ言って呆れる事でしかありませんが、かつて大天使様がそれぞれの種族の始祖を生み出された際に、御言葉を掛けられたのだそうです。そして自分達の祖先が一番最初に言葉を賜った、つまり自分達が一番最初に生み出されたのだと言い張っています」
「………バカなの、そいつら?」
「私に言われても困ります。そもそも私はハーフラミアーですよ? 天使の星の人間である父と、悪魔の星のラミアーが母です。私にとって種族至上主義なんて極めてどうでもいい事でしかありません。だからこそ余計にエルフェリアのエルフは私を嫌っていたのかもしれませんが」
「根本的な話として、大天使が最初に生み出した種族ってどれなの? キャスティは知ってるよね?」
「私も気になって大天使様にお聞きした事はあるのですが、大天使様いわく「纏めて一気に作ったので、どれが最初とかはありませんよ」と言われました。それを聞いて私もバカバカしくなりましてね、呆れましたよ」
「まあ、大天使ほどの力があれば当たり前に出来るんでしょうね。しかも一気に作ったっていうのも、その程度って感じしかしないし、余計にバカバカしくなるわね。大悪魔が最初に作ったのはドラゴンだし」
「えっ、大悪魔はドラゴンが一番最初なの?」
「そうよ? 割と有名な話なんだけど、大悪魔は知恵ある生命を作る前に、それを監視する者を作り上げたの。それがドラゴンなのよ。だからドラゴンだけは他の種族と比べて別格の強さを持っているわ。勝てなくはないけどね」
「それは私達天使や悪魔が力を合わせた場合でしょう? 天使の星にもドラゴンは居ますが、元々は悪魔の星で生まれた者達なのです。その証拠に、悪魔の星には原初のドラゴンが今も生きている筈です」
へー、と思いながら聞いていると、いつの間にか2つ目の村に着いていた。馬車の乗客も「ふんふん」と頷きながら聞いていたし、差別のところでは顔を顰めていた。気持ちは本当によく分かるよ、レイシストなんて面倒臭い連中だからさ。
2つ目の村でも休憩するので、僕は馬車に乗ったまま一旦ログアウト。2人にはトイレなどに行っていてもらう。リアルで昼食を終え、雑事を熟したらログイン。すると、早々に2人は馬車に戻ってきていたみたい。
プレイヤーマーケットで昼食を買い、ハンバーガーを2人に渡すと食べながら話し始める。トイレを借りて戻ってきただけなのに、嫁にどうこうという話を聞かされたようだ。田舎ってそんなに女性不足なのかな? それともアンデッドの国だから?。
「多分だけどアンデッドの国だからじゃない? <屍人の森>の近くはド田舎だからアンデッド以外が多いのかもしれないけど、王都に近付くほどアンデッドが多いんだと思うわ。ならそれだけ他の種族が少ないって事になるもの」
「ですね、他の種族が少ないからこそ困るのでしょう。アンデッドならば義理の関係で済みますけど、他の種族はそうも言っていられません。自分の血が残せるなら残したいでしょう。ある意味で生き物のサガですよ」
サガって言われると、どうしてもチェーンソーで真っ二つにされる神様を思い浮かべるよねー。それはともかくとして、僕は2人に梨を渡してデザートとする。流石にNPCが見ている前で現代のお菓子を食べる訳にはいかないしね。
出発した馬車の中では誰も言葉を発さない。特に会話もないし、先程の2人の会話もたまたま話のネタがあったからだ。馬車の旅って本当に退屈なんだなぁ。
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ようやくアットルマ町に辿り着いたけど、怖ろしく暇な旅路だった。なんだか挫折しそうだけど、それでも馬車の方が早いんだから乗るしかない。2人は明日からマイルームで過ごすとか言い出しそうだ。
そんな事を思いつつもアットルマ町の門番に調べられ、その後に町の中へと入る。ここでも宿を探して聞き込み3人部屋をとった。まだ夕食には少し早いので町を見回り、適当に素材や料理の材料を購入する。
酒場に行って夕食を食べ、それを終えたら宿へと戻った。昨日のドゥエルト町とは違い尾行してくる連中は居なかったが、宿の部屋からマイルームへと飛ぶ。その後は2人にカ○ルを渡し、それからファルの作った物を確認。
売れる物はプレイヤーマーケットに流して、倉庫にアイテムを詰めたらログアウト。今日はここで終了。




