0211・旅の前日
ボス戦が始まり、相手の冷気を感じたすぐ後、これはヤバいと思った瞬間には投げつけていた。そして凄まじいまでの悪臭が撒き散らされる。そう、僕が投げたのは<オーク玉>だ。まだ余ってたんだから当然使うよね。
ところがボスの白い狼は臭いに耐えていた。それでも朦朧としているのだから、その威力たるや凄まじいものだ。そんな悪臭の中を動き回り、急所を刺しては殺害していく。相手はとてもじゃないが戦える状況ではなかった。
そんな相手を殺してボス部屋の扉が開いたら、皆は一気に走り出して出て行った。当然ながら僕も走るんだけど、皆から物凄く睨まれている。でもね、待ってほしい。さっきの狼は明らかに強い、それだけは皆が分かったはず。
<オーク玉>でも何でも、使わなきゃ勝てないくらいには強かった筈だよ。だからこそ迷わず使ったんだし。
「まあ、そうかもしれません。実際に戦えば勝てたかもしれませんけど、相当以上の苦戦をしたのは事実でしょう。アレは間違いなくシルバーウルフでしたし。<氷原の殺し屋>と呼ばれる魔物です」
「今回に限っては微妙かな。あの悪臭の中で戦わされた事は腹立たしいけど、今のレベルでシルバーウルフ10頭は厳しいと言わざるを得ないわ。誰も死なずに勝っただけで褒められて良いぐらいよ」
ラスティアもキャスティもそう言ってくれたので、皆の溜飲は下がったようだ。更に先があるのでチラリと確認するも、そこは雪原だった。それを見て僕達は断念、転移魔法陣の登録をして脱出する事にした。
防寒具の用意をしていない事もさる事ながら、見えた魔物が最大の問題だ。
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<ビッグフット> 魔物 Lv49
足が巨大な雪男。その蹴りの威力は凄まじく、通常のオーガですら吹き飛ばされるほど。防御するのではなく、上手く受け流そう
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<ビッグアーム> 魔物 Lv51
腕が巨大な雪男。そのパンチの威力は凄まじく、通常のオーガが一撃で血を吐くほど。防御するのではなく、上手く受け流そう
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ビッグフットはそもそもそういう意味じゃないんだけど、本当に足が大きくバランスが悪い。意図的にそういう魔物として作られており、だからこそ更なるネタとしてビッグアームを作ったんだろう。それもどうかと思うけど。
妖怪の足長や手長みたいなノリなのかは知らないけど、少なくともあの腕と足は脅威だ。レベルも高いし相手が悪過ぎる。あまりに高いレベルの相手だと苦戦をするだけで、経験としても良いものにはならないだろう。
まだ先に進めるみたいだが、今のところは26階で限界だ。そもそも25階のボスでさえ、正面からちゃんと倒した訳じゃない。色々な意味で実力不足が露呈してしまったな。急いでも仕方ないから急がないけど、なかなかに厄介な事だよ。
師匠の家に戻ってきた僕達は各々好きに過ごす。セスは結局武器を使うのを止め、ファルに剣帯とファルシオンとモーニングスターを返していた。返されても困るだろうが、ファルは律儀に受け取っている。
セスは武器をどうするんだろうと思っていたが、僕の前に来て色々とジェスチャーを行う。聞いてみて分かったのは、今使っている盾の前をモーニングスターのようにしてほしいらしい。つまりスパイクシールドだ。
僕はそれを了承し、余っている素材で新しく一から盾を作成。元々の盾をファルに返させ、セス用のスパイクシールドを渡す。
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<盾> 雪怪木と白曜石のスパイクシールド 品質:5 レア度:3 耐久580
スノートレウッドと白曜石で作られた少し大きめのラウンドシールド、その前面に棘が大量に付いた盾。攻防一体の盾ともいえ、体当たりなどをされるとかなりの傷を負う。相手の武器を引っ掛ける事も出来るが、魔力強化をしないと棘の方が耐えられない
破壊力減少3 魔法攻撃減少3(魔力強化時)
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サブ職業:錬金術師・下級のレベルが上がりました。
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おっと久しぶりに錬金術師のレベルが上がった。そこまで物作りもしていなかったけど、なかなかレベルが上がらなかったなあ。普通の木材とか素材が悪いと経験値入ってないのかな?。
それはそうと渡したセスは色々見ながら確認し、次に敵を想定して構える。相手がこう来たら、こう。こっちから来たら、こう。そういったイメージトレーニングをしているらしい。
どうもセスはスパイクシールドで防御をしつつ、敵を圧迫しながら戦うようだ。敵も迂闊に近寄る訳にもいかないだろうし、なかなか優秀な戦い方じゃないかな? 最近はフィーゴがセスに【憑依】しているので、魔法の威力も高いしね。
セスが盾を構えて練習しているとファルが呼びに来たので食堂へ。師匠から運営ダンジョンの事を聞かれたので素直に話すと、呆れていた。
「ビッグフットやビッグアームは簡単には出会えん魔物なのだがな、そのうえ然して良い物も手に入らん。簡単に言えば、無駄に強い癖に実入りの悪い魔物なのだ。精々ビッグフットの足の骨か、ビッグアームの腕の骨を棍棒にするくらいじゃろうな」
「そんなに大きいの? それとも錬金術師が纏めて棍棒にするの? 見た事ないから具体的な大きさが分からないのよ」
「身長は2メートル50センチぐらい? ビッグアームの方は2メートルくらいかな? ただしビッグアームは普通に立ってても、地面に手が付くぐらいに腕が大きかったよ」
「いや、それ大きすぎでしょう。幾らなんでもメチャクチャねえ」
「筋骨隆々の腕をしてるから、パンチ力はとんでもないんじゃないかな? 仮にパンチが撃てなくても腕を振り回されるだけで危険だよ。腕の振り回しがラリアットみたいなものだと言えば分かりやすいかな」
「そんな大きさのレベル50超えがいるわけ? 奥へ進む為には行かなきゃいけないんでしょうけど、ダンジョンだから仲間にも入れられない魔物ばっかりだし、なーんか行く気しないのよねえ」
「<魔隷師>にとってはそうであろうな。トモエも色々な所を巡らねば良い魔物を仲間に迎え入れるのは難しいぞ? それに育てていって化ける魔物もおるしのう。どれとは言わぬが」
「うーん。流石にそろそろ本気で戦闘の事を考えた方が良いっぽいわね。先に進めなくなってチャンスを逃すのもアレだし。明日からは細工を休んで頑張りますか。お金も溜まったし」
トモエがやる気を出したみたいだけど、僕は明日からブラッディア国内を回るのでスルーさせてもらおう。ナツとイルはまだまだ豪雪山などに行ってレベル上げや素材売り、そして何より師匠の家の本も読まなきゃいけない。
僕も馬車を使えばそこまで移動に苦労はしないと思うから、そこまで時間も掛からずに色々な場所を巡れると思う。ま、全ては明日だし、色々な所へ行ってみないと分からないしね。マイルームがあるから大丈夫でしょ、多分。
夕食後、ソファーの部屋に戻ってパイナップルを2つ置いてログアウト。リアルで雑事などを熟していると両親が帰ってきた。夕食を食べた後にお風呂に入り、全て終わったら部屋へと戻る。
ログインして皆をマイルームに連れて行き、そこで好きなように訓練させる。セスもセナにボコられながらも、果敢にシールドバッシュを試している。セナも受ける事は無いが、非常にやりにくそうにしているなー。
ストレス溜めなきゃいいけど。そんな事を思いつつ、僕は師匠の家に戻って本を読む。いつものように時間が来るまで本を読み、時間が来たらログアウト。今日はここで終わり。




