0194・カメレマン再び
「ヘルロックを嵌められていた者達はいいの、まだ話が通じそうだから。でもね、あのリーダー格の男は聞けるかどうかは分からない。なので次からは、あの枷は使わないようにしてほしいの」
「分かりました。僕も使ってみなければ分からないのと、師匠からは使って報告しろと言われたので使っただけです。ですので見つけたら、次はヘルロックでの捕縛だけにしておきます」
「ええ、お願い」
そう言って僕達は再び屋敷を出る。相変わらず不審者を見る目で見てくるが、どうでもいいのでスルーする。そもそも気にしても仕方ないしね。そう思い、町を出たら再び国境へ。今度は昨日と同じ西側へと行く。
僕はナツとイルに、昨日<ティロエム>が採れた所まで進みたいと言い、<ロットン草>と<ティロエム>の説明をする。2人も化粧品に使われるような薬草と聞いて興味津々だったが、アロエと聞いて納得していた。
ここはゲームの世界であって現実じゃないからね。僕は落ち着いた2人に周囲を警戒するように言いつつ、森の中を進んで行く。
ハイゴブリン・アーチャーやソードマン。ハイフォレストウルフなどを相手にし、倒しながら進んで行くものの昨日よりは楽だ。昨日はひたすら下を向いて探しつつ進んだから大変だったけど、今日は生えている場所に真っ直ぐ進んでいるだけだから早い。
到着した小川の周りには思っていた通り生えておらず、昨日と変わらない状況がそこにあった。どうやら植物図鑑の説明通りに、なかなか生えてこないものらしい。全て抜いて駄目にしないように、何も採らずにウロウロと探す。
「もう少し国境の方に向けて進んだ方が良い。この川が南北に流れてるなら北に行けばいいだけ。国境の森の相手側のティロエムも手に入れてしまえばいい」
「まあ、化粧品の素材になる薬草って絶対に高く売れるだろうからね。私も1株か2株は欲しいなぁ。それも生きている時のままが一番効果が高いっていうのも、インベントリに入れれば済むし」
そう考えると稀人のインベントリは反則に近いとも思う。周囲の警戒をしつつ、フォグに臭いでの警戒を任せながら進んで行くと、【精密魔力感知・下級】と【練気感知・下級】に反応があった。だけど見えない。これって……。
「皆、見えない奴等が居る! おそらく獣王国のカメレマンだ! 奴等は姿を隠す事が出来るから、【魔力感知】や【闘気感知】で対応しろ!!」
「カタ!」 「テキハッケン!!」 「ブルッ!」 「ク!!」 「ガン!」
「またあいつらね!」 「ゼット町の事といい、随分と入り込んで来ますね!!」
「チィッ! 下級の奴等が失敗したと報告があったが、我等を見つけられるだと!? 更なる面倒になる前に皆殺しにしろ!!」
「「「「「ハッ!」」」」」
素早く前に出る召喚モンスター達。君達の殺る気スイッチはいつ押されたんだ? それぐらい前に飛び出して行った。しかしファルとシグマが抑えているから良いけど、こいつら思っている以上に強い? それとも捕縛しようとしているからだろうか、妙に手間取る。
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<アデルダオン> NPC Lv48
種族:カメレマン
メイン職業:暗殺者
サブ職業:鍵師
状態:健康
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げっ!? レベル48! そりゃ簡単には倒せないよ。しかし崩さないとどうにもならないし、ここは【ダークヒール】で嫌がらせかな。僕がそう思って使うと、ラスティアも続けて使い始めた。
相手のレベルが高いのと装備が良いのか、なかなか魔法でもダメージが与えられない。というか、相手は魔法攻撃を無視して向かってくる。もしかしたらレベルの低い魔法だから無効化されてるのかも……。
そうなると思っているよりも厄介だ……と掛かった。<状態:毒>か、それでも動きは悪くなったから崩せる。そう思った矢先、相手が魔法を使いあっさりと毒は解除された。回復魔法持ちが居るのか、面倒な。
そいつをさっさと潰したいんだけど、どうもリーダーの奴っぽい。面倒な事になったなと思いつつも推移を窺いつつ【ダークヒール】を使っていると、業を煮やしたキャスティが前に出て、シールドバッシュで相手を転倒させた。
次に繋げたかったのだが、他の暗殺者が素早く助け、倒した奴が起き上がってしまう。焦ってはいけないけど、この膠着状態を何とかしたい。向こうのリーダーは覆面をしているので表情が分からないが、あっちも僕達の強さが予想外っぽいね。
そのまま戦闘が推移し続けるかと思ったら、イルが放った矢を回避した敵が足を滑らせ、その隙を狙ってナツが素早くメイスを横薙ぎにスイング。相手の頭は潰れなかったものの、昏倒して倒れた。すると近くに居たセナが素早く敵をこちらに引っ張りこむ。
僕は素早く敵に近付き、腕を纏めてヘルロックを掛ける。途端に呻き出すが知った事じゃない。これで1人を確保できた。殺されないように更に後ろに下げた僕は、前に出て捕まえた奴への攻撃を防ぐ。
「お前達、本気で行くぞ! このままだと情報が抜かれる。駄目なら捕まったあいつを始末して撤退だ!!」
「「「「ハッ!」」」」
元々小さい姿を更に折り畳むように小さくして、素早く動いてくる。皆も攻撃を当てるのが難しく、更には回避主体で戦う所為で当たらない。当たれば先程のナツのように昏倒させられるんだけど、早々上手くはいかないし、どうしたものか……。
考えながら戦闘を続けていると、仲間達の間をすり抜けた奴が急速に接近してきた。僕は慌てる事もなく突き出されたナイフをかわして腕を持ち、身体強化しつつ関節を逆方向に極めて折る。
「ギャァッ!!!」
そのまま地面へと引き摺り倒し、もう一方の腕も圧し折ってからヘルロックを掛けた。それが終わったら呻いている奴の上に放り投げ、重ねておく。
「チッ! 余計な事になったか。……カッ、カカカッ、カカッ」
訳の分からない音を口から鳴らしたが、どうも何かの合図だったらしく徐々に後退し始めた。そして前に2人を残して、後ろの2人は撤退を始める。僕はその場にヘルロックを置いて、迂回しつつも一気に走り、逃げた連中を追う。
背中を向けて走っている連中の後ろについた瞬間、身体強化で石球を投げて頭に直撃。リーダー格ではない方は地面に倒れた。どうやら覆面に魔力強化的な防御能力は無いらしい。人型相手だと石球はまだ使えそうだね。
更に石球を取り出して投げるも、上手く回避するリーダー格。僕は石球を更に2つ取り出して、1つを若干右に投げつける。当然のように相手は左に逃げるので、回避方向に投げつけた。
適当に胴体に当たれば良いと思って投げた石球は、その狙いの通りに背中に直撃し、リーダー格の奴は倒れた。素早く起き上がろうとするも痛みで遅く、僕が振るった槍の柄が直撃して更なる痛みに呻く。
素早く駆け寄った僕は相手の背中を蹴り倒し、膝裏を踏み潰すようにストンピングを繰り返す。
「ギャァ!! ガァ!! グゥァァァ!!!」
痛みに呻いている相手の腕をとり、素早く煉獄の枷を嵌めると、またもや言葉にならない奇声を上げ始めた。これを使うしか確実に捕まえる方法が無いんだから仕方ない。ヘルロックは全部置いてきたし。
さてコイツを背負って戻り、さっき石球を直撃させた奴にも煉獄の枷を嵌めないと。……よいしょっと! さて走りますか。
奇声を上げている奴を背負い、僕は来た道を戻る。石球を当てた奴は未だに痛みに呻いていたので枷を嵌め、その場に転がして皆を呼びに行こうと思ったらドースが来てくれた。
ドースに謝りつつも背に乗せてもらい、僕達は皆の所へ戻る。今日はこんなのばっかりだな。




