0193・国境の森の侵入者
スマッシュタイガーをボコボコにしてスッキリしたのか、2人の機嫌が多少上向いてきたので、そのままスノートレウッドの群れと戦う。僕も魔法を使いながら戦い簡単に勝利。ユウヤが木を伐るらしく、僕も伐って手に入れプレイヤーマーケットに流した。
ラスティアいわく、スノートレウッドの方が優秀だから使う意味ないってさ。ユウヤは薪にするつもりで伐ったらしい。薪の為の木を手に入れてくるようにシャルロットさんに言われてたらしいんだけど、ここの木ならどうか? と考えたみたいだ。
どうなるかは知らないけど、駄目なら別の事に使えばいいだけだしね。そんな話をしつつイルが伐り終わるのを待ち、僕達は帰り道を急ぐ。ちょっと時間を使いすぎた感もあるので走り、洞窟でフリーズベアを転倒させた後リンチにして倒し、格子を開けて閉じたらバイゼル山へ。
ユウヤと別れたら師匠の家に戻り、昼食の準備をファルに任せて防寒具を脱ぎ、精錬を行っていく。イルはスノーウッドを矢にするらしく、木を切って矢軸を作成するようだ。精錬を終えた僕は、すぐにナツとイルから頼まれた武器を作る。
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<棍棒> 雪怪木と白曜石のメイス 品質:5 レア度:3 耐久520
スノートレウッドと白曜石を使って作られたメイス。フランジと呼ばれる刃は4枚付いている。優秀な武器であり魔力強化が出来る事を考えても、長く愛用できる品。ただし修理できない事は念頭に置いて使おう
攻撃力20 破壊力6
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<弓> 雪怪木と白曜石のショートボウ 品質:5 レア度3 耐久470
スノートレウッドと白曜石を使って作られたショートボウ。白曜石は内側に使われており、錬金術師でないと作れない品である。優秀な品ではあるが、修理できない事には気をつけよう。弦はスノートレウッドの繊維を束ねた物が使用されている。
攻撃力18 破壊力3
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メイスの方はともかくとして、ショートボウの方は鋼鉄製より上の物が出来た。なかなかに良い物だと思うし、何よりも鋼鉄製より軽い。魔力強化もできるけど、その場合は矢も強化できる物を使う必要がある。そのうえ手から離れると強化が抜けるという問題も。
「成る程。魔力を流して強化は出来るけど、飛んでいく最中に魔力が抜けていき、やがて普通の矢と変わらなくなってしまう。そういう弱点というか欠点が弓矢にはあると」
「魔法だって自分に近い方が威力が高くて離れるほどに威力が下がるから、そこの所は変わらないよ。上手くやれば矢の方が魔力が残りそう。例えば……凄く速く飛ばすとか?」
「それはアリかもね。速く飛ばせば抜けきる前に相手に当たるだろうし、速い方が回避されにくいだろうし。そのぶん筋力も要るし大変だろうけど、【身体強化】で何とかなるかな」
話の最中にファルが来たので昼食に行き、終わったらソファーの部屋でログアウト。昼食と雑事を熟したら再びログインし、今度は国境都市ミョウセンへ。何故かナツとイルも来るらしいので、2人も連れて転移魔法陣で移動。
部屋を出て少し待つと執事が現れたので、屋敷の外まで案内してもらい門を出る。微妙に嫌な空気を出されたからか2人が腹を立てていたが、こういう所なんだと説明しておく。町中を少し見回るものの、鉄製の物が多かったのでスルーした。
外へ出たら北へと向かって歩き、砦を迂回して国境の道へ。今度は東側の森へと入り、<ロットン草>と<ティロエム>を探す。2人はそれ以外に何かないかと調べているらしい。プレイヤーマーケットで売れるかもしれないからか、結構真剣だ。
合間にハイゴブリン・アーチャーが出てきたので腕を圧し折り、ファルとシグマに押さえてもらって煉獄の枷を嵌めた。すると……。
「アビュダヴェギャヴァジュビョヴォヴォゲリュゲヒャアジュディウブヒヒュジョ………」
何を言っているのか分からないが、猛烈に苦しみ喚き散らしているのは分かる。敵の状態を見ると<状態:煉獄>と表示されていた。サッパリ分からないので困っていると、遂に限界を超えたのか泡を吹き始めた。
ビクビク痙攣しながら口の端から泡を吹いているゴブリン。白目になっているが、現在の状況でも<状態:煉獄>と出ている。結局分からないままハイゴブリン・アーチャーの枷を外して起こすと、絶叫を上げた後に走って逃げていった。
何だアレ? と思っていると、「ギュアアーッ!?」という声が聞こえたので慌てて現場へ行く。すると先ほどのゴブリンが殺されており、目の前に5人の男達が居た。顔を緑やら茶色の布で隠している為、あからさまに怪しい連中だ。
「君達は獣王国からの間者だね? 申し訳ないけど大人しく捕まってもらう」
「チッ、殺るぞ」
茶色の布を巻いている男が命じると、他の奴等はショートソードや短剣を抜いた。この森の中では長物が使いにくいから当然だけど、だからといって僕の槍が使いにくい訳じゃないんだよ。何故なら短槍だから。
僕は槍を使うけども、だからといって長い槍を使う訳じゃない。長さ的には短槍と呼ばれるレベルの物しか使わない。なので槍士からすれば短い槍なんだけど、長い槍を使っていると懐に入られた時に手放すしかなくなるんだ。
手放して素手か短剣なんかで相手をする形になってしまうので、僕はそれが嫌で短槍を持つ。石突などを含めた使い方は、槍というよりは薙刀に近い使い方をする。そしてそこまで長くないからこそ、こういう森の中でも振り回せる。もちろん縦や斜めにね。
「ガァッ!?」
「チィ! こいつら思っているよりも強いぞ。撤退だ、けむゴハァッ!?」
「シグマ! そいつを捕まえててくれ!!」
「ガン!!」
他の連中も回避主体で戦っていたようだが、捕らえる事が出来たようだ。僕はすぐにラスティアとキャスティにヘルロックを渡し、枷を嵌めていってもらう。師匠は2個で一組と言っていたけど、捕まえるだけなら腕に着けるだけでいい。それだけで苛まれる。
僕はシグマが押さえつけてくれているリーダーらしき人物に近寄り、煉獄の枷を嵌めた。すると……。
「Y※!<T※N?H※UY※W!※YJ※H<H※>H<!※H?!」
何故か奇声を上げ始め、意味不明な言葉かどうかも分からない事を喚き始めた。ヘルロックを着けられた者は呻いたり許しを乞うたりしているが、煉獄の枷だけはおかしい。鑑定してみたものの、やっぱり<状態:煉獄>としか出ていない。
やむなくドースにお願いし、リーダーを背に乗せて運ぶ。流石のドースも捕まえた者は運ばねばならないと思ったのか、背中に乗せるのを受け入れてくれた。他の4名は僕とファルとセナとシグマで背負い、森を出てミョウセンへと帰る。
途中で奇異な目で見られたものの気にせず、辺境伯家の屋敷の門番に説明し、すぐに中へと走ってもらった。少し待っていると、執事やサーヤさんが飛び出してきたので屋敷の中へと運び、そのまま地下室へ。
それぞれの者を尋問していくらしいのだが……。
「まさか貴方が特殊罪人用のヘルロックを持ってるなんて思わなかった。それだけでも恐いのに、もう一つのそれは……何と言っていいか分からなくなるわ。明らかに人が持ってはいけないものよね?」
「いや、昨日たまたま出来まして……」
「たまたま出来たというのもおかしいけど、それって間違いなく罪と咎を焼く地獄の炎の色よ? それが顕現しているというだけで怖ろしいのに、使用しても死なないというのがあまりにも、ね」
「それって……死ぬまで苦痛と絶望に苛む事が出来るという事ですか?」
「ええ、そういう事。特に死にもせず、精神も壊れそうにないところが怖ろしいのよ。地獄の責め苦が永遠に続くと言っても過言ではないわ」
「「「「うわぁ……」」」」
僕を見ながら言うの、止めてもらっていいかな? 昨日も言った通り、流せと言われて流したら出来ただけなんだけど? 強いて言えば罪人が鬱陶しい所為だよ。




