0188・辺境伯サーヤ
防寒具を着て移動するんだけど、師匠が作った転移魔法陣は水色なのに対し、何故かマリアさんが作った転移魔法陣は真っ赤だった。イマイチ理由は分からないが、吸血鬼の始祖だからだろうか?。
とりあえずバイゼル山に移動し、そのまま豪雪山に移動する。ユウヤは今日は休みというか授業などを受けているらしいので、僕とトモエしかログインしていない。豪雪山を右に移動して鉱床を掘り、近くの林のスノートレントを全滅させる。
洞窟近くまで戻ったら一度洞窟の中を確認する。するとフリーズベアが居たので倒し、今度は洞窟の左側へ。鉱床まで着いたら掘りつつ出てきたスマッシュタイガーを倒して掘り、近くの森のスノートレントを全滅させた。
最後に洞窟に戻ると、またもやフリーズベアが居たので倒して師匠の家まで戻る。後は精錬などを行って武器を作り直し、今までの物はニコイチにして修理。ファルとセナとシグマの武器を新しく作れたので良しとしよう。
ついでにトモエとリナの武器も作り直しておいたので、これで今日は何も言ってこないだろう。ファルが呼びに来たので昼食を食べに行くと、師匠が居て本を渡された。
「その栞の挟んであるページに<ロットン草>と<ティロエム>が載っておる。ティロエムは特徴があるからいいとして、ロットン草は紛らわしいから気をつけよ。葉が柔らかいのがロットン草で、硬いのがハットン草じゃ。ハットン草は体に良いが唯の雑草じゃからな」
「あ、はい。分かりました」
「草って見分けつき難いのよねえ。薬草系統の納品依頼なんてのもあるらしいけど、私達どこのギルドにも所属してないからそういう仕事した事ないし。これからもする機会なさそう」
「ギルドに所属するならゼット町に行くか、それともダンジョン街に行けば良い。それなりの経験にはなろう。あくまでも、それなりでしかないがな。そもそも本当に厳しい所の素材なりは、一度供給し始めると際限無く採ってこいと言うてくるぞ。ギルドも商売なのでな」
「「あー……」」
都合良く使える奴が居るなら、そりゃ使うよねえ……。それでプレイヤーが納得するかは別だけど。そういう意味でもギルドから離れる奴が出てきそう。でも同時にギルドで成り上がるプレイヤーも出てきそうだ。それはそれでイベントなのかな。
それはともかく師匠から渡された本をインベントリに入れ、昼食を食べてホールケーキを置いたらログアウト。昼食と雑事を熟してログインしたら、ホールケーキは無くなっていた。
僕はマリアさんに言われた国境都市ミョウセンへ行く。辺境伯のサーヤさんという人に会いに行かなきゃいけないんだけど、何か日本っぽい名前の人だなぁ……。何処の”レトロ”から持って来たんだろう?。
マリアさんが設置した赤い色の転移魔法陣に乗り、僕達は転移して行く。ちなみにトモエは細工を頑張るらしく、師匠の家に残っている。暇だって言ったら巻き込もうと思ってたのに……。
転移した先は何処かの部屋みたいな場所だった。どこか分からないものの、窓の外から明かりが差し込んでいるので部屋の中なのは分かる。ドアノブを回してドアを開けると、そこは屋敷の中? っぽい場所だった。
何でこんな場所に? と思った瞬間、誰かが首に手を掛けようとしてきたので、右に流して関節を極める。そのまま床に押さえつけるも、メイドの格好の女性だった。そのメイドは素早く左腕で笛を取り出し吹くと、ガチャガチャと兵士が走りこんできた。
「貴様!! そこで何をしておる! 今すぐに投降せねば皆殺しにするぞ!!!」
「投降も何も私達、というよりコトブキがこのメイドに襲われたんだけどねえ? これはどうなってんのよ?」
「何を訳の分からぬ事を! 抜剣! この侵入者どもを叩っ切れ!!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
あーあー、何か面倒臭い事になったなぁ。そう思うも、僕は気絶させる程度で止めるように言い、メイドを床に押さえつけたまま成り行きを見守る。足運びなどを見るに、そこまでの兵士じゃないみたいだ。皆が上手く連携すれば怪我無く勝てるだろう。
そうやって見守っていると、突然紙が高速で飛んできた。ちょっとヤバ気な感じがしたのでメイドを引き摺り上げて盾にするも、紙はカーブして壁に刺さる。何あれ? 何で紙が刃みたいに鋭いのさ? 反則でしょうよ。
「そこの貴方! すぐに我が家のメイドを放しなさい! 事と次第によっては情状酌量を与えましょう」
「サーヤ様! この者どもは不法侵入者ですぞ! 慈悲なぞいりませぬ、即刻処分すべきです!!」
「もし私達を処分なんてしたら、<破滅>が激怒して乗り込んでくるわよ? そもそもコトブキは<破滅>の弟子なんだし」
「「「「「「「は?」」」」」」」
「そもそも僕達はマリアトゥーラさん、この国の女王様に言われて来たんですけどね? 何故かドアを開けたら、すぐ首に手を掛けられそうになりましたが……」
「………センテス。貴女、まさか用件も聞かずに攻撃したのですか?」
「………」
「衛兵、センテスを懲罰房に連れて行きなさい。日数は3日です。毎回、毎回、どうして貴女は口より先に手が出るんです。あまりに酷いようならクビにしますよ?」
「申し訳ございませんでした!!!」
見事なフライング土下座だ、芸術点は高いと思う。それはともかくとして、僕達は現在サーヤさんの後ろをついていっている。正直に言ってこの人メチャクチャ強い。今の僕達じゃまるで歯が立たないな。
そんな事をコッソリ考えつつ、執務室のような場所に案内された。僕がその部屋で手紙を出すと、横に居た執事の人が受け取り、サーヤさんに渡していた。それを読んだサーヤさんは呆れた溜息を吐いた後、部屋の中の全員に話し始める。
「女王陛下からの手紙には【色欲】のラスティア殿、【純潔】のキャスティ殿以外は死んでも問題無いと書いてあるわ。コトブキ殿は稀人でネクロマンサー、他は召喚モンスターだと。死んでも問題ないから国境の調査を頼んだともあったわ」
「「「「「………」」」」」
うん、まあ唖然とするのは分かるよ。死んでも復活するからといって、普通は死んでこいって言わないよね。そこを堂々と言う辺りは、流石女王様だとは思う。自国の者の被害を減らすという点では完全に正しい。
「あの……本当に良いの?」
「まあ、師匠からも行ってこいと言われましたので……。天然のティロエム? というのを採ってこいと植物図鑑も渡されましたし」
「ああ、ティロエムをね。あれは美肌効果のある薬草だから需要は大きいのよ。国境の森に大量に生えてるけど、国境の森は魔力強化する魔物ばかりで難しい。正直に聞くけれど、大丈夫?」
「ああ、魔力強化する魔物が居るんですね。それで行ってこいと……成る程。それなら問題ありません。最近は豪雪山に行って戦ってますから、魔力強化する魔物とは戦えます」
「あんな危険な所に普段から行くって……お弟子さんに対してスパルタ過ぎない?」
「そうは言ってもねえ……コトブキもどちらかと言わなくても戦闘狂だし、あの師匠にして、この弟子ありって感じねぇ」
「そうですね。鬼面武者との戦いでは笑ってましたから。挙句に首を絞めつつ胴と腕も足で絞め上げて、ゼロ距離で魔法を連発して倒していましたし……」
「倒すとか殺すっていう場合には、容赦の欠片も無いのよねー、どっちも。<破滅>はアレ過ぎるけど、コトブキも力を持ったら多分だけど変わらないんじゃない?」
「流石にそれは酷いのでは……?」
ああ、師匠と同じというのは”酷い”って形容されるんだね? あの人は何をどこまでやったのさ?。




