0172・イベント直前
2000年 9月17日 日曜日 AM8:12
今日は第二回イベントの日だ。月曜日が大型アップデートの日と決まっている以上、今日一日で済むイベントなんだろう。とはいえ、いったい何をさせられるんだろうか? 僕達で攻略出来るものなら良いんだけど、どうなる事やら。
両親は白山の麓の家に行っているので今日は居ないし、先ほど朝食を食べ終わったから準備は万端だ。イベント開始は9時とはいえ、昨日トモエと約束していた、リナのジャケットやズボンを作る必要があるので早めにログインする。
今日はその為にわざわざ雑事を早く終わらせたくらいだからね。両親が居ない休日だから出来る事だけど。
ログインしてすぐにギンをどけ、プレイヤーマーケットの売り上げを木箱に詰めた後でギンとコタロウを取り出す。そのタイミングでトモエが部屋に入ってきて、毛皮を渡してきた。ナツとイルも来たので既にログインしていたらしい。
僕は3人の話を聞きつつ、毛皮をジャケットやズボンに加工していく。ついでにナツのメイスも作っておかないと。
「今日の朝には情報が公開されていたけど、今日の第二回イベントはタワーディフェンス系。拠点となる場所があり、そこに四方八方から敵が押し寄せてくる。何ウェーブあるか分からないけど、防衛しきれば勝ち」
「それと、イベント中にログアウトする事は可能なんだって。ただし何かあっても自己責任らしいから、知り合いで固まった方が良いって掲示板に書いてあったよ。それと拠点はプレイヤーが決められるんだって」
「拠点には1~10までナンバーが振られてるみたいで、何処で戦うかは自由。定員数が埋まってなければ何処でも良いそうよ。多分だけど、知り合い同士で固まれる用にしてあるんでしょうね」
「ログアウト中が自己責任って事は、おそらく<最強勇者>の残党が居ると運営は見てるんだと思う。そしてそれは正しい。あの厨二病連中がイベントなんて派手な事が出来る場所で、何もしないなんてあり得ないから」
「それに今回のイベントって強制参加なのよねえ。運営が何かを狙ってるっていうのは分かるんだけど、一網打尽でも狙ってるのかしら?」
「アリガトウゴザイマス」 「あっ、ありがとう!」
「ここの運営なら<最強勇者>かそれに近いような連中を見つけたら隔離しそうだけどね。今回のイベント用サーバー、絶対に強力な監視つきでしょ? それぐらいはすると思うよ」
「それだけじゃなく、ログインしてない奴のデータも精査してそう。隠れる事も許さない感じで徹底的に洗ってる? そんな感じがする。何もしていないように見えて、ここの運営は甘くない。後、さっきの毛皮なに?」
「あれはフリーズベアの毛皮で作ったジャケット。<皮革師>って職業がある所為か、毛皮の状態で手に入ったりするんだ。そこから毛を取って皮をなめしてと色々しなきゃいけないみたい。アレはそのままジャケットとズボンにしたんだよ」
「何故か耐寒(小)が付いてたけど、あのジャケットとかズボンと一緒にきぐるみを着れば寒くなさそう。まだ行った事が無いから分からないけど……」
「それにしても今回のタワーディフェンス系って色々違うんだね? 思っている以上に厄介かも」
「そう。拠点01だとクリア時のポイントは半分にされる。ただしとても簡単で、難易度が極めて低い。逆に最高難易度だと、クリア時のポイントが5倍。ただし全滅したらそこで終了となり、ポイント集計に入られる」
「微妙にアレなのが、拠点が破壊されたら終了じゃないところよねえ。全員”死亡”したら終了なのよ。誰かさんは拠点が破壊されても生き残ってそうだけど。そうなると、死亡さえ回避出来たら色々”経験”できると思わない?」
「アバターデータの事だね? あの考えが正しいとすると、高ポイントよりも生き残る事の方が大事になってくる。今回の経験は今回しか手に入らない。その経験が有るか無いかで変わってくると思う」
皆と話しているものの、僕も各拠点のデータを見に行くが、それはとてもシンプルなものだった。こういうところも”レトロ”なんだなぁ。
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<拠点01>
防衛拠点:城塞・堀と柵の四重防御
サポート:各種ゴーレム兵あり
物資:非常に潤沢
敵の数:少ない
ウェーブ数:少ない
制限:種族レベル15まで
人数:249/500
クリア時のポイント:半減
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<拠点02>
防衛拠点:城塞・堀と柵の二重防御
サポート:ゴーレム弓兵あり
物資:非常に潤沢
敵の数:少ない
ウェーブ数:少ない
制限:種族レベル20まで
人数:711/1000
クリア時のポイント:1倍
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これだけしか書かれていない。まあ、これだけで十分という人も居るかもしれないが、拠点の周囲の環境も書かれていなければ、物資の内容も分からない。弓兵とあるくらいだから、物資に矢はあるんだろう。
しかし食料はあるのか? 武器の耐久値を回復させる砥石は? 鍛冶師が使える鍛冶場はあるの? 言い始めたらキリがないが、それによって成功するかが左右されるんだ。とにかく最高難易度! とかいうバカじゃ、運営の思う壺だろう。
ここはしっかりと考えたいんだけど、さっきから皆がある拠点を見せてくる。正気かと疑いたくなるね。
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<拠点10>
防衛拠点:簡易砦・堀と柵
サポート:無し
物資:非常に厳しい
敵の数:最多
ウェーブ数:最多
制限:無し
人数:918/1000
クリア時のポイント:5倍・生存者は10倍
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「生存者が10倍な時点で、最初から生存できるように設定されてないよね? 参加してもポイント稼がなきゃ5倍でもショボイし、あまつさえ拠点が簡易砦で堀と柵のみって何さ」
「でも拠点があるだけマシ、最悪は拠点が無い事も想定してた。そしてコトブキを満たせるのはココしかない。暴れてスッキリ出来るのは間違いなくココ。後は私達がサポートするだけ」
「細かいルール見ると分かるんだけど、今回のイベントもアイテムの持ち込みは不可。ただし、必要アイテムは敵を倒したら手に入るようになってる。通常の魔物とはドロップが違ってるから、物資は手に入れられるの」
「ドロップを回収してもバカ正直に全てを出す必要は無い。どのプレイヤーも生き残りを図る。その中でナツは<料理人>、ユウヤは<鍛冶師>。そこのサポートはコトブキ自身が出来る。そして私は<解体師>、レイドを組んでると恩恵があるスキルを持ってる」
「【解体指導】っていうスキルだね。パーティーだったりレイドを組んでる全員のドロップ確率が上がるんだって。パッシブとかイルは言ってたよ」
「私は<細工師>だから関係ないし、戦闘で活躍しようかしら。仲間達が居るから私も前線に出た方が良いわよね?」
「それはそう。2人が掻き回してくれると後ろの私達が楽になる。拠点は残っていた方がポイントは高いと思うけど、壊れるなら素直に諦めてもいいと思う。私達がどれだけ頑張っても、他の方角から入られたら終わる」
「拠点の耐久力がゼロになったら壊れるタイプだろうし、そこまで……もしかして修復できるタイプかも」
「だとしたら話は変わってくる。<大工>とか<木工師>に<石工師>も必要。誰が来るかによって難易度が相当変わる」
色々話しているところ悪いんだけど、僕は拠点10に挑戦するなんて……あー、うん。分かりました。
何で挑戦して当たり前って空気なんだろう。他人に足を引っ張られるのって、好きじゃないんだよなー。そんな奴が居そうなんだよ、最強勇者とか。




