0166・鑑定スキルとは
物作りの終わった僕は、師匠に読んでいいと言われていた本を読んでいく。内容を理解するように読んでいると、ファルが来たので読むのを止めて食堂に向かう。師匠も居るが、機嫌が宜しくないみたいだ。
「せっかく召喚して増やしたというのに、愚か者どもが来なんだようでな、正直に言ってつまらん。まあ、念の為に常駐させてはおくがの。それにしても妾の家を襲撃してきた癖に一度で終わりとは、根性の無い奴等よ」
「<最強勇者>ってバカの集まりだし、他人に嫌がらせする事しか考えていない連中なのよね。努力する訳でもないから、所詮その程度の連中が集まっている掃き溜めでしかないんだけど、面倒な連中ではあるのよ」
「文句言ったり他人の足を引っ張るだけの連中が好かれる事なんてあり得ないんだけど、何故かああいう連中って居なくならないんだよね。頭が悪いから仕方ないんだろうけど、人間が数多くいると掃き溜めに落ちる奴って必ず出るし」
「まあ、それこそ仕方あるまい。努力して己を良くするのではなく、足を引っ張ろうという愚か者なのだ。改善する努力をせぬ者は、永遠に浮かぶ事は無い。汚泥の中に沈んだままよ」
嫌な話はそこで止め、後は適当な話をしつつ食事を終える。ソファーの部屋に戻って横になり、ファルとシグマには頑張って【精密魔力操作】の練習をするように言ってログアウト。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
2000年 9月15日 金曜日 AM7;42
「あーらら。<最強勇者>の奴等、速攻で警察に逮捕されてるわね。エンリエッタさんの家を襲った奴等じゃないみたいだけど、天使の星でNPCを殺した奴がいて、連帯責任でパーティーを組んでた奴等全員が通報されたんだって」
「そもそも何だけど、あの連中は犯罪行為をやっているっていう自覚が無さすぎるんだよ。自分達のやっている事が企業に対する毀損行為だと分かってないからやるんだろうけど、サービスを終了せざるを得なくなったら巨額賠償なのにねえ」
「実際に未成年であっても、親にとんでもない賠償額が請求されるもの。散々ニュースになってるのに自分達は大丈夫とか思うのかしら。バカすぎて何も言えないわね」
「言う必要も無いと思うよ。そもそも底抜けのバカしか<最強勇者>なんていう痛々しい名前の奴等の仲間にはならないし。そんな所の連中と一緒になって行動してる時点で、自分は何も理解していないバカですって宣言してるじゃん」
「まあ、結局は「バカ」の一言で終わる連中よねえ」
朝食を食べながらシズと話しているけど、昨日の<最強勇者>から逮捕者が出たらしい。しかしNPCへの攻撃は極めて重いっていうのに、やらかすバカが居るんだね。連中はかつてあったゲームでも、派手にテロのような事をやっている。
例えば<レトロワールド>と同じくNPCが死亡するゲームで、数に物を言わせて重要NPCや権力者NPCを殺害してゲーム進行を不可能にした事もある。連中は<ゼウス>など比較にならないほど、あらゆる方面から蛇蝎の如く嫌われている連中だ。
それが出てきた所為で、掲示板では対策が話し合われるスレが立てられたみたい。シズはそこを読みながら話している。
「ま、私達は気にせずにゲームをするべきね。あいつらが下らない事をしても、ゲームにログインし続けるのが大事だし、奴等には何の価値も無いって教えてやらないと」
「日常の不満か何か知らないけど、他人を扱き下ろしたりバカにしたりって幼稚なんだよね。連中はそれが分かっていない。幼稚な赤ん坊のように他人に甘ったれてるだけなんだからさ」
「容赦ないわねー、事実だけど」
シズは食事を終えて部屋へと戻っていった。僕はとっくに朝食を終えていたから待ってたんだよ。放っておくと食器すら放ったままにするからさ、纏めて食洗機に突っ込むのも僕がやらなきゃならないんだ。
もう少しで洗濯も終わるし、干したらさっさとログインしよう。ちなみにウチは乾燥させるよりも外で干す派だ。乾燥で済ませる人も多いって聞くけど、ウチの両親は洗濯乾燥機の乾燥を信用していない。
いや、洗濯機の中の汚れを気にしていると言った方が正しいね。アレの中で乾燥させて、果たして本当に綺麗なのか? 仕舞って大丈夫か? という疑問がねえ、どうしても払拭出来ない。僕も気持ちはよく分かる。
下らない事を考えてないで、早く干してログインしようっと。
―――――――――――――――
召喚モンスター:ファルの【精密魔力操作】がランクアップし、【精密魔力操作・下級】となりました
召喚モンスター:シグマの【精密魔力操作】がランクアップし、【精密魔力操作・下級】となりました
―――――――――――――――
僕が持っているスキルだからか、やっぱり早いなぁ。現状の限界には達してないようだけど、それでも下級まで上がれば十分だろう。【魔力操作】でだって戦えてたし。昨日はプレイヤーマーケットに何も売り出してないので、木箱に納めるお金は無い。
ギンをどけて遊んでいると、トモエがソファーの部屋にやってきた。
「さっき連絡があって、今日はユウヤも一緒に豪雪山に行くって。後、あんたランキングとか見てる……訳ないわよね。ま、私も見てなかったんだけどさ。ユウヤが昨日たまたま見たら、あんたの種族名がどこにも無かったんだって」
「え? ………僕の種族名ってもしかして隠されてる?」
「どうもそうみたい。意図的に隠されてる。そのうえ【???】って感じの表記も無かったらしいわよ? 運営も意図的に隠しているみたいだから、あんたも口に出さないようにね。後、あんたの鑑定って出来なくなってるから」
「………鑑定が? ああ、成る程。通りで【魔闘仙】なのに誰も何も言ってこない筈だ。おかしいとおも、ファルが呼びに来たから食堂に行こうか」
僕達は食堂に行って朝食を食べるも、ふと気付いた事があって師匠に確認してみる。
「師匠。トモエが僕を鑑定出来ないと言ってるんですが、師匠とマリアさんはすぐに分かりましたよね? それって何故でしょうか」
「うん? トモエはコトブキが鑑定できんのか? ……成る程のう。おそらくは妾やマリアが【総合鑑定・天魔級】であったり【詳細看破】などのスキルを持つからじゃろう。【鑑定妨害】などのスキルもあるのでな」
「「【総合鑑定・天魔級】………」」
「ん? ……そなたらまさか、いまだに鑑定系スキルは見習いのままか? ちゃんと本を読み、色々な物を実地で鑑定せねばならんぞ。知識を得て、実際に使わねば上達せんからの」
「だからダンジョンのボスも鑑定できなかったのか。鑑定してもどうにもならなかったから、おかしいと思った」
「ダンジョンボスに関しては【看破】系スキルが無ければ暴く事はできんぞ。あれらは特殊な存在だからな。わざわざダンジョンが試練の為に作っておるとも言われる者達じゃ。普通の魔物と同じように見えて、同じではない」
「「へー……」」
師匠からなかなか有意義な話を聞かせてもらったけど、師匠がこういう教えをくれるって滅多にないんだよね。自分でやっていけって事なんだろうけど、本を読むのも延び延びになってたし……今日からは知識を溜めて、鑑定も使おう。
それにしても、やっぱり鑑定って統合して終わりじゃなかったんだなぁ。まだまだあるんじゃないかって予想してたけど大当たりかー。しかも師匠は天魔級って……。
どこまで鑑定出来るのかは気になるけど、もしかしたらバグらずに鑑定できるだけなのかな? とはいえ、それだけで十分だとも言えるけど。




