0164・ゲーム荒らしと特殊進化モンスター
スマッシュタイガーを倒した僕達は再び掘れるだけ採掘し、終わったので近くの森を調べる。こちらは森と呼べる密度で木が生えているので【精密魔力感知・下級】で探しているのだが、思っている以上に多いね。軽く感じただけでも、20体は居るなぁ。
その事を皆に話し、少し森から離れて僕とフォグとラスティアだけが前に出る。割とスノートレントは密集しているので、これなら【ダークウェーブ】連発で大丈夫だろうと思う。実際に相談したらキャスティもそれで大丈夫だろうと言っていたしね。
「じゃあ、いくよ。3、2,1、ゼロ!!」
ゼロの合図で一斉に【ダークウェーブ】を連発する僕達3人。キャスティは【光魔法】の【ライトウェーブ】を使えるらしいけど、【ダークウェーブ】と反発するらしいので今回は使用せず、今は待機してもらっている。
スノートレントの絶叫はあったものの気にせず連発し、8割は倒し終わり、残りは瀕死になっている。フォグにはMPを残してもらったが、僕とラスティアは4分の1以下まで減った。それでもここまで掃討できたのなら上出来だろう。
後は素早く接近したセナがトンファーを打ち込んだり、シグマが一気呵成に斧で攻撃して倒している。トモエ達も魔法で倒してくれているし、これならすぐに終わるだろう。
戦闘が終わり、スノートレウッドは更に3本追加された。ホクホク顔の僕達は洞窟への道を進み、幾つかの魔物を倒しながら戻る。それはいいんだけど、やっぱり洞窟の中にフリーズベアが居るなぁ。今日は洞窟の結構手前から調べてるんだけど、既に洞窟の中に反応があるんだ。
トモエ達にもフリーズベアの事を説明し、特にフォグに【スモールピット】を頼んで洞窟に入る。昨日と同じく山の主とも言えるフリーズベアとの戦いだけど、事前準備が出来ている今日の方が大分楽だ。昨日は出会い頭みたいな感じだったからね。
「グルルルルァァ!!! ……ッ!?」
咆哮しながら突撃してきて、足が予定の位置に無く派手に転がった。昨日と同じくこっちの近くまで来たので一斉に攻撃を開始。ファルやシグマの間から魔法攻撃を撃ち込んでいく。僕とラスティアは昨日と同じく【ダークヒール】での状態異常狙いだ。
これなら味方の邪魔にはならないから便利なんだよね、ダメージは一切与えられないけど。フリーズベアも起き上がって攻撃してくるが、ファルを攻撃するとシグマの斧を喰らい、シグマを攻撃するとセナのヌンチャクを喰らう。
咆哮を上げて牽制しようとするとドースが【ウィンドボール】を口の中に撃ちこみ、フリーズベアは派手に咳き込む。そこまでのダメージにはならなかったが、咳き込んでいる相手を一気呵成に攻めて勝利。決め手となってくれた。
石の格子扉の閂を外し、全員が中に入ったのを確認して閂をして転移。ようやくバイゼル山に帰ってこれて安堵の息を吐く。昨日もそうだったけど、寒いのと魔物が強いので緊張を強いられるんだ。特に魔物が強いのが大きい。
肩の力を抜きながら師匠の家に戻ると、突然ナイフが飛んできた。持っていた六角棒で弾くと、どうやら修羅スケルトンが何かと戦っているようだった。数が多い為、修羅スケルトン一人じゃ防げないらしい。
僕達も慌てて参戦し、敵を倒していく。リザードマンやウルフマンにキャットマン、更には魔人や鬼人も居る。意味が分からないので鑑定すると、襲撃してきた奴等が理解できた、
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<AAAAA> 稀人 Lv30
種族:リザードマン
メイン職業:剣士
サブ職業:研ぎ師
状態:死亡
クラン:最強勇者
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この痛々しいクラン名ですぐに分かる、こいつらは有名な荒らしだ。どんなゲームにも湧いてきて無差別PKなどを繰り返し、適当な名前でそれぞれのゲームを汚す事しかしない連中。問題は新しいゲームが出来る毎に、排除されるまで粘着を繰り返すという事。
こいつらは逮捕されるまで止めない事で有名な連中なんだ。おそらくすぐに<レトロワールド>からも排除されると思うけど……。ちなみにVR空間を荒らした罪で逮捕されると、VRマシンの使用許可が下りなくなる。
VRマシンには本人認証がついていて、それを通らないと起動できない。だけどVRで罪を犯すと本人認証が通らなくなるんだ。警察のデータベースを通らないと本人認証は出来ないんだけど、ここを通らなくなるので実質使用できなくなる。
これは未成年でも同じで、VR授業が受けられなくなり、昔のように学校に通って授業を受ける事になるんだ。毎年全国で数十人ほどは学校に通う事になっているらしい。それぐらいバカが多いんだけど、その半数が<最強勇者>絡みだと言われてる。
誰が始めたのかは知らないけど、不特定多数の連中が<最強勇者>を名乗って勝手にやってるらしい。そんなバカにバカが共感して同じ事をし、VR認証が通らなくなって恥を掻く。事実、今の時代でVRの認証を通らないって犯罪者の証拠だしね。
「<最強勇者>とか、随分気持ち悪い奴等が来たものねえ。そもそも適当なネームにしたところで、本人認証の所を押さえられてるんだから意味無いでしょうに。しかもわざわざクランまで作るとか。頭湧いてるわね、連中は」
「前にも何かのゲームで出てきたけど、本当に害悪のような連中だよ。他人に嫌がらせしたり破壊して悦に入るって、完全にただの精神異常者なんだけどねえ。まあ、異常者だから異常だと気付かないんだろうけどさ」
「それにしても、エンリエッタさんの家が壊れたり焼かれなくて良かったわよ。中ではナツとイルが寝てるのよ? 寝てるアバターも殺されるタイプのゲームだから危険だし、まさか私達が出ている時に襲撃されるなんて」
「その<最強勇者>とかいう奴等が何かは知らないけど、<破滅>を怒らせるだけじゃないの? 今までスケルトンで済まされてたけど、本気でヤバいのを置きかねないんだけどねえ……」
何その情報、凄く聞きたくなかったんだけど。修羅スケルトンでさえヤバいのに、あれでまだ下っ端なの? マジで? ……やっぱりあの師匠はおかしい。色々な意味で。
僕達は後片付けを修羅スケルトンに任せつつ、師匠の家に入ろうと扉を開けたタイミングで師匠が転移で帰ってきた。家の前の惨状を見た師匠が聞いてきたので素直に話すと、師匠は1体の召喚モンスターを呼び出した。
……非常に見づらいソイツも鑑定してみたんだけど、これってどういう事?。
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<???> 召喚モンスター Lv???
???
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「鑑定しても何も出てこない。ハテナばっかり……」
「うん? ああ、レベル差が大きすぎるのと知識が無さ過ぎて見えんのじゃろう。こやつはリビングアーマー・ミラー。ま、特殊進化の1つじゃの」
「リビングアーマー・ミラー。通りで見づらいと思いました。それに特殊進化ってあるんですね?」
「まあのう。とはいえ、おそらくコトブキの方が珍しい特殊進化が出来ると思うぞ? 少なくともかつての【魔闘仙】は闘士じゃった筈。【魔闘仙】のネクロマンサーなど歴史上コトブキしかおるまい」
「それは分かる。そんなズレた奴はコトブキしかいないわよね。っと、暑いから家に入らせてもらってさっさと脱ごうっと」
「妾はもう1体召喚しておくか。手が足りなかったようじゃから、コレで良かろう」
師匠の召喚陣から現れたのは、ゲームを始めてすぐに出会ったトライボーンウルフだった。あの時は甘噛みで助かったけど、相変わらず大きいなぁ。頭の位置が僕の身長より上なんだよね。
一噛みで噛み千切られる程の大きさなんだけど、何かこいつ魔法を使いそうな気がする。それも3つの頭で別々に。
162話の誤字報告、ありがとうございました




