0152・狩人ギルド長の言い分とは?
大きな通りで狩人ギルドをボロクソに貶していると、横から大きな声を掛けられた。それは僕達じゃなく明確にユウヤを呼んでいる。何だと思って見ると、ちょっとヒョロ長い中年の人が立っていた。
「あっ、アドムートさんじゃん。久しぶり。最近は忙しいのか若い人が来てるけど、何かあったの?」
「いやー、こう見えて商業ギルドのギルド長もしていて大変なんですよ。久しぶりにゆっくりとシャルロット様の所にお伺いしたいんですけどねー、あれ私の息抜きでもあったので」
「ああ、忙しい仕事から逃げられたんだ。師匠の事も大事だし、地味に下っ端に任せる訳にもいかないし?」
「そうそう、そうなんですよ。行かせている若手も、この先シャルロット様と懇意にしていく者なんで選りすぐっていましてね。この町にとっては何よりも大事で……おや?」
ユウヤと商人の人が話してると、ドタドタという音と共にさっきのギルド長と取り巻きがやってきた。今さら何しに来たんだよ。
「お前ら、まだ証言とりは終わってねえぞ! ドーディオのやった事は問題だが、お前達への嫌疑が晴れたわけじゃねえ! 特にお前がバルンカとメードを襲った可能性自体はあるんだからな!!」
「何言ってんだ、オッサン。……まさかとは思うが、俺達に難癖つけて何かしようって考えてるんじゃないだろうな? 俺達が持ってる素材でも奪うつもりなのか、それとも俺達を犯罪者にでも仕立て上げるつもりなのか……」
「ほう? それは聞き捨てなりませんね。貴方は狩人ギルドのギルド長カッシス殿だった筈、これはいったいどういう事です?」
「は? 誰かし……商業ギルドのギルド長か……。アンタにゃ関係無い、こっちのガキどもにしか用はねぇ!!」
「しかし先ほど犯罪者に仕立て上げるつもりと聞こえたのですが、いったいどういう事なんでしょうかね?」
「別にんな事はしねえよ。こいつらが狩人ギルドに所属してる狩人を襲った可能性があるから調べてるだけだ!」
「目の前でサイクロプスの丸太を喰らって吹っ飛んでたけど、何故か僕の所為にしたいんだねえ。もしかしてサイクロプスの素材を僕から巻き上げようって事かな?」
「ちがうっての!! そんな小悪党みたいな事するかよ!! お前の召喚モンスターが襲った可能性があるっつってんだろうが!!」
「だーかーらー、見ていた奴はサイクロプスの攻撃で吹っ飛んだって言ってるでしょ? それを「証言がー」って言ってんのはそっちでしょうに。挙句コトブキをナイフで刺し殺そうとしたわよねえ?」
「それはいったいどういう事ですかな? ネクロマンサーの方はこの町を救った功労者だと聞いていますが……まさか狩人ギルドは町を救った功労者を殺そうとしたと?」
「違う! あれはドーディオのバカがいきなり勝手な事をしたんだよ! オレはギルド長だ、訴えがあった以上は中立でなきゃいけねえ! だから「終わったよね?」話をき……」
「とっくに証言し終わっているのに、未だに絡んで来るってどういう事さ? どうしても犯罪者扱いしたいってハッキリ言いなよ。余所者が活躍したのが気に入らないから、サイクロプスの素材を巻き上げたいって素直に言えばいいと思うよ?」
「だから、違うっつってんだろうが!! いい加減にしねえと兵士に言って牢の中にブチ込むぞ!!!」
「おーおー、このオッサンすげえ事言ったぞ。この町は狩人ギルドのギルド長と兵士がズブズブの関係らしいな。何たって疑いの有無に関わらず、あんたの命令一つで兵士が従って牢に入れられるんだろ?」
「我々がそんな愚かな事をすると本気で思っているのかね? 君達の怒りは分かるが、我々を舐めないでもらいたいな」
周りに野次馬が多く居たんだけど、そこを縫う様に現れたのは丁寧な話し方をする筋骨隆々な人だった。何だろう、<辺境の守人>という言葉がピッタリと合う人だ。人間そっくりだから種族は【魔人】かな?。
その人に対して狩人ギルドの執務室であった事を全て話すと、周囲の野次馬も筋骨隆々の兵士も狩人ギルド長に厳しい目を向けている。何故か商業ギルド長でユウヤの知り合いのアドムートさんは思案顔だけど。
「狩人ギルド、ギルド長カッシス。そこの青年を云々と言っていたが、キサマこそ捕縛して牢に入れねばならん。それを分かっているのか? 少なくとも狩人ギルド内であった事は貴様の責任であろうが!」
「グッ……し、しかしだな、ドーディオのヤツは急にナイフを抜いたんだぞ。そのうえオレの話も聞きやがらねえんだ、いったいどうしろって言うんだよ」
「そもそもなんだけど、ああいうヤツをなんで所属したままにさせてるのさ? 普通は難癖つけてくる奴なんてアウトでしょ。偽の証言で調べてるんだから、むしろ悪いのはあっちだよねえ?」
「そ、それは……だがな、オレ「そういう事ですか」が言っても聞かない……」
「前々から何となくそうではないかと思ってましたが、バルンカとメード以上の腕の者が居ないのでしょう? だから2人の息子であるドーディオが好き勝手をやっても排除できない。おそらくバルンカとメードが脱退をほのめかしているのでしょうね」
「………」
野次馬も含めて全員が一斉に狩人ギルド長を見るが、下を向いて黙ったままだ。おそらく狩人ギルドの儲け的にも、町の守り的にも必要な人員だったんだろう。……じゃあ何で僕をやたらに犯罪者扱いしようとするんだ?。
「そこのオッサンが金玉握られてたってのは分かったけど、コトブキを犯罪者扱いしようとしたのは何でだよ。俺もそうだけど何の関係もねえだろうに。それにあんたが頼みにしてる夫婦は重傷だしな」
「そういえばユウヤ君の言う通りだね。あの夫婦は重傷なうえ戦えないなら除名してしまえばいい、散々迷惑を掛けてきたんだし自業自得だろう。だが、彼にやろうとした事は許される事じゃないがね」
「そもそも何故スタンピードの功労者を犯罪者扱いしようとした。事と次第によっては、狩人ギルドそのものを犯罪組織と見ねばならんのだが?」
「ま、待ってくれ! 話すから待ってくれ。………そこのガキは余所者だ、ただサイクロプスと戦えるほど強い。町に居てくれりゃ、バルンカとメードを除名しても町は守れる」
「何か町の為だって事にしたいみたいだけど、随分と狡いね? 普通に犯罪じゃないか。無理矢理に罪をでっち上げて強制的に働かそうっていうんだ。唯の犯罪者だって自白してるでしょ、それ」
「彼の言う通りだ。私は彼の事は詳しく知らないが、そもそもこちらのユウヤ殿はバイセル山に住まわれている<不沈のシャルロット>様のお弟子さんなんだけどね? その知り合いに手を出したという自覚は無いと思うが、既に取り返しはつかないよ?」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
「そ、そんな……バカな。何でシャルロット様の弟子が、町に来るんだよ……。あり得ないだろう、そんな事」
「現にあり得てるじゃないか。ここにユウヤ殿が居るし、私も何回か話した事もあるしね。ここでの話がシャルロット様に届くと、取引停止すらあり得るんだよ? 町の名前にも傷が付くし、何より国から目を付けられかねないんだけどね」
「アドムート殿の言う通りだな。かわりに王都から腕の良い<魔隷師>が派遣されてくるかもしれないが。そもそも今回の事は、狩人ギルド内のゴタゴタでしかない。それを都合良く解決する為に、余所者を無理矢理に犯罪者に仕立て上げて扱き使うなど、やろうとした者が犯罪者ではないか」
「うっ………だが、オレは町の事を考えて「ないね」だな!」
「今回の事で町の名前は地に落ちた。むしろ町の為になってないね。貴方がやったのは唯の独り善がり、自己満足だ」
狩人ギルド長の顔が唖然とした顔になっている。まさか、指摘されるまで気付かなかったの?。




