0140・運営さん達07
2000年 8月21日 月曜日
「弟君が運営ダンジョンをクリアしたのは良いんだけど、私達の性格が悪いってどういう事よ。あれぐらいのギミックは普通でしょうが。まったく」
『いやいや、ああいうギミックがあるのは分かるが、急にだと対応できるかどうかは難しいであろう。普通は目の前に集中するものよ。だからこそトラップとなるのであろうがの』
「こっちに反応して妙な失敗とかやらかさないでよ?」
『妾は人間とは違うでの。そんな愚かな失敗なぞせんよ』
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2000年 8月22日 火曜日
『プレイヤー<コトブキ>がバイゼル山にて鉱石を掘り始めました。高い確率で青銅と鉄に手を出すと思われます』
「それは特に問題は無いんだが、彼にしては遅かったな。まあ、<屍人の森>は近くに鉱山が無いからだろうが。鍛冶で有名なゼット町はあるものの、あそこはオーダーメイドで有名だし、今はプレイヤー向けには商売をしていない筈だしな」
『プレイヤー<コトブキ>の召喚モンスターが、ジャンピングゴートを崖から突き落としました。悪行度は如何しますか?』
「わざわざ上げる必要は無い。これがプレイヤーやNPC相手なら分かるがモンスターだしな。そのうえジャンピングゴートは崖から突き落とそうとするモンスターだ。同じ事をやり返されたとて文句は言えんよ」
『プレイヤー<コトブキ>は早速【昏睡眠】を使っているようです。五感を失ってはいますが、十分に耐えられているのは掲示板などを読めるからのようです。禁止しますか?』
「駄目だ、駄目だ。それまで禁止にしたら拷問にしかならん。あれは回復力を高めるが、拷問と然して変わらんのだ。掲示板が読めるといっても恐怖感や消失感などは大して変わらんのだからな。掲示板を読んだりプレイヤーマーケットが使えるなどというのはギリギリでしかない。アレは法に抵触する恐れすらある」
「そうなんですけど、それでも使えてるのが凄いですね……。あれ、20人で試験して7人しか耐えられなかったんですよ? そのうえ7人も一度だけです。彼は二度目か三度目でしょ? こういう部分もメチャクチャですねぇ。セントラル、彼の状態は?」
『血流や心拍など、プレイヤー<コトブキ>の使用しているVRマシンからの異常信号は送られてきていません』
「やはり彼は彼だという事だろう。この雛形に彼が関わっていること自体が、ある意味で運命のようなものだと思える。基礎となる雛形に異常な彼が関わる事がな」
「いいんですか? 基礎システムがおかしな学習をしかねませんが?」
「なに、彼は特異点のようなものだと教えればいい。他の一般プレイヤーと比べさせれば流石に異常な者だと分かるだろうし、そのサンプルとして学習させればいいだけだ。実際に事実なんだからな」
「まあ、それはそうですね」
『………』
…
……
………
『プレイヤー<コトブキ>が初めて最高品質の物を作ったのと、錬金術で最高品質の物を作った為、称号の【最先端の職人】と【賢者の意思】を獲得しました』
「ほう。まあ、あれは簡単な素材の物でも獲得できるからな。彼のように市場に流していれば、時間は掛かっても誰かが獲得するものだ。それが彼だったのはレベルと技術の差だな。スキル使用での最高品質は、今のレベルキャップでは届かないようになっている」
「流石に最高品質をポンポン出されても困りますからね。現状では鉄や鋼鉄は最高で4~5ですし。彼なら6か7は出してくれそうですけども」
「彼はなー、色々な意味で目の離せないイレギュラーと言っていい。もちろん良い意味でだがな。ここまでゲーム内を活性化させてくれる存在も早々いない」
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2000年 8月23日 水曜日
『プレイヤー<コトブキ>が鉄と鋼鉄の違いに気付いたようです』
「あら? ………ああ、本当だ。コレ炭素を【合成】していってるのねー、成る程、成る程。鉄と鋼鉄と銑鉄。よく導き出しました。ここから質の良い鋼鉄を作り出すのにも色々な方法があるから何とも言えないけど、彼ならさっさと鋼鉄を作るでしょうね。錬金術は工程が増えるほど品質が落ちやすいから」
『プレイヤー<コトブキ>がピーラーを作り出しました。新たにワールドにピーラーを登録します』
「ヤバい物とか作り出されたら困るけど、彼は意図的になのか天然なのか、そういうのは避けてるのよねー。ピーラーなら何の問題も無いから登録していいけど、どうしてこう、すぐに火薬に行くバカが多いのかしらね? ファンタジーだっつってんでしょうに。魔法使え、魔法」
『プレイヤー<コトブキ>が三節棍を作り出しました。新たにワールドに三節棍を登録します』
「………彼はいったい何をやってるのかしらねえ。まあ、ヌンチャクを作ってたから分からなくもないんだけどもさあ。また格闘界隈が騒ぎ出しそうな武器を作っちゃったかー。まあ【闘士】のスキルって、大半が素手から発動するものだからいいけど」
『プレイヤーマーケットに流されすぐに売れましたが、既に掲示板で話題になっています』
「どうしてこう、あの界隈は独自路線を歩むのかしらね。ブル○ス・リーとジャ○キー・チェンで二大勢力じゃないの。どっちもファンが濃いから性質が悪いわ。残りの少数はジェ○ト・リーで、極僅かにサモ・ハ○・キンポー派が居るけど……少なくとも他に比べればマニアックなのよねー。デブゴ○好きなのかしら?」
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2000年 8月25日 金曜日
「今日は大型アップデートの日だが、それ自体は既に準備できていたしテストサーバーでも問題なかった。なので後はAIに任せておけばいい。我々がするべき事は全プレイヤーのアバターチェックだ。もちろん大半はAIがやってくれるが、我々が直に確認しなければならないものも多い。今日は頑張ってくれ!」
「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」
大型アップデート当日。誰もログインは出来ないこの日に行われていたのは、プレイヤーアバターの総点検という名の取り込みであった。何が行われているのかというと……。
「このプレイヤーのアバターデータ使いやすそうだな、NPCに回すか。コイツは盗賊として使おう、クズの見本も居てくれて助かる」
そう、プレイヤーアバターのデータを複製してのNPC作りである。正しくはNPCの雛形となるアバターデータの抽出。それとバグチェック。これこそが現在急ピッチで行われている業務の真相である。
この<レトロワールド>では、各プレイヤーのアバターデータを用いてNPCなどを作り出している。もちろん最初はαテスターやβテスターのアバターデータを元にしたものであり、現在は新たにNPCを作りだす為の素材の選定をしていると言ったところであろうか。
実はβテスト時のコトブキとトモエのアバターデータもNPCに使われている。それは……。
『妾の元データであるコトブキのアバターデータを寄越せ、妾は勝手にアップデートするからの。ついでにサインやマリアに大天使の元データであるトモエのデータも寄越せ。妾の元であるコトブキはともかくとして、トモエのデータは使い回し過ぎではないか?』
「彼女は優秀だからだ。弟君は一点突破し過ぎでな、却って使いにくい。彼のアバターデータを使うと、どいつもこいつもキリングマシンになりかねん。そもそも<破滅>1人ですら、おかしくなっているだろうに」
『妾はおかしくなどなっておらんわ! おのれらが軟弱な思考をしておるだけじゃ!』
「この狂気が<BUSHIDO>から生まれた以上、私は絶対に組み込むが……よくもまあ、という気もせんではないな」




