0136・影の者と天使の星のエルフ
「少し前にコトブキを軽んじた者を妾がブチ殺したじゃろう、あれも狂信者よ。まあ、狂信者とて一線を超えれば当然殺すがの、妾には関係なぞないのでな。そもそも弟子を虚仮にするのは師匠を虚仮にするのと変わらん。そんな事さえ分からん阿呆にまでなっておるから殺されるのだ」
「まあ、ああいう子はいずれ問題を起こすから、殺されても仕方ない部分もあるの。そもそも狂信する事と妄信する事は同じじゃないのよ。狂信する者は主に迷惑はかけないものよ。妄信する者は周囲に迷惑を振り撒くから困るのよねえ」
「狂信者にとっては狂信しているモノが一番大事じゃからの。それに比べて妄信している者は、妄信している己が大事なのだ。なので己の思い通りでなければ、平気で妄信対象を破壊する。妄信者にとって大事なのは己なのだ」
「あー……何となく言いたい事は分かるわね。そんな事聞きたくなかったし、知りたくもなかったけど。そもそも狂信者と妄信者なんて遭いたくもないし」
「そうだね。何をされるか分からないから、私も怖くて遭いたくはないよ。それより姿が消えるスキルを生まれ持ってるなんて、反則的な種族も居るんだね。魔力で位置が分かるからいいけど、町中なんかで居ても気付かないかも」
「うん。町中で【魔力感知】なんて使わない。そもそも人が多いから使っても無駄だし、敵が潜んでるなんて考えがない。実に破壊工作向きだけど、使いすぎると身を滅ぼすと思う。身内から危険視されかねない」
「ええ。件の種族は何度も危険視されてきた種族よ。それでも獣王国に仕えているのは逃げられないからでしょうね。それと、何処の国も受け入れないから。我が国も受け入れるのは無理ね、何かあったら責任持てないもの」
「まあ、それはそうじゃの。あの種族が怒りに塗れて何かをやらかすかもしれん。それで起きた事に責任などと言われても困ろう。とはいえ受け入れることを決めた者が責任をとらねばならん。当然、国においては王が責を負わねばな?」
「だからこそ受け入れないの。あんな種族を受け入れて破壊工作を起こされたら堪ったものじゃないわ。何処の国の王も同じ考えよ。破壊などには使えるかもしれないけど、治世には使えない。完全に乱世に特化したスキルなのよねえ……」
「平和だと危険物扱いしかされませんね。盗みに入るかもしれませんし、裏の稼業として暗殺業をするかもしれません。更には情報を奪って他国に売るかもしれない。何より、そういう事をやってきているなら信用が無い」
「正にコトブキの言う通りよ。カメレマンには信用が無さ過ぎるのだ。何かあれば、やっぱりあやつらは……そう言われる。疑いを向けられ続けるというのは致命的じゃ。まして、危険な連中を近くに置きたい者などおらぬ」
「獣王国の片隅でひっそり生きるのが、彼らにとっては一番良いんでしょうけど……あの国がそれを許す筈がないのよねえ。あそこは領土欲が大きい国の一つだし。天使の星へのゲートがあるんだから、向こうに侵攻すればいいのに」
「獣王国の向こう側はどこだったかの……おお! 思い出したわ。エルフェリアではないか。あの高慢ちきなエルフの国じゃ。あそこの者らはとにかく他種族を見下しておるからのう。こちらに対する蔑視も酷い」
「あー、あのクソどもの国ね。少し行った事あるけど凄い閉鎖的な国なのよ。森が多いけど平地も多い所で、農業してるのが多かったかな? 農業してるのは下級のエルフで、森に住んでるエルフが上級のエルフじゃなかった?」
「えー……まあ、そうですね。私、実はエルフが好きじゃないんですよ。【純潔】の天使として大天使様に認められているというのに、母がラミアーだから云々と鬱陶しい事このうえなかったのです。どうせ貧乳の僻みでしょうけど」
「「………」」
「分かる、分かる。エルフの女どもって悉く貧乳ばかりなのよね。女どもはそれが美しいとか言って必死だけど、エルフの男は私の胸をガン見してたしさー。それが気に入らないのか余計に怒ってたから、徹底的に揶揄ってやったけどね」
「分かります。エルフの男どもは私の胸もジーッと見てましたよ。余程<ちっぱい>ばかりなんでしょうねえ。女の胸は母性の証だと言いますし、だからこそエルフの女はヒステリーを起こすのでしょう。【寛容】さが足りないのですよ」
「「………」」
僕は食事を終えてさっさとソファーの部屋に引っ込んだ。これ以上、あの危険な空間に居たくないからね。ソファーの前のテーブルにお○ぎり煎餅を置いてログアウト。
リアルに戻って雑事を熟すんだけど……案の定、キッチンのテーブルの上にシズの制服は置きっぱなしになっていた。いちいち持って行く必要もないし、このまま置いておこう。シズが悪いんだしね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
2000年 9月10日 日曜日 AM8:31
昨日は盛大に両親から怒られていたシズ。夕食まで下りてこなかったうえ、シズの制服は置きっぱなしだったからね。制服を部屋に戻す事すらしてなかったんだから怒られるのは当然だよ。
僕は黙って夕食を食べてたけど、完全にシズが悪いからねえ。手助けは一切しなかった。まあ、シズも自分が悪いって分かってるから文句も言ってこなかったけど。八つ当たりがなくてよかったよ、面倒臭いからね。
ログインして売り上げを木箱に入れる。ここ最近はナツとイルがギンの相手をしてくれているからか、木箱に入ろうとしないので助かってる。ナツとイルを見ると……昨日の事を引き摺ってはいないらしい。やれやれ、とりあえず声をかけよう。
「おはよう2人とも。ここ最近はギンがお腹の上に乗ってなくて助かるよ。いつも起きたら何故かお腹の上に乗ってたからさ」
「おはよう、コトブキ。今日もお腹の上に乗ってた。いつも私が下ろしてブラッシングしてるだけ。何故か常にコトブキの上に乗ってる」
「おはよう、コトブキ君。確かにいっつも乗ってるね。居心地が良いのか、それとも甘えてるのか。何かあったんじゃないの?」
「最初にトモエが捕まえる際、怪我を治してあげたくらいかな? それぐらいしかないと思うけど、そもそもトモエが捕まえられてる訳で、僕の治療はあまり関係ないとは思う」
「それでもテイマー系の中で猫を仲間に出来ているのはトモエだけ。テイマースレで話題になってた。相変わらずモフモフの女王だって書かれてたけど、本人も満更じゃない」
「それはねー、いつも通りすぎて何とも言えない。とはいえ最近は細工ばっかりで仲間を増やしてないみたいだけど……」
「近くに捕まえたい魔物が居ないんだって。人型はリナだけで十分だって言ってたし、モフモフは羊と猫。今のところは毛の量が足りてるんだろうって。ユウヤが言ってたよ」
「まあ、新しくモフモフのを見つけたら突撃するんだろうけどさ。今のところは見つかってないか、天使の星なんだろうね。<魔隷師>でないと捕まえられない魔物が居る以上は、キャラの再作成はしないだろうし……そういえばトモエは?」
「リナと一緒に修羅スケルトンと特訓してる。私達も色々覚えたからか危機感を持ったみたい。その所為で基礎スキルとかを覚えようとしてる。私達も残すは【足捌き】のみ。とはいえ、これが一番難しい」
「本当にね。コトブキ君は一気に覚えたらしいけど、普通の人はそんな事できないし、1つ1つ頑張っていかないと」
だから珍獣扱いか変人扱いするのは止めてほしいんだけどね。




