0135・身柄の引渡しと依頼主への報告
未だ気絶している暗殺者リーダーの両腕両足を圧し折ると、痛みで絶叫したものの口枷で大声は出せなかった。ここまでの物を用意できるこのゲームは本当に凄いよ。何処の運営でも、口枷なんてアイテムを普通は認めないと思う。
「さて、またも嫌がるとは思うけど、ドースに頼むしかないからお願いね。コイツはゼット町に預けず、師匠に預けよう。それにしても妙な魔物って聞いてたのに、見た事もない種族の暗殺者とはね……」
「こいつらが隠れてても、完全には姿を隠せてないっぽかったわよ? 何というか見えてる景色が揺らぐってうのかしら、そんな感じに見えてたのよね。だから普通の魔物が遠目に歪んで見えたんじゃない?」
「その可能性は十分にありそうです。カメレマンと言えば、先天的に風景に溶け込む特殊なスキルを持つ一族だと聞いた事がありますし、確か獣王国の暗部ではありませんでしたか? 昔、天使の星にも攻めてきた事がありますよ」
「ああ、何か荒らした奴が昔いたんだっけ? 魔力や闘気が隠せる訳じゃないから、有名な闘士に殴られたんじゃなかった? 何かそんな話を聞いたような……」
「そうです、そうです。一部の権力者を殺して混乱させたまでは良かったんですが、逃げる最中に勘の鋭い闘士に殴られて気絶し、それで捕まった筈。確か……ハッサムとかいう名前の闘士だったと思います。【正拳突き】が得意な人物だった筈」
「ふーん。私はそいつまで知らないけど、何か聞いた記憶はあったのよねえ。ま、とりあえず<屍人の森>に戻りましょうか。……何か<屍人の森>って聞いた瞬間騒いでるけど、ようやく誰に渡されるか理解したようね」
「そうですね。流石に<破滅の魔女>に渡されたら逃げるのは不可能ですから。この者としては、今ここで逃げるのが最後のチャンスでしょう。まあ、逃げられないように両腕両足が圧し折ってある訳ですが……」
「そもそも<破滅>の弟子であるコトブキの前に姿を現したのが運の尽きでしょ。コイツも<破滅>レベルに容赦ないから、どう足掻いても逃げられないしねえ。随分必死に暴れてるけど、相手が悪かったとしか言い様が無いわ。それに私は元【色欲】の悪魔だし」
「私は封印されていますが【純潔】の天使ですよ」
それを聞いた瞬間、暗殺者のリーダーは目を剥き、そして深々と息を吐き出した。どう足掻いても逃げられない事を悟ったようだ。僕は【精密魔力感知・下級】を使いつつ、暗殺者を背に乗せたドースと共に帰路に着く。
皆にも警戒を促し、他の暗殺者やコイツが自殺しないように皆にも監視をさせる。警戒しているからか、結局<屍人の森>の師匠の家に戻るまで、襲われる事も自殺する事もなかった。
師匠の家に戻り修羅スケルトンに師匠が居るか聞くと、居るというジェスチャーが返ってきたので呼んできてもらう。流石に暗殺者を家の中に入れる訳にはいかないので呼んできてもらったのだが、師匠は面倒臭そうに出てきた。
「久しぶりに惰眠を貪っておったんじゃが、いったい何の用なのだコトブ……カメレマンか? 何で獣王国の少数種族がこんな所におるんじゃ。挙句、両腕両足が圧し折られておるし。まあ、やったのはコトブキじゃろうが」
「今日はマリアさんからの依頼にあった湖に行ったんですが、ブルーサーペントにブレスを吐かれたんです。で、アレが妙な魔物だと思ったんですが、一応の確認の為にゼット町に聞きに行ったら、アレは湖の主で温厚だと言われ……」
「もう一度湖を調べに行ったんだけど、そしたら隠れてるコイツらの魔力反応を発見したって訳。コトブキが槍で刺し殺したら姿が現れてね、そしたら周りに居る奴等も一斉に襲い掛かってきたのよ」
「そして暗殺者のリーダーだったこの者を捕まえて、ここに戻ってきた訳です。まだ尋問も何もしていません。迂闊に口枷を外すと自殺する可能性もありますからね。こういう者が命を絶つ方法は様々ありますし、私達はそこまで詳しくありません」
「ふむ、成る程な。………しばし待っておれ」
そう言うと、師匠は転移して何処かに行ってしまった。いきなりだったので仕方なく、僕らは黙って監視しながら待つ事に。既にドースの背から下ろしているけど、ドースは気に入らなかったのか暗殺者リーダーを睨んでいる。
ドースを宥めつつ、ラスティアとキャスティが闘気の練習をしているのを見ていると、転移魔法陣が現れて師匠とマリアさんが現れた。マリアさんは周囲を見渡した後、すぐに暗殺者リーダーを睨みつける。あれ【魅了の魔眼】だ。
流石に<始祖の吸血鬼>には抗えないのか、魅了された暗殺者リーダーは大人しくなり、影から出てきた吸血鬼の人に何処かに運ばれた。
「あれは城の者達に任せておけばいいとして、こっちは何があったかの確認をしておきたいんだけど……最初から順番に話してくれる?」
そう依頼主に言われたので、僕達は最初から順序立てて話していく。ブルーサーペントから水のブレスを受けたと言うと驚かれたが、カメレマンが何かしてたんだろうと思うんだよね。そんな事を話し終えると、マリアさんは何やら思案顔になった。
「これは口外しないでほしいんだけど、北の獣王国はどうにも我が国を狙ってるようなのよ。それ自体は昔からなんだけど、今代の獣王はやたらに好戦的なのよねぇ。まあ12代くらい前のヤツも好戦的だったから、何とも言えないところなんだけど」
「12代……。そういえば獣人ってどれくらいの寿命なんですか?」
「そもそも獣王国の王は<選定の儀>と呼ばれる儀式で決まるのだ。だから種族は決まっておらん。かつては各氏族の代表が殺し合いをして決めておったと聞いた事があるが、今はそこまでせぬ筈じゃ。それでも一番強い者が王となる」
「それって、どうなんでしょう……?」
「さての。妾は別に悪いとは思わん。文官が政をすれば良いだけであり、王は象徴で良いなら何も間違ってはおらぬからな。王とは国を纏める者であり、優れておる必要はそこまでない。優れておらねばならんのは家臣じゃ」
「我が国でもそうよ。私が何かするよりも、下の者がやってる事の方が多いわ。そもそも王があれこれ口出ししなきゃならない国の方が問題でしょうね。後は監査役を置いて腐敗を防げば良いだけだし」
「監査役が腐敗したらどうするんですか?」
「私の直属の部下を置いているから大丈夫よ。裏切ったらどういう目に遭うか知ってる子達ばかりだもの」
「一応言っておくがのう、コトブキ。コヤツの直属というのは、コヤツの為に平気で命を犠牲にする狂信者ばかりだぞ? というより、そうでなければ直属にはなれんのだ」
「おほほほほほほ……」
「「「………」」」
何とも言い辛い国だなぁ。国の形としては悪くはないんだと思う。監視役や監査役が狂信者で埋め尽くされていて、不正をしようものなら抹殺される。それでも地方に任せている所では腐敗はあるんだろうね。バカンド子爵とか。
流石に誰も彼もを狂信者としたらディストピアの出来上がりだし、それは女王も望んでないみたいだ。それでも国の中枢は狂信者で固められてるんだろうけど。だから獣王国の工作とかは上手くいってないのかな? 狂信者ばっかりじゃ無理だろうしね。
そんな事を思いつつ師匠の家の食堂に移動……の前にフォグに穴を掘ってもらい、そこにコンニャクとはんぺんを埋めた。インベントリに入れてたものの捨てなきゃと思いながら忘れてたんだ。何故か2人はコンニャクとはんぺんを見て睨んできたけど。
2人がしがみついてたんだから、外すには仕方がなかったんだよ?。




