0134・暗殺者
森を出て歩きながら色々考える。後は帰って報告すればいいのは事実なんだけど、どうしても引っ掛かる。あんなのが居たら既に大騒動になってなきゃおかしいと思うんだよね。にも関わらず、依頼は軽いノリだった。
もしアレが湖の主で、普通に知られているならアレじゃないって事になる訳で……。ちょっとゼット町に寄って話を聞いた方がいいな。そう思い、僕はゼット町が近付いてきたので西側に回り、そこの門番に話しかける。
「すみませーん。北の湖に行ったら大きな蛇が居たんですけど、知ってますか?」
「ん? ああ、湖の主ね。それがどうかし……まさか手を出して怒らせたんじゃないだろうね?」
「こっちから手なんて出しませんよ。向こうから出されましたけど」
「は?」
門番に詳しく話を聞くと、あの湖の主は温厚で大人しくしていれば危害を加えてくる事はないそうだ。そのうえブルーサーペントは魔力が豊富な為、水に魔力が溶け込んでいて鍛冶に使いやすく、町の住民も居てくれてむしろありがたいくらいだという。
「その割には僕が近付いたら浮かんできて、問答無用でブレスを吐かれましたよ。その所為で仲間が2人死んでしまい、召喚できなくなりました」
「うーん……いったいどういう事なんだろうな? そもそも何で君は湖に近付いたんだい? 町の人だって用がないと近付かないよ、湖には」
「ゼット町の北にある湖に妙な魔物が住みついたから調べろって師匠に言われたんですよ。元の依頼はマリアさん……えーっと、この国の女王様です」
「え…………女王様の依頼?」
「はい。昨日、師匠の家で昼に頼まれまして。とはいえダンジョンに行く用があったので今日来たんですよ。そして湖に行ったらブルーサーペントが出てきて、いきなりブレスを吐かれたんです」
「んー………どういう事だろうね? 女王様が仰るように何かの魔物が住みついたのなら、君の召喚モンスターがそれと勘違いされた? だとしたら、いきなり攻撃されたのも分からなくはないけど……」
「うーん……とりあえず、もう一度行ってみます。あのブルーサーペントが違うなら、僕の仕事はまだ終わってない事になりますから」
「まあ、原因が違うならもう一度行くしかないだろうね。とはいえ、気をつけて」
「ありがとうございます」
僕はそう言って再び湖へと歩き出す。それにしても妙な魔物っていったい何なんだろう? あんな巨大なヤツ見たのは初めてだったからアレだと思ったのに、そうじゃない別のヤツって……。もしかして小さい魔物なのかな?。
再び森の小道へと入るのだが、この時点で【精密魔力感知・下級】を使い、怪しい奴が居ないか調べていく。すると、魔力反応はあるのに姿が見えない奴を発見した。あからさまに反応があるのに、目視では全く見えない。
それを良い事に僕達の後ろに回りこんできた。もしかしてコイツ、さっきも後ろに居たんじゃ……。そしてブルーサーペントはコイツにブレスを吐いて倒そうとし、た!!!。
「よっし! 手応えあり!! さーて、死んだなら流石に姿を現すでしょ。って、何これ?」
確かに槍を刺した所からは血が流れ、そして姿を現したんだけど……そいつは身長が1メートルぐらいの小さな小人? みたいな感じだった。見た目は二足歩行のカメレオンなんだけど、服を着て靴を履いてるから人っぽい。
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<アダクダン> NPC Lv29
種族:カメレマン
メイン職業:暗殺者
サブ職業:薬師
状態:死亡
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「暗殺者? カメレマンっていう種族名はともかくとして、暗殺者が何でこんなとこ……皆、敵だ!! 急に出てきた! 無理に生かさなくていい、逃がすくらいなら始末するんだ!!!」
「カタ!」 「ブッコロ!!」 「ブルッ!」 「ク!!」 「魔力が見えてんのよっ!!」 「無駄な抵抗ですね!!」
近くから現れたのは同じカメレマンだろう、大きさが似ていて二足歩行だし。それはいいんだが、毒が塗られた武器で攻撃してくるので厄介だね。召喚モンスターである皆には効かないけど、僕とラスティアとキャスティには効いてしまう。
そのうえ厄介なのは、僕以外は死んだら終わりの可能性が高いんだ。使い魔が死んでも大丈夫かは知らないんだけど、復活できたとしても死んでいいなんて事は無い。困ったなと思っていると、【回復魔法】の【クリアポイズン】の魔法を思い出す。
ラスティアから教わっていたのを忘れていたけど、思い出したからセーフだろう。気が楽になった僕は、相手を確実に始末していく。そんな中、キャスティに投げナイフがカスったらしく、ラスティアが声を上げた。
「まったく、投げナイフがカスるなんて鈍ってんじゃないの? もしくは投げナイフ程度が避けられないぐらい弱くなってんの?」
「失礼ですね! こんな物は偶然ですよ、偶然!! それに、こうやって【ハイ・クリアポイズン】を使えばすぐに治りますー! この程度の連中が何をしたって無駄なんですよ!!」
「チィ!! 上級の【回復魔法】持ちだ、撤退! てった、ゴバァッ!?」
「そいつだ! 両腕両足を圧し折れ!! すぐに僕も行く!!」
「カタ」 「アイツボコボコ!」 「ブル!!」 「クー!!」
声を上げてくれるなんてありがたいねぇ。こう見えても僕は未だに石球を持ち歩いてるし、いつでも投擲できるようにしてるんだよ。最近は強くなったからか使いどころは減ってるけどね。とはいえ備えあれば何とやらって言うし、持っててよかった石球。
周りの奴等が襲ってくるが、僕は【身体強化】をしつつ素早く殺害していく。捕縛する必要があるのは1人だけで、残りの連中には手加減する必要はない。ラスティアとキャスティもそれが分かったのか猛攻を仕掛けている。
ラスティアは短剣で素早く致死の一撃を放ち、そしてすぐに離脱するという戦い方をしていて、逆にキャスティは防いでからの一撃で首を刎ねていく。2人とも容赦が無いので助かっており、僕はその間に声を上げた奴に一気に近付く。
お腹に石球を喰らって呻いていたが、立ち上がろうとしていたので蹴り倒し、うつ伏せにしたら腕を回して首を絞める。そのまま首を絞めつつ立ち上がり、僕は走って仲間達の後ろへと避難した。
他の暗殺者がリーダーを殺そうとするも、僕は投げナイフなどを回避してリーダーに当たらないようにする。そうしていると遂に限界を超えたんだろう、気を失ったので腕を外して地面に寝かせておく。その頃には他の暗殺者は全員殺されていた。
僕は暗殺者のリーダーの服を剥ぎ、口の中に指を突っ込み毒物を持ってないか調べる。持っていなかったのでインベントリの木で口枷を作り、口の中へ突っ込んで固定。【錬金術】はこんな状況でも対応出来るから便利だね。
「裸に剥くのは武器を隠し持ってないか必要だし、口枷を着けるのは自殺防止だから分からなくもないけど……一切の躊躇なくやったわね」
「手慣れてる……訳ではありませんが、すぐに思いつく辺りはどうなんですかね?」
「犯人を捕縛するのに必要なんだから仕方ないじゃん。それに自殺されたらせっかく捕まえた意味無くなるしさ。とりあえず御苦労様。皆もお疲れ、特にリーダーを捕まえる際には助かったよ」
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※スキル:【回復魔法】のレベルが規定に達しました
【回復魔法】に【クリアポイズン】が追加されます
※スキル:【回復魔法】がランクアップし、【回復魔法・下級】となりました
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おっと。そういえば【回復魔法】はまだ見習いだったんだっけ。




