0133・湖に居るモノは?
集中し過ぎて周りを見ていなかったという恥を掻いた2人は、今は大人しく戦闘をしている。上手くいかなかったうえ、ドースにまで先を越されたのだから諦めたのだろう。今は戦闘に集中し、角を折ったり足を斬ったりしてくれている。
「あれかしら? 闘気を扱う感覚が残り過ぎていて、却って使えないのかもしれないわね。セナやドースはそこまで闘気の感覚が強くないのかも。超級になるくらいまで使ってたんだから、そう簡単にはいかないんじゃない?」
「あー……そういう部分はあるかも。それにしたって上手くいかなさ過ぎだし、ここまでだとは思わなかったけどね。元悪魔ってとこが邪魔してるのかしら? トモエの言うように今までの感覚を忘れた方がいいかも」
「それも難しいですけどね。散々使ってきたものですし、自分の命を何度も救ってきたものですから。刷り込みに近いところまでもっていますよ。それはラスティアもでしょう?」
「まあ、ねえ……。とはいえ【仙力】を使いたいから頑張るけど。仙人の奴等って、どうにも気位の高い奴が多くてムカツいてたのよね。私も使えなかったから余計にムカツいてたんだけどさ。次に会った時は絶対に吠え面かかせてやるって思ってたから、使える様になりたいのよ。何かヒントない?」
「いや、ヒントって言われてもねえ。そんなの個人個人の感覚に頼るものだから難しいよ。魔力と比べてたぐらいかな? 精密に魔力を扱うのと同じように闘気を扱おうとしてたら出来たんだよ」
「これに関しては、やはり自力でどうにかするしかありませんか。とにかく修行に励むしか方法はなさそうです」
喋りながら戦っても余裕で勝てる為、もはや作業のように倒していき、時間になったのでダンジョンを出て帰路に着く。師匠の家に戻ってくるとマリアさんと師匠は食堂で寝ていたので渡すのは諦め、半分をスケルトン・クラフターに預ける。
僕がいつも寝ているソファーのある部屋に戻り、イルからの要望どおりに角を加工していく。鏃の形も色々で、様々な物を作らされた。三角のヤツやら丸い筒状のヤツ、更には十字槍のような形のヤツまで。あんなの役に立つんだろうか?。
僕が使う訳じゃないんだけど、ちょっと気になる。そんな事を考えていると師匠に呼ばれたので食堂へ。マリアさんも起きていたので半分の肉を出すと、影から出てきたタキシードの人が全部影に入れていた。
訳が分からないものの、その後はマリアさんが影に沈んで消えていく。ああいう転移方法もあるんだなぁ。何となく<始祖の吸血鬼>とその近しい人にしか出来なさそうだけど。
その後は夕食を食べてソファーに寝転んだらログアウト。2人にはポテ○ングを渡しておいた。色々なお菓子を食べさせている所為か、最近2人の舌が肥えてきた気がする。時代背景的に複雑な味のお菓子がないからだろうか?。
その割には2人とも煎餅は普通に食べるんだよね。年齢がお婆ちゃんだからかな? ……リアルに居るのに2人に睨まれた気がするのは、気のせいだと思いたい。
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2000年 9月9日 土曜日 AM9:22
流石にそろそろ受け取りに行かなきゃいけなかったので、クリーニングに出した制服を受け取ってきた。9時から開店だったので待たなきゃならず、今日はこんな時間にログインだ。
目を開けると昨日と同じくギンはおらず、ナツにブラッシングされていた。僕は売り上げを取り出して朝食を買い、残りを木箱に入れて蓋をする。既に皆は食事を済ませていたみたいだけど、僕が来るのを待っていてくれたらしい。
「トモエの制服はキッチンのテーブルの上に置いてあるから、お昼に回収しといてよ? 放っておくと五月蝿く怒られるから」
「りょうか~い」
聞いてるんだか聞いてないんだか分からない返事だけど、一応僕は言っておいたんで、これで僕の責任じゃなくなった。後はトモエの責任だから僕は知らない。それはともかく、そろそろバイゼル山に行こうか。
いつも通り鉱床の3ヶ所を回り、戻ってきて精錬と加工を行う。ナツにはキッチン用品を、イルにはヤスリなどの加工をする為の道具を、そしてトモエはいつも通り細工の為のチェーンなどを。
僕は悩んだ挙句、ファルの武器から作り直しをする事に。まずは鋼鉄のメイスを作り、交換して加工。鉄製のメイスは買った物なので、適当に変えて販売。午後からはゼット町の北にある湖へと行く。
昼食を食べた後で出発するのだが、師匠は<屍人の森>の結界を張り直す時期なので、湖には手を付けられなかったらしい。それで僕の方に回ってきた訳か。もちろん僕が稀人で復活できるという事もあるんだろうけど。
トモエ達は今日もダンジョンの16階だそうだ。昨日はナツが居なくて1人だけ肉をゲット出来てないから行くらしい。トモエがいるから大丈夫だろうけど、気をつけるように言ったら、逆に同じ事を言い返されたよ。
確かに危険度で言えば、僕の方が高いか。そう思いつつ皆と出発。師匠の家を後にしてゼット町へ。慣れた道を進み、近くまで来たら町には入らず北に進む。そのままずっと進んで行き、森のような場所が見えてきたら作られた小道を進んで行く。
魔物はゴブリンとかコボルトとかがちょこちょこ出てくるだけで、動物系の魔物は特に出てこない。何となくイベントっぽいなと思いつつ、そういえばマリアさんからの依頼なんだからイベントかと思い直す。
湖らしき場所に着いたものの、魔物はゴブリンやコボルトしかいない。【精密魔力感知・下級】と【練気感知・下級】で詳しく調べると、何だか湖の底にモヤが掛かっているというか、判別が付かない物を感じる。
それが浮上してきている気がするので慌てて距離をとった。すると、出てきた奴は口からレーザービームのような水を吐き出してきたので、慌てて横っ飛びで回避する。一番後ろに居たシグマがタワーシールドで防ぐも貫通し、一撃で光になり消えてしまった。
「撤退!! こいつには勝てない! すぐに撤退だ!!」
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<ブルーサーペント> 魔物 Lv57
巨大な水属性の大蛇。主に海や湖に生息する。稀に通常よりも巨大化し、手の付けられない個体になる事もあるので注意しよう。魚とも動物とも言えない不思議な肉質をしており、味の好みは分かれる
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「鑑定した結果がコレとか何!? 味の説明なんてどうでもいいよ!!」
叫びながらも全速力で逃げたからか、二度目のブレスは無かった。やれやれ……僕が倒してしまってもいいんだろう? とか心の中で思ってたけど、口に出さなくてよかったよ。言ったら大恥を掻いてたね。いや、本当。
レベル57って強すぎるでしょ。そのうえ、そこまでレベルが上がるって事は、間違いなく2回以上進化してる筈。元々そういう個体だっていう可能性はあるけど、どのみち今の僕達が勝てる相手じゃない。
さっさと情報だけ渡して、後は何とかしてもらおう。防御したシグマが一撃で逝くなんて思ってもみなかったよ。ついでに【憑依】してたフィーゴも逝ってるし。【憑依】してる相手がやられると死亡扱いになっちゃうんだなぁ。今後は注意しよう。
それにしても、こんな早い段階で出てきていいボスじゃないと思うんだけど、このイベント長期化するのかな? それとも師匠が出てきて簡単に終わらせるんだろうか? あの湖の水ってゼット町まで繋がってるんだよね。
飲み水に使われてはいないけど鍛冶師の人達が使ってるらしいし、仕事にならなくなるんじゃないかな。……ま、僕が考える事じゃないか。帰って師匠に報告すれば僕の仕事は終わりだし。




