0124・徒歩での帰路
歩きながら皆はそれぞれ練習している。ただラスティアもキャスティも、闘気に関しては相当苦戦しているらしい。やはり解すのが簡単じゃないんだろう。ちなみに2人いわく、魔力や闘気が使えても仙力が使える訳ではないらしい。
現にかつての2人も両方使えたが、仙力や心力は使えなかったようだ。僕のように解したり捩り合わせたりしなかったんだろう。これ思っている以上に難しいんだよね。
普通の仙力が直径1センチの魔力と練気の紐を捩り合わせているなら、高度な仙力は直径1ミリの魔力と練気の紐を捩り合わせて束ねているんだ。更にそれを全身に流してコントロールしなきゃいけない。
僕が動けないと言った意味がよく分かる難易度だね。普通ならまともじゃないと思うよ。やるべき事のレベルというか次元が違いすぎる。普通の【身体強化】なんて魔力と闘気を流せばいいだけだから、正直に言って凄く簡単なんだ。
皆が練習しているので僕が魔物を倒しているけど、楽勝で倒せるうえに殆ど絡んでくる事はないから大した手間でもないね。数が多いと手伝ってほしいけど、数が少ない今なら問題無い。そんな事を考えているとMPが回復したのでフィーゴとシグマを呼ぶ。
フィーゴはシグマに【憑依】するのかと思ったら、ジッと僕を見た後、何故か僕に【憑依】してきた。何がしたかったのか分からないけど、たまには良いだろう。そんな事を思いつつも、モンスターも襲って来ずに暇なので修行をする。
魔力を解して練気と捩り合わせようとするも、歩いているというだけで難易度が跳ね上がっていてどうにもならない。何度か失敗するとフィーゴが【憑依】を解除し、突然何かを始めた。
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召喚モンスター:フィーゴの【魔力操作・下級】が【精密魔力操作・下級】に変更されます
召喚モンスター:フィーゴの【魔力感知・下級】が【精密魔力感知・下級】に変更されます
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もしかしてだけど、フィーゴって【憑依】している相手と感覚を共有してる? そう思えるほどにあっさりと身につけた。それを知った皆は羨ましそうな顔をしつつも修行を続ける。ナツとイルもしているが相当の苦戦を強いられているようだ。
2人の場合はまず基本が先だと思う。新しいスキルが欲しいのは分からなくもないんだけどね、基本を蔑ろにしたって駄目だよ。そう思って1つずつ丁寧に教えていく。実際、僕も暇なんだよね。
昼食をプレイヤーマーケットで買って休憩しつつ食事をしていると、近くを馬車が通り過ぎていった。
「この星の馬車って速いよねえ。実際乗れれば一気に移動できるから、乗れなかった日は狩りと料理をしてお金を稼いでたぐらいだよ。その方が楽だったし、ずっと移動も飽きるから」
「気持ちは分かる。速いかもしれないけど乗り心地は良くなさそうだし、僕は歩いた方がいいかな。一気に移動するならドースに乗って走ってもらえばいいしね」 「ブル!」
「馬を持ってるのは強いよねー。特にアンデッドの馬って疲れないんでしょ? それだとずっと走れるだろうから、すぐに目的地に着きそう。でも旅の風情は無さそうだし疲れそうだし、それは止めておいた方がいいのかな?」
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召喚モンスター:フォグの【魔力操作・下級】が【精密魔力操作・下級】に変更されます
召喚モンスター:フォグの【魔力感知・下級】が【精密魔力感知・下級】に変更されます
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やはり魔法系だと早いんだろうか? まあ、僕のスキルが変化しているのが大前提なんだろうけど、それでも早い。残りはセナとドースだけど、2人ともどちらかと言うと近接戦闘系だからなぁ。闘気の方が得意そう。
そんな話をしつつも更なる移動をしつつナツとイルに教え、ようやく2人も基本は出来るようになった。
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召喚モンスター:セナの【魔力操作・下級】が【精密魔力操作・下級】に変更されます
召喚モンスター:セナの【魔力感知・下級】が【精密魔力感知・下級】に変更されます
召喚モンスター:ドースの【魔力操作・下級】が【精密魔力操作・下級】に変更されます
召喚モンスター:ドースの【魔力感知・下級】が【精密魔力感知・下級】に変更されます
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アトー村に着く少し前に2人も成功し、今は喜んで身体強化を行っている。止めなさい邪魔になるから。僕達は前回泊めてもらったお爺さんの家に行き、7000デルを払って厄介になる。
部屋としては前と同じなので2人増えてるけど料金は変わらなかった。ありがたいと思いつつ話をすると、どうやらアトー村にも事件の話は伝わっているようだった。しかし捻くれ爺さんは捻くれたままのようだ。
僕達は呆れながらも、亡くなるまで変わらないんだろうなと思いつつ、部屋で休ませてもらう事にする。
「薬師ギルドのギルド長は不正を行って薬の値段を上げてた。許せない事をしている奴だけど、死んだのならいい気味。でも、内部抗争というか揉め事で死んだのはマイナス。そこは正義の鉄槌を下すべき」
「そう言われてもねえ……そもそも僕達は知らなかったし、分からないままにファングベアに食い荒らされたんだ。そこから捕まって取調べだから、最初は操られた魔物だとすら思ってなかったよ。はい、ハンバーガー」
「ありがと。そうね、私がファングベアは町の近くで出ないって言って、キャスティも同意したしね。それを聞いてやっと理解したくらいだったのよね、コトブキは。あれ進化済みの個体だから、町の近くに居ると間引きの対象なのよ」
「弱い魔物が居ると近付いてきますが、ファングベアの1頭や2頭なら狩人でも怪我無く狩れますからね。実力の無い者ばかりでも人数を掛ければいいだけですし、その程度が出来なければ流石に狩人は名乗れませんよ」
夕食後も4人は話を続けるみたいだけど、僕はログアウトして現実に戻る。2人には久しぶりの海老○んを渡しておいたので、仲良く食べてると思う。
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2000年 9月6日 水曜日 AM8:22
雑事も完了したし今日もログイン。ナツとイルの授業は大丈夫かとも思うも、僕が心配する事でもないかと思い直す。昨日はアトー村まで戻れたから、今日は師匠の家まで戻れる筈。
ログインすると、朝から闘気を循環させているセナが見えた。ドースは前回もそうだが、庭で寝泊りしてもらっている。流石に屋内に馬を連れて入る訳にはいかないからね、当たり前の事だけど。
それはともかく、ラスティアもキャスティもセナもドースも闘気は上手くいかないらしい。僕も魔力と比べて何処が違うのか1つずつ調べ上げ、流しながら比べて練り上げてと練習したんだ。
幾ら僕が使えるからといっても、そう簡単にされると流石に凹むからね。少しは苦労してほしい。ま、それはともかく皆が起きるまではゆっくりさせてもらおう。
ラスティアにキャスティ、それに遅れてナツとイルも起きた。僕達はプレイヤーマーケットで朝食を買い食事をとった後、お爺さんにお礼を言って東へと出発する。
闘気を修行中の4人は歩きながらの練習をしているけど、歩きながらだと上手くいかないと思うんだけどね。魔力は上手くいったかもしれないけど、闘気まで上手くいくとは限ってないよ?。
そう声を掛けたものの、誰1人として反応しなかった。そこまでか……。




