0120・始業式の終わりと慌ただしい詰め所
小中高の一貫校だからか、始業式も順番に行われる。今日学校に来たのは始業式の為だけでしかない。にも関わらず昼まで掛かるのは、小学部の始業式、中学部の始業式、そして高学部の始業式と順番に行われるからなんだ。その所為で待たなきゃいけない。
小学部の子供達なんて10時前には帰れるのに、僕達は高学部だから昼過ぎぐらいまで掛かるんだよ。古い時代には校長の話がダラダラ続いて倒れる生徒が出たなんて話を聞くけど、今じゃそんな事は殆どないっていうか出来ない。
先生達も忙しいし、やる事が多いんだ。教師も生徒も早く終われと思っているなか、校長が長い話を強行すると保護者からクレームが来る。もしそれで生徒が倒れたりでもしたら、教師は容赦なく校長を生贄にするんだ。母さんもそう言ってたし。
流石の校長も、自分の所為な挙句1人で矢面に立たされるのは嫌らしく、それもあって何処の学校でも校長の話は最速で終わるらしい。誰だって責任とりたくないからね、しかも校長の長話ってだいたい中身無いし。
「おーい、聞いてるか珠。レベル限界までいったみたいだけど、どんな感じなんだ? これ以上レベルが上がらなくても経験値は溜まってる感じか?」
「いや、どうだったかな……? 特に気にしてなかったから覚えてない。昨日はおそらくスキルレベルも頭打ちって分かったから、そっちの方に意識が向いてたし、確認した事は無いね」
「昨日って……牢屋に捕まってたんじゃなかった? 確かそんな話を夕食の時にしてたわよね?」
「そう。実は牢屋の中には<散魔印>っていう紋章? が刻まれてて、魔力が霧散するようになってるんだよ。取調べが終わった後も牢屋の中で魔力を操作してたら魔法が使えてさ、そしたらスキルが変更されたんだ」
「「「変更?」」」
「そう、変更。【魔力操作・下級】が【精密魔力操作・下級】に変更されたんだ。実際ウィンドウが出て、魔力に関する一定以上の経験を果たしました、って出たんだよ。それで変わったんだけど、魔力が霧散するから大変でさぁ」
「大変以前に、よく霧散する魔力を扱えるな。それって散る所為で集められねえんじゃねえの?」
「そうなんだけど時間はあったからね、ひたすらに修行して時間を潰してたんだよ。召喚も出来ないし送還させられたから仲間はいない。ラスティアとキャスティは使い魔だから居るけど、話をしてもねえ……。散々喋ってるし、女性の中身が無い会話にはついていけない」
「「キャスティ?」」
「キャスティっていうのは【純潔】の天使。何故か大型アップデートの次の日に襲ってきて、タマと戦って負けた人ね。天使の力を禁止されてたんだけど、タマに追い詰められて使っちゃって、その所為で負けたのよ」
「何故か大天使と大悪魔が居たけどね。天使の力で弾き飛ばされた後で大天使が介入してくれてさ、その御蔭で助かったんだよ。あれがなきゃ絶対に殺されてた」
「そういえば俺も聞いてなかったけどさ、どうやって珠は勝ったんだ? 流石に天使の力は無しって決まっても、レベルに差があり過ぎるんじゃね? 普通はどうやったって勝てないだろうに」
「それがそうでもない。最初の方は様子見で全力じゃなかったからね、その間に足を掬おうと思ってたんだけど上手くいかなかったんだ。その内に侮りがなくなったからマズいと思って、突きの時に前に出つつ右手で喉輪、そして左手で右肩を掴んでの大外狩りで地面に叩きつけた」
「「「………」」」
「その後タマはキャスティをうつ伏せにしつつ首を絞めてたわよ。そして足で胴と腕を絞めてロック。【身体強化】をしながら背筋で絞め上げてたわね。で、返せないキャスティが天使の力を使って反則負け。タマの使い魔が確定したってわけ」
「また使い魔なんだ……。しかも【純潔】の天使」
「という事は、あの悪魔ラスティアは【色欲】? ……ああ、ラストを変えてラスティア。となると、チャスティタスだからキャスティ……安直」
「別に良いんじゃねえの? 変に凝ったオリジナルネームだと逆に分かり辛いしな。それぐらいの方が却っていいと思うぜ?」
「僕もそう思う。ちなみにキャスティはハーフラミアー・ファーマー・下級のレベル15だね。つまり僕と同じで限界レベル」
「何故か【純潔】の天使にあるまじき爆乳とムチムチの体してるけどね。計ったらIカップにギリギリ届かないHカップだったから、とても【純潔】の天使とは思えないのよ。【色欲】のラスティアだってFカップなのに」
「「………」」
僕と友哉は一切口を挟まない。何故なら葛城さんと五條さんは慎ましやかだからね。僕としては大きくても小さくてもどっちでもいいと思うんだけど、そんなに争わなきゃ駄目なのかな?。
それよりもこの微妙な空気をどうするべきか。そう思っていたらタイミングよく移動となったので、僕らは体育館へと移動していく。昔から変わらずにある大きな体育館で築50年を越えているらしい。何度か補強したりとかの耐震工事なんかはしてるらしいけど。
そんな伝統ある体育館で始業式を行い、終わったのでさっさと家に帰る。僕は既に一年分に近いVR授業は受けているので、後は残りを熟すのとテストだけだ。どれだけ授業を早く受けても構わないんだけど、テストは絶対に決まった日取りにある。
将来を左右しかねないので、しっかりと受けて点数出しておかなくちゃいけない。それ以外は適当にゲームするけど。シズは半年分は終わってるので、残り半年分は何処かでやるでしょ。シズも成績は良いんだし。
家に戻ってホッと一息吐くと、さっさと制服を脱いでハンガーに掛けておく。明日クリーニングに出すけど、皺になるのもアレだしね。適当に家にあるもので昼食をとり、終わったら<レトロワールド>にログインする。
さて、どうなってるかな? 殺されて師匠の家に戻っているか、それとも牢屋のままか。
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ログインしてみると、そこは牢屋の中でラスティアとキャスティも居た。なにやらお喋りしているみたいだ。それは良いんだけど、特に何かがあった訳じゃないらしい。とりあえず起き上がって昼食を出そう。
昼夜逆転サーバーを使ってないから、こっちは昼なんだよね。ハンバーガーを作った猛者がいるようだ、コレ食べようっと。
「僕が起きた事に気付いてたけど、食事を出すまで喋ってたね? 何か大事な話でもあったの?」
「そうじゃないんだけど………朝から取調べを受けてないのよ。昨日【精密魔力感知・下級】になったから分かるんだけど、何だか建物の中が慌ただしいの。どうにも不測の事態が起きたんじゃないかって、キャスティと話してたのよ」
「ええ。兵士が外に行ったり戻ってきたり、何とも妙な動きになっています。それもこれも【精密魔力感知・下級】になってからですから、元々こんなものなのかもしれませんが……」
「ああ。確かに妙にバタバタしてる感じがするね。とはいえ僕達には何も出来ないし、ゆっくりと待つしかないんじゃない? 僕は昨日と同じように闘気の修行をしようっと」
「相変わらずねー。まあ、慌てたってしょうがないっていうのは事実だけど」
「ですね。慌てても仕方ありませんか。それに情報不足で慌てている理由はわかりませんし」
僕は昼食後、魔力を流しつつ闘気を流し、2つを比べながら精密に扱っていく。外の五月蝿さが気にならなくなり、やがて自分の内側に意識の全てが向く。
魔力と闘気の違い、精密さとは何なのか、何故混ざらないのか。そういった部分を解きほぐし、少しずつ追いかけていく闘気が魔力に追いつき、解かれた魔力と闘気が絡まりあっていく。




