0119・登校日
「今日の取調べの途中でさ、殴られた挙句に壁に何度か叩きつけられたんだよね。その後に挑発したんだけど記録係に止められたよ、殺されてたら師匠の家に戻れたのにさ。……そういえば薬を届けなきゃいけないんだけど期限は大丈夫かな?」
「う~ん……まあ、気にしなくていいんじゃない? 私達が悪い訳じゃないし、誰か死んでもここの兵士どもの所為よ。そもそも町に来た目的すら聞かれず、コトブキがやったの一点張りだしね」
「そうですね。殺されたのは悪名高い薬師ギルドのトップ、それなのに何の関わりもないコトブキを犯人扱い。護衛の兵士は何故か疑われてもいません。どう考えても怪しすぎます」
話し合っても今のところは不明なままなので、昼食を食べた後は好きに過ごす。2人にはよ○ちゃんイカを渡しておいたので、僕は再び修行に集中しよう。座禅を組んでリラックスし、魔力を心臓から練り上げる。
そして全身にゆっくりと行き渡らせつつ循環を繰り返し、少しずつ練り上げる魔力量を増やしていく。少しずつだけど増えてきている実感はある。ひたすら続け、一定以上の魔力になった瞬間、僕は魔法陣にして放つ。
それは最下級の【ファーストエイド】だけど、行使する事に成功した。目の前のラスティアとキャスティがビックリしているけど、努力した甲斐があったよ。そう思っていると目の前にウィンドウが出た。
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魔力に関する一定以上の経験を達成しました
【魔力操作・下級】は【精密魔力操作・下級】に変更されます
魔力に関する一定以上の経験を達成しました
【魔力感知・下級】は【精密魔力感知・下級】に変更されます
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「………いやー、ないわー。<破滅>もそうだけど、頭のおかしい事をして常識をブッ飛ばすのは止めてほしいんだけど? そもそもそれ私が悪魔の時ですら出来なかった事なの、その低レベルで達成するの止めてくれない?」
「本当に。ちょっと尋常ではないですよ、コトブキは。貴方は自分がちょっとおかしいのだと自覚して下さい。幾らなんでもメチャクチャ過ぎます。それ私でも出来なかった事ですよ。頭のおかしい【忍耐】が喜んでやってたのを覚えてますけど、その【忍耐】でさえかなりの時間が掛かってたのに」
「そう言われてもねえ。僕は師匠の魔力の使い方を思い出して正確に真似しながら、細部を色々と調整していったら出来ただけだよ。使い魔って主と繋がってるらしいし、2人ともやってみたら? 案外出来るんじゃないかと思う」
僕の言葉を聞いた2人は半信半疑ながらも集中し始めた。僕も心臓付近から魔力を練り上げていき、そのまま全身に循環させていく。【精密魔力操作・下級】になったおかげか、先ほどよりは楽な気がする。
しかしここまで苦労しても中級にならないって事は、もしかしてスキルレベルも抑えられてる? 何かそんな気がしてきた。闘気もランクアップさせたいんだけど、ここは闘気を押さえ込む場所じゃないからなあ。とりあえず魔力と同じようにやってみるか。
2人が集中している間、僕は魔力を精密に動かす感覚で闘気を動かしていく。それでも勝手が違うからか、どうにも上手くいかない。困った僕は魔力を動かしつつ闘気も動かす。それぞれを別々に動かし始めた。
今までなら同じ様に動かしていたんだけど、今はバラバラだ。例えばだけど、今までは魔力が左腕にある時は闘気は右腕に。魔力が右腕にある時は闘気は左腕にあったんだ。師匠もそうしていたし、それで【身体強化】を行ってたからね。
今は魔力が左腕にある時、闘気はそれを追いかけてる感じかな? 近くで使う事で、魔力と闘気の違いを感じ取ろうと思ってるんだけど……難しい。そもそも魔力と闘気って混ざらないんだ。水と油みたいな物と言えば分かりやすいかな。
それの違いを感じつつ、魔力と闘気の違いを含めて少しずつ操作を細かくしながら行っていく。闘気は散らされたりしないので自分から細かく意識しないと精密な操作は出来ない。だからこそ魔力と比較しているんだけど、本当に難しい。
そうやって練習し続けていると夕方になったようだ。僕が目を開けてプレイヤーマーケットから料理を選んでいると、突然2人が同時に叫んだ。
「「やった! 上手く出来た!!」」
「おっ、2人とも出来るようになったんだ。おめでとう。それより夕食にしようか?」
「……あのさ、出来るようになったんだから褒めてくれてもいいんじゃない?」
「そうですよ。封印されているとはいえ、今までの自分とは違う高位のスキルが得られるとは思ってもみませんでした。それなのに髄分と軽いですね」
「僕はもう出来るし、2人も繋がってる以上はね? 僕が出来る様になった事は、何故かみんな簡単に出来るようになるんだよ。最初の僕は苦労してるのにさ」
2人にはスルーされたけど、僕は最初だから大変なんだけどなぁ。夕食を食べながら明日どうするかと思い、昼夜逆転サーバーを使うか悩む。昼夜逆転サーバーは12時間反転してるんだけど、明日お昼には帰ってくるんだよね。
それを悩みつつも夕食後、2人にはうま○棒を渡してログアウト。何故かラスティアはたこやき味、キャスティはコーンポタージュ味が好みらしい。なので好みの物を多く渡しておいた。
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2000年 9月4日 月曜日 AM6:31
今日は登校日なので朝から学校に行く準備をする。ラスティアとキャスティには昼過ぎまでログインできない事を言ってあるので、おそらく兵士達にそう言っているだろう。もしログアウト中に殺されても、師匠かスケルトン・クラフターが気付いてくれる筈だ。
学校に持っていく物などを鞄に詰め込み、準備は完了。朝食を作って起きてくるのを待つ。シズも今日は早めに起きてきたが、これは昨日起きるように言っておいたからだ。一昨日に課題を終わらせてなかったら、今ごろ寝不足で機嫌が悪かったろうね。
両親も家を出て準備も完了したので、久しぶりに自転車に乗って出発する。空気圧なども一昨日に調べて入れておいたから問題なし。まだ朝でも暑いなと思いながらペダルを漕ぎ、風を受けて涼みながらの登校だ。
僕達以外にも暑そうにしているのが沢山いる中を、僕達も暑そうにしながら学校へ。制服なんて滅多に着ないけど、こういう時には着なきゃいけないからねえ。そう思いつつも決められている教室へ。
席は決まってないので適当に座り、ノートで扇いでいると友哉が隣に座る。その後は<レトロワールド>の話になったけど、友哉は未だに鉱石掘りとダンジョンを往復しているらしい。朝は鉱石、昼からは牛肉。友哉も大変だなぁ。
そんな会話をしていると葛城さんと五條さんがやってきた。2人も交えて<レトロワールド>の話をするも、2人はブラッディアの首都トゥーラから東に移動中だそうだ。スカルモンド地方を目指して馬車を乗り継いでいるらしい。
「2人は凄く冒険してるんだねー。ある意味で羨ましい。僕なんて今は牢屋の中だよ」
「牢屋って……珠、お前いったい何をしたんだ? 犯罪をしないと牢屋の中になんて入らないだろ?」
「前の方で豪華な馬車が魔物に襲われてさ。そいつはドゥエルト町の薬師ギルドのギルド長だったんだけど、何故かその嫌疑が僕に向いてるんだよ。護衛の兵士は何故か取り調べも受けてないし、最初から僕を犯人扱い。どう考えても怪しいでしょ?」
「うん、怪しい。あとドゥエルト町って言ったら、私達が目指してる町。私達は既にスカルモンド地方に入ってる。領都ベルモから既に東に向かってるから」
「領都ってベルモっていうんだね。知らなかったけど、スカルモンド伯爵の領都がベルモ? スカルモンド、ベルモ、スカルモンド、ベルモ………あっ」
「珠、それ以上はいけない。私も同じ事を思った」
「私は椿ちゃんに教えてもらったけど、よく分からなかったよ」
スカルモンド伯爵ってリッチなのに鞭と聖水や十字架で戦うんだろうか? だってこれ、モチーフはベル○ンドでしょ? ヴァンパイアハンターの。
悪魔城に乗り込むイベント……は無さそうだね。




