0118・取調べ2日目
2000年 9月3日 日曜日 AM8:22
今日もゲームにログインするんだけど、明日までに解決出来ない場合ちょっとマズい事になる。何故なら明日は始業式なので学校に行かなきゃいけない。授業はVRで受けても、出席しなきゃいけない行事は外せないからなあ。
そんな事を考えつつログインすると、やっぱり牢の中に居て、ラスティアもキャスティも眠っていた。殺されるとかは無かったらしい。
僕は起きあがるとプレイヤーマーケットで朝食を買い、食べながら魔力を扱おうとする。当然ながら<散魔印>というもので霧散するので、少しずつ集中して魔力を練っていく。
散らされても構わず何度も練っていると、少しずつ魔力が練れるようになってきた。ほんの僅かではあるものの、練る事は可能だという事が分かって安堵する。それと同時に<散魔印>という物も万能じゃない事も判明した。
なかなかに厄介な物ではあるものの、某3Dダンジョンゲームの魔法禁止ゾーンと同じではないらしい。もしくはアレをリアルにするとこうなるんだろうか? それはともかくとして、ラスティアとキャスティが起きたみたいなので朝食を渡す。
「ありがとう。それはいいんだけど、コトブキ。あなた結構メチャクチャな事をするわね。床や壁に<散魔印>が刻んであるのに強引に魔法を使おうとするなんて。それも僅かではあるけど、魔力が使えてたじゃない」
「ありがとうございます。確かにメチャクチャといいますか、練習としてはある意味最適なんですかね? もし<散魔印>のある中で魔力が練れて魔法を行使できるなら、おそらく達人の領域に踏み込めますよ。<氷獄の魔女>や<破滅の魔女>は可能だと聞いた事がありますが……」
「へー、そうなんだ。師匠の魔法の使い方を思い出してみるかな?」
僕は師匠の魔法の使い方を思い出しつつ、その記憶の中で師匠がどう魔力を使っていたかを深く思い出す。1つ1つ霧散しては、より鮮明に思い出しながら魔力を練る。緻密に精密に魔力を使わないと難しい。とはいえ練る事自体は不可能じゃない。
そんな事をしていると、足音がしたので即座に止める。牢の外で足音が止まったので見ると、昨日のスキンヘッドのおっさんが立っていた。ニヤニヤしているので僕達を罠に嵌める為の算段でも出来たのかな?。
「貴様らには今日から厳しい取調べを受けてもらう。その厳しさにはお前達も屈するしかあるまい。コイツらを出せ! 特にこのガキは私が直々に取調べを行う!!」
「「「「「ハッ!」」」」」
そうやって牢から連れ出されたけど、昨日と同じく取り調べ室での尋問だ。記録係の人も居るからか拷問は出来ないらしい。それとも下の年齢が12歳からのゲームだからかな?。
「お前がやったんだろうが!! あの場で魔物を嗾けられるのは、お前しか居ないのだからな!!」
「昨日も言ったけどアレは生き物。ネクロマンサーが生き物を操るのは不可能だっての。もし出来るなら天使の星の<テイマー>か、それとも<魔隷師>しかいないよ。僕はそのどちらでもない」
「お前がネクロマンサーだからといって、出来ないという保障が何処にある!! 出来ないという事を証明してみせろ!!!」
「<悪魔の証明>を言い出すとはビックリだね。こいつは頭がおかしいのかな?」
「何ぃっ!!!」
「<悪魔の証明>とは悪魔がいないという証明は出来ないという事。居る、居ないとなった場合は、居ると言っている側が証明しなくちゃならないのさ。だって悪魔の人を連れてくれば済むからね。つまりネクロマンサーが生き物を操れると、そっちが証明しなきゃいけないんだよ」
「はぁ? 私が何故いちいちそんな事をせねばならんのだ!! お前が犯人なのだから、さっさと吐け!!」
「犯人である証拠は? もしくは根拠や論拠は? ……何も無いよねえ。そもそも一番の容疑者である護衛達を無視し、なぜ近付く事もしていない僕達を犯人扱いしてるんだい?」
そう言った瞬間、僕はブン殴られて壁に叩きつけられた。余程自分の思い通りにならない事が気に入らないらしい。その後は壁に何度も叩きつけられたが、慌てた記録係の人が止めている。
「兵士長!! これは暴行であり、傷害事件ですよ!! 場合によっては領主様に報告する案件になります!!」
「チッ!! このクソガキがいつまでも吐かんからだろうが!! 犯罪者の癖に調子に乗りおって、今すぐ殺してやっても良いのだぞ!!!」
「ふーん、だったら殺せば良いんじゃないかな? 何故しないのさ。そんなに腹立たしいなら、早くその腰の剣で殺しなよ?」
「このガキィ!!」
「止めてください!! 本当に上に報告しますよ!!」
「クソッ!! コイツを牢に戻しておけ!!」
そう言って茹で蛸みたいな頭をして去っていった。随分短気なヤツだなぁ。もしくは僕を早めに犯人にしなきゃ困った事になるのか? よく分からない奴だ。
「……ふぅ、君ねえ。あの兵士長は本当にやりかねないんだから気をつけてくれ。本当に殺されるかもしれないんだよ?」
「何の問題もないけど? 僕は稀人だ、殺されても復活する。むしろ師匠の家で復活するから都合が良いんだよ。止められた方が迷惑なんだけどね?」
「は? 稀人? ………君が?」
「そうだよ。稀人は殺されたって本当に死ぬ訳じゃない。死んでも拠点に戻されるだけで済む。ここから出られるんだから、むしろ殺された方が都合が良かったんだよ。多少の痛い思いだけで脱出できるからさ」
「………」
さて、僕が稀人だという情報を受けてどういう手で出てくるんだろうね? この記録係も怪しいんだよなぁ。何ていうの、無理矢理犯罪者をでっち上げる為の懐柔役みたいな感じに思わなくもない。どのみち敵側と考える方が自然だしね。
僕はさっさと牢に戻されたけど、ラスティアとキャスティはまだみたいだ。せっかくなので牢の中で魔力を練る修行を再開する。そういえば闘気はどうなんだろうか? そう思い使ってみると、闘気は何の問題もなく練る事が出来た。
やはり<散魔印>の名前の通りに魔力だけが散らされるらしい。魔力を緻密に精密に操り、少しずつ少しずつ練り合わせて太くしていく。魔力を収束するだけでもかなり大変だが、しかしやってやれない事もない。
ひたすらに静かな為、僕は一種のトランス状態になりながら魔力を練り続けていく。少しずつ太くし、それを全身に巡らせるように少しずつ少しずつ。まるで自分の血液を自分で操作し、全身に送り届けるように指先にまで通していく。
失敗しても諦めず、再び魔力を練って少しずつ全身に行き渡らせる。それを繰り返す内に、魔力を練るのは心臓付近から始める方が楽だという事が分かった。おそらくだけど、そういうものなんだろう。闘気はお腹というか丹田の方が練りやすいし。
集中し過ぎていたんだろう。どうやら昼になっていたみたいなので一旦止め、プレイヤーマーケットでお昼を買おうと思ったら誰か来た。画面を閉じて座っていると、ラスティアとキャスティが連れて来られたようだ。1日中取調べを続ける訳じゃないのかな?。
ラスティアとキャスティが入れられた後、兵士は何も言わずに去っていった。昨日と違ってこっちをニヤニヤ見下してないな? 何かあったか……は聞けば分かるか。
「昨日と違って兵士がニヤニヤしてなかったけど、何かあった?」
「さあ? 途中までは偉そうにコトブキがやったんだろ! っていう感じだったんだけど、途中から変わって何だか普通に聞いてきたわね。急に態度を変えてるし、裏で何かあったんだとは思うけど……」
「私の方もそうでした。途中から急に丁寧とまでは言えませんが、居丈高ではなくなりましたね。何だったのでしょう?」
僕達は首を傾げつつ、プレイヤーマーケットで買った昼食を食べ始めた。




