0117・馬車と兵士と牢屋
僕達の目の前で町から来た兵士が戦っている。正しくは横転した馬車の屋根を壊し、中に顔を入れて食い荒らしていたファングベアに外から槍を突き刺していた。ファングベアは後ろを振り向けないのか、尻に槍をグサグサ刺されていて悲鳴を上げているようだ。
「グゥォォォオオオッ!!!!」
「こっちを向けない間に刺し殺せ!! 血を流させろ! どんどん突き刺せ!!」
「「「「「おぉーーーっ!!!!」」」」」
そして兵士がグサグサ刺している横で、偉そうな兵士が馬車の護衛から事情を聞いているようだ。僕達は無視して町へ行きたいんだけど、今もまだ熊が死んでないからなぁ。それに取調べをしているっぽいし。……うん? 偉そうなのがこっちに来る?。
近寄ってきたのはスキンヘッドのムキムキな兵士だった。まあ、それはいいんだ、それは。何故かこの人、やたらに僕達の事を睨んでるんだけど? 向こうの兵士が何かおかしな事を吹き込んだのか?。
「お前! そこのガキ、お前だ!! お前があの熊の魔物を嗾けたという情報がある! 大人しくついてきてもらおうか!!」
「は? 何言ってんの? 僕はネクロマンサー、あれは生きている魔物。僕が嗾けられる訳ないじゃん。冷静に考えれば分かると思うんだけど?」
「五月蝿い! さっさと来い!!」
剣を突きつけられているうえ、周りを兵士に囲まれ槍を突きつけられている。何だか面倒臭い事に絡まれてるなーと思いつつも、仕方なくついていく事に。
……っていうか、馬車の護衛をしていた奴等は解放されてるっぽいんだけどねぇ。コレ、大失態じゃないの?。
そんな事を思いつつも、槍を突きつけている連中が送還しろと言うので、仕方なく召喚している皆を送還する。
ラスティアとキャスティはそもそも召喚モンスターじゃないので送還なんて出来ない事を言うと、兵士達はニヤニヤした顔で2人を見始めた。何を考えてるか分かりやすいね。
僕達は町の入り口近くにある詰め所に連れてこられ、現在取り調べを受けている。僕を取り調べているのは何故かスキンヘッドの男で、兵士長という役職にあるらしい。どれぐらいの立ち位置か知らないけど、それなりには偉いのかな?。
「キサマがやったんだろうが!! さっさと吐け!!!」
「だーかーらー、僕はネクロマンサーであって、生きている者は召喚できないんだっての。何度言えば理解出来るのさ? 流石にここまでだと、頭が悪いを通り越して、僕を犯人に仕立て上げようとしているようにしか思えないね」
「何だと、キサマ!! キサマがさっさと自白せんからだろうが!!」
「だーかーらー、生きている者を召喚できないって言ってるだろうに。それに、あの馬車の護衛を疑わないのは何故さ? 随分と怪しいけど、疑うならあいつらの方が先だろう。おかしな話だねえ」
僕がそう言うと、記録係の人も不審に思ったのか兵士長を見る。すると兵士長は慌てたように捲し立てた。
「えぇい! 強情なヤツめ!! おい、コイツを地下牢にブチ込んでおけ!! 何日でも取調べをしてやるわ! 飢えれば情報を吐かざるを得まい!!」
そう言って取り調べ室のような部屋から出て行った。記録係の人がメチャクチャ不審人物を見る目で兵士長を見ている。その人物は溜息を吐きながら紙束を整えると、僕を地下牢に案内し始めた。
僕は歩きながら気になる事を聞いてみる。それは、なぜ手枷や足枷を嵌めないのかという事だ。こういうのは普通、手枷や足枷を嵌めて逃げられないようにするものじゃないの?。
「はははははは、ソレは凶悪な犯罪者に対して行う事だよ。君みたいに暴れもしない者にする事じゃないさ。兵士長はしたがってたみたいだけどね、暴れてもいない者を重犯罪者扱いになんて出来る訳がない」
「ヘー……そうなんだ。それにしても変なんだよねー、あの馬車の護衛。盗賊に襲われていたにも関わらず、僕達に押し付けて逃げるし、その次の日は僕達の後ろをピッタリとくっついてきた。何がしたかったのやら?」
「うん? ……そうなのかい?」
「そう。昨日、盗賊に襲われてたところに出くわしたけど、こっちに盗賊を擦り付けて逃げたんだよ。襲ってた連中は、薬師ギルドのギルド長ゴディムに恨みがあるとか言ってたね」
「………成る程、そんな事がね。っとここだ、すまないけど大人しくしていてくれると助かる」
「まあ、いちいち暴れる気はないかな」
何故か苦笑しながら牢に入れられたけど、そこにはラスティアもキャスティも居た。何で3人一緒にされてるんだろう? これだと脱獄確率が上がっちゃうよ? まあ、しないんだけどさ。
「まったく鬱陶しい連中よね。何というか、あからさまに私達を犯人扱いしようとしてるわよ。正しくは犯罪奴隷に落とそうとしている感じかしら。ここ<散魔印>が刻まれてるから魔力が散らされるし、脱獄は無理ね」
「いえいえ、脱獄はやり過ぎでしょう。それに日数が経てば<破滅>殿も流石に気付くでしょうし、気長に待っていればいいのでは?」
「そうそう。はい、コレ。とりあえずプレイヤーマーケットが使える以上は、飢える事も水が飲めない事も無いしね。……2人も装備を取り上げられたんだ?」
「まあ、それはね。エロい手で触ってきたから肘打ち喰らわせてやったら、近付いてもこなくなったけど」
「あら? 【色欲】にしては優しいですね。私なんて股間を膝で蹴ってやりましたよ。【純潔】の天使だと知ったら真っ青な顔をしていましたが……。とはいえ、今は翼が出せないので証明出来ないんですよねえ」
そんな話をしていると、ニヤニヤした兵士が僕達の下にやってきた。どうやら食事を持ってきたようだが、僕達が料理を食べているのでビックリしているみたい。驚いて目が点になってるよ。
兵士が持っているお盆にはパンが3つと椀が3つ乗っている。パンは4分の1があるかないか、椀には何も入っていない。飢えればとか言っていたのは、そういう事だろうね。まあ、食べたであろう兵士は目が点になった後、慌てて走って行ったけど。
「あはははは、見ましたか? 目が点になった後、泡を喰ったように走って行きましたよ」
「……これ、マズいかな?」
「マズいわね。対策として3人バラバラにされる恐れがあるわ」
「とりあえず、さっさとお腹の中に入れてしまおうか? 考えるのは後にしよう」
僕達は急いで食事をし終わり、壁にもたれてジッとしている事にした。すると、ドタドタと走って兵士長とさっきの兵士が来たが、僕達の顔を見て何も無かったと安堵している。
「キサマが言っておるような事など無いではないか!! だいたい荷物を取り上げられておるのだから食う物など持っておるまい! もうよいわ! さっさと持ち場に戻れ!!」
「は、はい!!」
兵士長はドタドタ足を鳴らしながら去って行ったが、怒られた兵士は首を傾げながら牢のある一画から出て行く。僕は溜息を吐いた後、ラスティアとキャスティにお菓子を渡してログアウトする。
申し訳ないけど、僕はログアウトすると何も出来ないからね。一応トイレから一番離れた場所で横になる。牢にはトイレがついてるけど1つしかないうえに、穴が掘られているだけの下に落とすヤツなんだ。
流石にそれはね、と思いながらログアウト。今日はここまでだ。
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現実に戻った僕は雑事を熟しながら色々と調べたが、僕のような牢にブチ込まれるイベントの話は無かった。かなりのレアイベントなのか、それともストーリーに絡むイベントをやってるのかな?。
情報が無い以上は、手探りで熟さなきゃいけないし……。どうか魅力が関係ないイベントでありますように。




