0114・テンプレイベント?
6階からは草原だがスネアトラップは僕が見破れるので注意しながら進む。紛らわしいグリーンアントやグリーンスネークに気付かない仲間達じゃない。ささっと処理しながら進み、ゴブリンとコボルトが追加されても難なく突破した。
10階のオークどもはキャスティを見て激しく興奮し、中には鼻血を垂らして目が血走っている者まで居る。こうして見ているとキャスティが本当に【純潔】なのが疑問が出てくるね。
「オークどもは相変わらずですね。性根が腐りきっていますし、すぐに私が引導を渡してあげましょう!」
「「「「「「「「「「ブゥヒィィィィッ!!!!」」」」」」」」」」
目が血走っている奴等の突撃っていうのもどうなんだろう? と思うが、隊列も何も無いのだから楽勝ではある。キャスティの前に出て【ダークウェーブ】を使うだけで倒せるからね。まあ、誰かさんは格好よく敵を打ち倒したかったんだろうけど……。
「待ってください! 私の活躍が何一つとして無かったじゃないですか!! せっかく愚か者どもが来たんです、ここは私が格好よくビシッと決めるところでしょう!!」
「だからビシッとそのエロい体で集めてたじゃない。あんな目が血走ったオーク初めてよ? 【色欲】の悪魔であった私でさえ見た事がないほど狂ってるじゃないの。いったいどれだけオークを強く誘惑すればああなるのやら?」
「してません!! 貴女じゃないんですから【誘惑】なんてする訳ないでしょう! そもそもスキルを持ってませんよ!!」
「おおー、天然で誘惑する処女の【純潔】。拗らせすぎて、煮込みすぎたスープみたいになってるのかしらね?」
「ラスティア! いい加減にしなさい!!」
「うひゃ!」
壁が上にスライドして空いた途端、ラスティアはダッシュで逃げ出した。まあ、ラスティアの気持ちも分からなくはない。さっきのオークは明らかにおかしかったし、僕も見た事がなかったほどだ。
ラスティアが【誘惑】した時だって、あそこまでにはならなかったんだよ。天使の星の元天使だからなのか、それともハーフラミアーだからだろうか? そういえばハーフラミアーのハーフだけど、そこは人間らしい。
どうも悪魔の星から攻め込んだラミアーが、天使の星の人間に匿われてキャスティが生まれたそうだ。ラミアーは下半身を蛇から人間の足のように変えられるらしく、その後は天使の星で普通に暮らしたんだって。
両親は仲睦まじかったみたいだけど、父親がやつれている事はよくあったと、この前キャスティが恥ずかしそうに語っていた。それと精がつく料理が多かったらしい。ラミアーは元々大地に強い適正があり、自分がファーマーなのも母親の血筋の影響が大きいと言っていた。
11階についたので魔法陣を登録し、怒っているキャスティにも登録させる。2人にバナナを渡して落ち着かせ、11階から脱出する。もうそろそろ戻らないと時間だ。
師匠の家に戻ってきた僕はファルを料理に送り出し、適当に昨日手に入れた鋭角牛の角と木を組み合わせて物作りをしていく。2人はバナナを食べつつ話しているが、喧嘩しないなら好きにしてほしい。
小型のナイフや鉈にマチェットなどを作ってプレイヤーマーケットに流す。これならそこまでの値段にはならないだろうし買えるだろう。そう思ったら即座に売れている。鉈まで売れているのは驚くが、もしかして武器として使ってるんだろうか?。
ゲームを始めた頃の僕じゃないんだから、そこまで鉈が必要な状況が分からないな。枝を沢山手に入れる必要があるんだろうか? そんな事を思いながらファルが呼んでいるので夕食に行く。
食事後、ラスティアが堅焼き煎餅が欲しいそうなので2人に渡してログアウト。今日はここで終了となった。
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2000年 9月1日 金曜日 AM8:22
9月最初の日は生憎の雨だけど、ゲーム内はどうだろうか? 前はゲーム内も雨だったんだよなぁ。そう思いつつログインするも、ゲームの中は晴れていたので胸を撫で下ろす。朝の儀式を行ったら木箱から出したギンをブラッシングし、ファルに呼ばれたので食堂へ。
師匠から薬ビンの入った木箱を渡されたのでインベントリに収納しておく。町の薬師ギルドへは持っていけば分かるそうだ。木箱の蓋に付いていたマークが師匠の使うマークらしく、偽造すると<破滅の魔女>に潰されるというマークでもあるらしい。
ラスティアとキャスティが笑えない表情で言っているからマジなんだろう。そもそも弟子の僕が偽造する意味も無いんだけどね。僕は薬師じゃないし。
ラスティアとキャスティもついてくるそうなので、準備を整えて10万デルを持ったら出発。ちょっと持ちすぎのような気もしないでもないけど、お菓子を寄越せと五月蝿そうだしね。昨日出したバナナも全部食べたらしいし………キャスティが。
「し、仕方ないんです。天使の星ではそこまで美味しい物は食べられません。私も天使ですから、天使が贅沢をする訳にはいかないのです! ここは悪魔の星ですから力を抜けますけど、私も色々大変なんですよ?」
「それは知らないけど、どうせ五月蝿いのは【忍耐】とか【勤勉】とか【節制】でしょ? あいつらストイックな自分に酔ってるタイプだから、すっごく面倒臭いのよね。【純潔】がマシなレベルで鬱陶しいのよ」
「へー……まあ、七美徳だから分からなくもないけどね。でも雁字搦めなのも、あんまり良いとは思えないんだけれど、その辺りは大天使が緩めたりしないの?」
「大天使様もやり過ぎは良くないと仰っているのですが、あれらは居られなくなると元に戻るんですよ。そして【寛容】が注意するんですが、全く話を聞かないのです。【寛容】もちょっとズレていて、ギリギリまで許しますから結局は強く言えず……」
「何だか悪循環というか何というか……アレかな? 七大罪と七美徳のちょうど真ん中ぐらいが一番マシなのかな? 【色欲】だと暗殺相手とすら楽しむし、【純潔】だと拗らせるし。中道が一番マシだね」
「カタ」 「ソウ」 「ブル」 「クー」 「ゴン」
「「………」」
色々思い出して思うところがあるのか、何も言わなくなった2人。どうやら気にしていない訳じゃないらしい。それにしても極端に振れた美徳と大罪だなー。何となくストーリーにも絡んでそうな気がする。
そんな事を考えつつも、皆と話したり冗談を言いつつダンジョン街を通り過ぎて西へと向かう。そこまで遠くはないようだけど、馬車を使う行商人が一日掛かりで次の村に運ぶんだって。それって結構遠いような気が。
このゲームは本当に何処まで作られてるんだろう? そんな事を考えながらも皆で歩き続けた。街道の途中で休憩し、プレイヤーマーケットで昼食を買って食べる。何の変哲も無いサンドイッチだけど、こういのが一番安心するね。外れが無いから。
休憩を終えたら出発し、今日はどんど○焼きを2人に渡す。キャベツ○郎とどっちにするか悩んだけど、昼食後はこっちで。
更に西へと歩いていると、馬車が襲われている所に出くわした。盗賊が30人ぐらいの規模で豪華な馬車を襲っている。これはアレか? 貴族が襲撃されている現場かな? 何となく嫌な予感がするなぁ……。
バカンドとかいう貴族も居たし、あんまり係わり合いになりたくないんだけど……無視したら損しかしないような気もする。困ったなと思いながら近付くと、向こうの兵士から声を掛けられた。
「そこのお前! 盗賊が出てきてるんだぞ、手伝え!!」
「チッ! てめえら、そこのガキどもをさっさと始末しろ!!」
あーあー、余計な事してくれちゃって。本当に貴族とその関係者って碌な事しないね。自分達で何とかしなよ。




