0110・いつものボコボコ
「チッ! 横から別の奴等が来るとはツイてねえぜ! まあいい、てめえら、その女どもをブッ殺して巻き上げてろ!! オレぁこっちのガキをブッ殺す!!」
「「「「「「「へいっ!!」」」」」」」
「あれ? あの盗賊、僕達が殺せるって言ってるみたいだけど……何だか随分舐められてるね? 盗賊如きに舐められとは思わなかったよ。害虫以下の存在のクセしてさ、人様を舐めるとはねぇ……」
「あぁ? このクソガキいい度胸してるじゃねえか!! そんなに死にたいなら今すぐ殺してやるぜ!! どうせネクロマンサーのてめえを殺せば終わりだろうが!!!」
「間違ってはいないんだけどさ、それを害虫以下のオマエが出来るとでも?」
「こんのクソガキィィィィ!!!」
最初のヤツもそうだけど、割とあっさり引っ掛かるよねー、挑発に。やっぱり舐められたら負けなんだろうなぁ……。
片手斧を両手に持っている盗賊リーダーだけど、コイツ投げてくるんじゃ……やっぱりね。そんなの想定していたら喰らったりしないよ、マヌケだねぇ。それはともかく、左手の斧を投げた後は右手の斧を振りかぶってきた。
僕はその攻撃をスカし、相手の足に棒を引っ掛けると転倒させる。後は皆の番だ。
「ストンピング開始! 両腕両足を壊したら、殺さずに生かせ! 9割9分殺しだ!!」
「カタ!」 「カイシ!」 「ブルッ!」 「ク!」 「ガン!」
「ガァッ!? クソッ!! デメッ! ゴハァッ!! ひきょ!! グベェ!! ギャァァァ!!!」
リンチにされてボッコボコの盗賊リーダー。そんな奴は皆に任せ、僕は女性達を襲っている7人に対して襲いかかる。【身体強化】をしての振り下ろしで肩を破壊し、喉を付いて悶絶させ、足を蹴り飛ばして圧し折っていく。
あっと言う間に女性達の方が有利になり、容赦なく盗賊を殺していく。止めを刺したのは僕じゃないので離れ、皆の方を振り向くとリーダーは虫の息だった。顔面だけでなく体中が血だらけで、両腕両足が圧し折られているが、かろうじて呼吸はまだあった。
僕はそこで止めさせ、後は女性達に任せる事にする。盗賊を全て殺した女性達はどうしたものかと困っているようなので、僕達は帰っている最中であり、邪魔されなければ介入していない事を伝えた。それとリーダーはまだ死んでいない事も合わせて言っておく。
「なので止めを刺してくると良いですよ。僕達はこれで失礼します。早く帰ってログアウトしたいので」
そう言って足早に師匠の家へと戻る。女性達はなんとも言えない顔をしつつ、リーダーに止めを刺したようだ。後ろからそんな声がしたからね。僕達はさっさと<屍人の森>へと入り、師匠の家へと着いた。
ファルに夕食を頼み、皆に再度【クリーン】を使い綺麗にしたら、ソファーの部屋に居たトモエに声をかける。トモエも師匠の家のベッドを使わせてもらっている筈なのに、何故僕が寝るソファーの部屋に居るんだろうね?。
「ふーん……<般若衆>ねえ。聞かないけど確認しておいた方が良いのかも。本当に<羅門会>から出たのなら、PKしない可能性も高いしね。<羅門会>とは違うのか、それとも同じ連中なのかは重要だし」
「まあねえ。案外、女性だけのチームに変えたのかも。前に掲示板の書き込み読んでたら、元々<ジュエルズ>を志望してたらしいから。とはいえ、あんなキラキラアイドルをよく目指す気になるよねえ。案の定、メンバー全員不仲で有名だし」
「アレは仕方ないんじゃない? アイドルってそもそもそういうイメージだし、キラキラしながら裏ではドロドロが普通でしょ。昔ながらのアイドルだってそう聞くから、そういうものなんじゃないの?」
「アイドル自体がそういうものというのは分かるけど、プロゲーマーでそれはねえ……。だったら本物のアイドル目指せばいいのに、ってならない? プロゲーマーがしたいのかアイドルがしたいのか、どっちかハッキリすればいいのに」
「そういうのは大抵の場合、アイドルでは人気が無いのよ。プロゲーマーならアイドル部分が実力不足でもチヤホヤしてくれるからさ、だから錯覚するんだと思う。何処までいってもアイドル部分は実力不足なのにね」
ファルが呼びに来たので食事にするが、そういう視点でアイドルとか見た事なかったなぁ。そもそもアイドルに興味無いからなんだけどさ。それにしてもアイドルに実力不足とかあるんだねえ、僕はてっきりアイドルは顔と雰囲気だけだと思ってたよ。
夕食を食べてログアウトしたら雑事を熟す。落ち着いたのでスマコンを使って確認すると、<アーシュラ>と何人かの女性が独立、新たに<般若衆>を立ち上げたとあった。どうやらアイドルではなくゲーマーとしてやっていくらしい。
方針を見ると、<実力は関係なく、全てのプレイを配信して視聴者と共に成長していく>だそうだ。……あれ? もしかして今日のアレも配信されてたのか? 未だ配信中なので確認できないものの、色々考えた結果、全て放り投げて気にしない事にした。
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2000年 8月29日 火曜日 AM8:21
今日も変わらず鉱石掘りと精錬に武器作りだ。後はキャスティがどうするかだけど、それは朝食の時に聞けばいいか。いつも通りの朝の儀式を行い、ギンに【クリーン】を使った後、ちょっとした思い付きでブラシを木で作った。
それを使って毛をブラッシングするんだが、最初嫌がってたギンは時間が経つとうっとりし始める。どうやら気持ち良いらしいので続けていると、ファルが呼びにきた。ブラッシングを止めて食事に行こうとすると気を取り戻したのか、急に足をペシペシ叩いてくるギン。
食事だと言い、抱き上げて食堂へと連れて行く。席に座って食事の開始だが、キャスティに今日の予定を聞いておく。
「キャスティは今日どうするんだい? 昨日ダンジョンの15階までシグマを連れて行ったから到達してないのはキャスティだけなんだ。今日も温泉に行くならダンジョンには行かずに別の事をしたいからね」
「ぬっ、そうであったのか? ……すまんのだがな、コトブキよ。ダンジョンに行ってシャープホーンバッファローの肉を獲ってきてくれんか。ここ最近食べていたが、どうやら今日の朝食で無くなったようでな」
「そうなんですか? 分かりました、肉を獲ってきます。……角はどうしよう? 最近は鋼鉄の武器を作ってるから角の武器は要らないんだよねー……あっ、ラスティア用の鋼鉄の薙刀は置いておいたんだけど、知ってる?」
「知ってる、っていうかもう受け取ったわ。やっぱり角製と違って耐久力が高そうだったわね。あんまり振ってないけど切れ味は鋭そうに見えたし、使うのが少し楽しみ」
「私も見た時に驚きましたよ、まさかラスティアが長物を振り回すなんて。そういった派手な戦いなどせず、基本的に暗殺紛いの事をしていた筈なのですが……」
「暗殺紛いって何よ、ちゃんとした暗殺だったでしょうが! 何で紛い物扱いされなきゃなんないの!」
「貴女の場合、相手を誘惑して同衾しての暗殺でしょうに。女を活かしたと言えば聞こえは良いかもしれませんが、普通の暗殺者とは違うでしょう。短剣や鞭を使う場合は逆に暴れていて、隠れてなどいなかったですしね」
「まあ、そうじゃったの。忍んで敵の背後に回り、暗殺などというのは聞いた事が無い。それに閨での暗殺の方が確実であるし、仕方ない面もあろう。おそらくは楽しんでから殺しておったのであろうがの?」
「………」
夜にベッドで暗殺するのと、短剣や鞭で暴れる……ねぇ。くノ一ならぬKUNOICHIだろうか? 忍者ならぬNINJAみたいな感じで。




