0105・使い魔キャスティ
僕の心の中の狂気が勝ち筋を教えてくれる、後は僕がそれを実行出来るかどうかだ。そして”敵”が動き出すのをジッと待つ。僕から動いたとて絶対に勝てない、動きの速さが違いすぎるからだ。距離を取られたら負けしかなく、勝てるのは最接近距離のみ。
相手が再び袈裟切りに来た。僕はそれを素早く右に弾き、相手の体を流そうとする。しかし相手の筋力などは異常な強さをしており、まったく流される事もなく態勢を整えると、切り返す形で突いてきた。
チャンスはここしかない。僕は棒を縦に立てつつ踏み込み、棒から手を離す。相手はすぐに僕が手を離したのを理解したが、何故手を離したかは理解出来ないのだろう、驚いた顔をしている。
僕は素早く接近し、右手を喉輪、左手で相手の右肩を掴んで大外刈り。足を掬って投げると同時に、喉輪の手で地面に叩きつけた。喉が絞められた挙句に後頭部が地面に直撃したのだ、相手はダブルで悶絶している。
僕はすぐに動き、相手をうつ伏せにしつつ首に右腕を回して絞めていく。更に右の手で左腕の肘の上を持ち、左手で相手の後頭部を前に押す。右腕と左腕で首を絞めつつ、足で相手の胴と腕を挟んで締め上げロックした。後は全力の【身体強化】で絞め落とすだけだ。
「あ、ぐ……げ、……がぁ! ……ぐぅ!!」
「ふぬ! ぐ、くそぉ………負けるかぁ!!」
首が絞まっていて抜け出したい相手と、首を絞めて落としたい僕の力比べだ。本来なら簡単に外せるのだろうが、こんな攻撃はおそらく受けた事がないのだろう、どうやって外していいのか分からないらしい。それと背後から乗りかかってくる相手に対抗する方法も知らないようだ。
このままなら勝てる! そう思った矢先、僕は意味不明な力で弾き飛ばされた。吹き飛んで体が痛いが、慌てて顔を上げると3対6枚の翼が見えた。それが一瞬で近付いてきて……何故か横から蹴り飛ばされ飛んでいく。
ズドン! ………ドゴォンッ!!!!
凄い音がして吹き飛んでいき、木に叩きつけられたけど大丈夫だろうか? そう思ったら、起き上がりつつ凄い怒りを撒き散らし始めた。
「大天使様!! いったい何をなさるのですか!!!」
「天使の力を使って何をしているのです。この戦いでは天使の力を使ってはならぬと言った筈ですよ?」
「あっ………」
「気付きましたね。天使の力を使った時点で貴女の負けです。負けた貴女は………そうですね、こうしましょう」
その時、キャスティと僕の足下に魔法陣が出現。それは線で繋がりながら、最終的にピンク色の光がお腹に定着した。慌ててキャスティは確認し、大声を上げる。
「だ、大天使様!! 何故私が所有紋を付けられるのですか!? おかしいです! 理不尽です!! そのうえ天使の力が使えませんし、武器も何もかもが無くなってます!!」
「その所有紋にはある細工をしました。貴女の力を封印し、そこの魔人が強くなる毎に少しずつ力を取り戻すようにしてあります。力があるからこそ相手を見下した挙句、足を掬われるのです。少しは謙虚さを取り戻しなさい」
「そ、そんなぁ~」
「まあ、高がその程度のレベルの魔人に負けたのだ。圧倒的に格上であった筈なのにな。それならば仕置きを受けても仕方あるまい。【傲慢】の悪魔ほどではないが、天使が驕ってどうするというのだ、情けないとは思わんのか」
「うっ……」
「という事で、そこな愚か者を宜しくお願いします。貴女も所有者の役に立つようになさい。では私はこれで」
「まあ、良い形に落ち着いたと思おう。そもそも暴れてもいない、揉め事も起こしていない【色欲】を襲いにきた時点で話にならんしな」
「うぐ………」
そう言って大天使と大悪魔は消えていった。残ったのは力を封印されて強くもない元天使と、それを見てニヤニヤしている元悪魔だけだ。いい加減疲れてきたので、僕は師匠に一言伝えてからバイゼル山へ行く事に。
トモエと一緒に転移魔法陣に乗り、バイゼル山へ行ってユウヤと合流するんだけど、ユウヤはキャスティを見て変な顔をしている。
「ようコトブキ、今日は遅かっ………この人はいったい誰なんだ? 何か雰囲気悪いっていうか、どよーんとしてるんだけど」
「彼女はキャスティ。【純潔】の……元天使? 何故か今日の朝に襲来してきて僕と戦う事になり、調子に乗って様子見してたら、僕に投げられて首を絞められてあわや落ちかけた人? 天使?」
「人、というか人間種です。正しくは………ハーフラミアーですけど」
「えっ!? あんた天使の星の天使なのにハーフラミアーだったの!? ラミアーっていえば私達サキュバスと互角なぐらいの淫蕩な種族じゃないの!! だからデカい乳とエロい体してるのねー……」
「それを言わないで下さい!! ハーフラミアーだからこそ、私は徹底的に性を断ってきました。それを大天使様に褒められ、そこから長きに渡る修行を経て、私は天使となったのです。ラミアーの淫蕩さは私にはありません!!」
「無いって言ったって、あんた伴侶が出来たらヤりまくる予定だったんでしょ? 十分に淫蕩じゃん」
「そんな事はありませんー!! 旦那様となる方の前ならどれだけ乱れても、私は純潔であって淫蕩ではないんですよ!! 貴女と一緒にしないで下さい!!」
「でもそれってさー、言い換えれば旦那の前なら淫乱になるって言ってるようなもんじゃん。ラミアーの淫蕩さをまったく隠せてないけど? 1人に向くか、多人数に向くかの違いだけでしょうに」
「それが【純潔】なんです!! 貴女みたいに不特定多数と関係を持つような【色欲】と一緒にしないで下さい!!」
「淫乱な事には変わりないんだから、そんなのどっちでもいいと思うんだけどねー」
「違いますー!! とっても大事な事なんですー!!」
いったい何の言い合いをしているのか知らないが、僕達は鉱床を掘って鉱石をゲットしている。キャスティは封印されていても強いのか、【光魔法】で敵をボコボコにして倒しているので問題なし。ラスティアも【闇魔法】を使ってる。
2人は五月蝿いものの寄ってきている魔物も返り討ちにしているので、僕達は黙らせる事はせず諦める事にした。文句言っても仕方ないし、ある程度騒がせてスッキリしないと落ち着かないだろう。言いたい事はお互いに沢山あるみたいだし。
3ヶ所の鉱床を回り僕達は一旦師匠の家に戻る。何故なら今日は遅かった所為で既に昼食の時間なんだ。師匠の家に戻った僕達はファルに手伝いに行かせ、僕は集中して精錬する事にした。何故かトモエも頼んできたけど。
「銅を取り出しているのですか? いったい何故そのような事を?」
「コトブキは錬金術師なのよ、なので修行の為ね。それなりの期間は石とか木しか使ってなかったけど、最近は青銅とか鉄にも手を出し始めたの。まだあんまり上手くなくて納得していないみたいだけど」
「それはそうでしょう。素材の特性を掴んで物を作り出していくには、何度も試行錯誤を重ねないと駄目ですし、そうしないと上達しません。私など今までどれほどの種を駄目にしてきたか分かりませんよ」
「種?」
「ああ。えっとコトブキと呼びますよ? 私はファーマーでしてね。元々からそうなのですが、天使の修行をする時にも自給自足に近い事をしていたのです。もちろん1人ではどうにもならないので、町に行ったり村に行ったりしていましたが」
「ハーフラミアーで私よりムチムチなのにファーマーとか凄いわね。でもよく考えたら地母神っていう大地の女神は大抵がムチムチだし、むしろ大地に関わるとそうなっていくのかしら?」
「違います!! というか貴女までそういうこ………貴女もなかなかの体をしていますね? 何でしょう、これはこれで負ける訳にはいかないという使命感が湧いてくるのですが」
何やってんだろうね? この姦しい3人は。




